05 ,2009
翠滴 3 秋雨 1 (12)
>
マンションに帰り、寝ている和輝の服を着替えさせベッドに寝かせた頃、雨が降り出した。
バルコニーの立ち上がりが透明の強化ガラスのおかげで、眼下に広がる公園が暗い水を湛えた湖の水面のようにも見える。時折、風で煽られた木々の隙間から公園のエクステリアライトの光がチラチラと見えた。
ちょうどその時、FAXの受信音が鳴り一枚の紙を吐き出した。
ヘッダーには、知り合いの法律事務所の名前が印字されている。
用紙には由利との離婚が成立した旨が記されていた。
由利のことは、中学のときから知ってはいた。
何年のときだったか、一年間だけ同じクラスになったことがあった。
地味で目立たない女だったが、成績だけは意外なくらい良かった。頭に残る上原 由利の印象はその程度で、派手な女や年上の女にばかり目を奪われていた俺の頭の中には他大勢以下の上原の存在なんか、米粒ほどもなかった。
高校一年の夏、中学から付き合っていた女との間に妊娠騒ぎが持ち上がり、互いの学校や親の間に激震が走った。
その時の俺は、その妊娠騒ぎにやっぱり避妊しないと妊娠はするんだな、などと妙に納得しただけで、だた冷めた気分で事の流れを見ていた。
結婚するなら、それもまたアリかとも思い、結婚でもすれば、つまらない毎日が変るかもしれないと不毛でバカバカしい期待さえした。
だが、俺の親からすると”家の格”が瀬尾の家より格段劣る相手方には納得がいかなかったらしく、相手の女の素行を探偵やおおっぴらにには人に言えない手段をを使って、徹底的に調べ上げた。
結果、相手の女には俺のほかに自分の学校の中でも二股をかけて交際している男がおり、誰の子供かは定かにすることが出来ない有様だった。
妊娠の嫌疑は灰色のまま晴れたものの結局、素行の悪さが学校にもばれて転校を余儀なく強いられる事となった。
噂も2学期から転校して通い始めた隣市の高校までは及ばない。また新しい女でも見つけて適当にやろうと思っていた矢先に、享一に出会った。
付き合い始めた女の水着姿でも見ようと、室内プールの水泳部の練習を見に行った時、目の前で、すらりとした細身な体が綺麗なフォームで青い水の中に飛び込んだ。
たったコンマ数秒だったかもしれない。
水飛沫を上げて塩素臭い水に呑み込まれる前の、躍動する肢体が網膜に焼きついた。競泳用の水着は身体の最小限の部分しか隠していない。飛び込んだのが男であることは一目瞭然だった。
男は水を掻き分け水泳の手本のようなフォームでターンし戻ってくる。階段状になった観客席に座り、男を眺めた。目が離せなくなっていた。2往復を泳ぎ切り、タイムを告げられたそいつは、嬉しそうにガッツポーズを決める。
ゴーグルを外した水から上がってきたその顔に、あ・・・と思う。
同じクラスの、時見 享一だった。
いつもは黒縁の冴えない眼鏡をかけている。大人しめで目立たない。席は近かったが、話したこともなかった。
度入りのゴーグルを外したせいか、急に視界が悪くなったらしく目を瞠って、話しかける友人の顔を穴が開くほどに見詰めている。見詰められている奴が首まで赤くなるのが、自分の座っている位置からも見て取れた。その光景に胸の中が奇妙な感覚に締め付けられるのを感じた。
その時の不可解な感覚が何であったのか。興味が湧いて、次の日から何かと享一に近付き徐々に距離を縮めた。
享一の周りには、転校してきて間もないうちに浮名を流し、成績上位に食い込んだ新参者を警戒するものもいたが、持ち前の人あたりのよさでカバーし、我こそが享一の親友だと自負していた奴からその座を奪い取った。
しかし、当の享一はそんなテリトリーの奪い合いには気付く風でもなく、今までと変らず誰とでもそつなく付き合った。一年の終わりには、時見の親友は瀬尾だと周りが認識するまでに漕ぎ着けた。
その頃になると俺は、もう享一に夢中になって周りの女共への興味も失せていた。
興味本位で、男と付き合ったりやったりしたことはあったが、自分がまさか本気で男に入れ込むようになるとは思っておらず、一番驚いたのは自分かも知れなかった。
そして、自覚すると共に苦しみも訪れた。毎夜、享一の水着姿を思い浮かべて自分を慰める。
享一に向かう欲望の捌け口を求めて、前より派手にいろんな女と遊んだ。
病気さえ気をつけていれば、後は何の心配も要らなかった。享一や学校に知られてはと思い、前回の教訓を生かして校内や近くの女子高の女には手を出さないようにした。
大学も、親が勧める東京の有名私大ではなく、享一が受けるといった地元の国立大に決めた。享一は目立たない割に高校の時から結構モテて、そこそこの交際は有ったが長続きすることはなかった。俺がいたから。
享一に女が出来て、相手の女に割く時間が増えると、その女を誘惑して捨てた。
上原 由利もはじめはそうするつもりだった。中学のときから俺のことを知っていた由利は、俺が声を掛けたとき本当は昔から好きだったと告白し、あっけないくらい簡単に誘いに乗ってきた。
由利に惚れきっていた享一と偽りの気持ちで付き合い、あっさり裏切った由利。自分のことは棚に上げ、許せないと憎んだ。適当に弄んで傷つけ、容赦なく捨てる気でいた。
由利が妊娠を告げるその瞬間までは。
<< ←前話 / 次話→>>
翠滴 1 →
翠滴 2 →
マンションに帰り、寝ている和輝の服を着替えさせベッドに寝かせた頃、雨が降り出した。
バルコニーの立ち上がりが透明の強化ガラスのおかげで、眼下に広がる公園が暗い水を湛えた湖の水面のようにも見える。時折、風で煽られた木々の隙間から公園のエクステリアライトの光がチラチラと見えた。
ちょうどその時、FAXの受信音が鳴り一枚の紙を吐き出した。
ヘッダーには、知り合いの法律事務所の名前が印字されている。
用紙には由利との離婚が成立した旨が記されていた。
由利のことは、中学のときから知ってはいた。
何年のときだったか、一年間だけ同じクラスになったことがあった。
地味で目立たない女だったが、成績だけは意外なくらい良かった。頭に残る上原 由利の印象はその程度で、派手な女や年上の女にばかり目を奪われていた俺の頭の中には他大勢以下の上原の存在なんか、米粒ほどもなかった。
高校一年の夏、中学から付き合っていた女との間に妊娠騒ぎが持ち上がり、互いの学校や親の間に激震が走った。
その時の俺は、その妊娠騒ぎにやっぱり避妊しないと妊娠はするんだな、などと妙に納得しただけで、だた冷めた気分で事の流れを見ていた。
結婚するなら、それもまたアリかとも思い、結婚でもすれば、つまらない毎日が変るかもしれないと不毛でバカバカしい期待さえした。
だが、俺の親からすると”家の格”が瀬尾の家より格段劣る相手方には納得がいかなかったらしく、相手の女の素行を探偵やおおっぴらにには人に言えない手段をを使って、徹底的に調べ上げた。
結果、相手の女には俺のほかに自分の学校の中でも二股をかけて交際している男がおり、誰の子供かは定かにすることが出来ない有様だった。
妊娠の嫌疑は灰色のまま晴れたものの結局、素行の悪さが学校にもばれて転校を余儀なく強いられる事となった。
噂も2学期から転校して通い始めた隣市の高校までは及ばない。また新しい女でも見つけて適当にやろうと思っていた矢先に、享一に出会った。
付き合い始めた女の水着姿でも見ようと、室内プールの水泳部の練習を見に行った時、目の前で、すらりとした細身な体が綺麗なフォームで青い水の中に飛び込んだ。
たったコンマ数秒だったかもしれない。
水飛沫を上げて塩素臭い水に呑み込まれる前の、躍動する肢体が網膜に焼きついた。競泳用の水着は身体の最小限の部分しか隠していない。飛び込んだのが男であることは一目瞭然だった。
男は水を掻き分け水泳の手本のようなフォームでターンし戻ってくる。階段状になった観客席に座り、男を眺めた。目が離せなくなっていた。2往復を泳ぎ切り、タイムを告げられたそいつは、嬉しそうにガッツポーズを決める。
ゴーグルを外した水から上がってきたその顔に、あ・・・と思う。
同じクラスの、時見 享一だった。
いつもは黒縁の冴えない眼鏡をかけている。大人しめで目立たない。席は近かったが、話したこともなかった。
度入りのゴーグルを外したせいか、急に視界が悪くなったらしく目を瞠って、話しかける友人の顔を穴が開くほどに見詰めている。見詰められている奴が首まで赤くなるのが、自分の座っている位置からも見て取れた。その光景に胸の中が奇妙な感覚に締め付けられるのを感じた。
その時の不可解な感覚が何であったのか。興味が湧いて、次の日から何かと享一に近付き徐々に距離を縮めた。
享一の周りには、転校してきて間もないうちに浮名を流し、成績上位に食い込んだ新参者を警戒するものもいたが、持ち前の人あたりのよさでカバーし、我こそが享一の親友だと自負していた奴からその座を奪い取った。
しかし、当の享一はそんなテリトリーの奪い合いには気付く風でもなく、今までと変らず誰とでもそつなく付き合った。一年の終わりには、時見の親友は瀬尾だと周りが認識するまでに漕ぎ着けた。
その頃になると俺は、もう享一に夢中になって周りの女共への興味も失せていた。
興味本位で、男と付き合ったりやったりしたことはあったが、自分がまさか本気で男に入れ込むようになるとは思っておらず、一番驚いたのは自分かも知れなかった。
そして、自覚すると共に苦しみも訪れた。毎夜、享一の水着姿を思い浮かべて自分を慰める。
享一に向かう欲望の捌け口を求めて、前より派手にいろんな女と遊んだ。
病気さえ気をつけていれば、後は何の心配も要らなかった。享一や学校に知られてはと思い、前回の教訓を生かして校内や近くの女子高の女には手を出さないようにした。
大学も、親が勧める東京の有名私大ではなく、享一が受けるといった地元の国立大に決めた。享一は目立たない割に高校の時から結構モテて、そこそこの交際は有ったが長続きすることはなかった。俺がいたから。
享一に女が出来て、相手の女に割く時間が増えると、その女を誘惑して捨てた。
上原 由利もはじめはそうするつもりだった。中学のときから俺のことを知っていた由利は、俺が声を掛けたとき本当は昔から好きだったと告白し、あっけないくらい簡単に誘いに乗ってきた。
由利に惚れきっていた享一と偽りの気持ちで付き合い、あっさり裏切った由利。自分のことは棚に上げ、許せないと憎んだ。適当に弄んで傷つけ、容赦なく捨てる気でいた。
由利が妊娠を告げるその瞬間までは。
<< ←前話 / 次話→>>
翠滴 1 →
翠滴 2 →
□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
お願いです!投石だけはご勘弁ください。
イタイ内容ですみません。本当にBL(ML)か?と問いたくなるほど萌えがない。
しかも、予約投稿また失敗しました。明日の日付になっていた・・・( ̄□ ̄;)
とりあえず、UP し直します(二日連続・・凹
ブログ拍手コメントのお返事は、サイトの”もんもんもん”の
ブログ拍手コメ・メールのお返事からか、もしくは*こちら*から

↑
続き書いてもいいよ~♪
という奇特なかたはポチお願いします。
お願いです!投石だけはご勘弁ください。
イタイ内容ですみません。本当にBL(ML)か?と問いたくなるほど萌えがない。
しかも、予約投稿また失敗しました。明日の日付になっていた・・・( ̄□ ̄;)
とりあえず、UP し直します(二日連続・・凹
ブログ拍手コメントのお返事は、サイトの”もんもんもん”の
ブログ拍手コメ・メールのお返事からか、もしくは*こちら*から

↑
続き書いてもいいよ~♪
という奇特なかたはポチお願いします。
予想を裏切らない歪みっぷりです( ̄ー ̄)ニヤリッ
はっニヤリとかしてる場合ではなかった(汗)これから享ちゃんがまた大変なことになるというのに..
享ちゃんゴメン( ̄ー ̄)ニヤリッ(←だからっ)
予約投稿って、やり直しきかないの?
この回がランキングに反映してないのですが。
何もわからないのでアレなんですけれど(汗)