05 ,2009
翠滴 3 交差 4 (11)
暗く広いベッドの中、息が上がり、腕の中のしなやかな肢体が酸欠の魚のように喘ぐ。周の容赦ない攻めに感じすぎる躯が悲鳴をあげ、その癖、与えられる全ての快感を呑み込もうと貪欲にうねる。
周が動く度に組み敷かれた躯が切なげな声を上げ悶えた。何度も情欲の証を放ち、脊髄が震えるほど感じ、自分を狂わせる波から逃れようとシーツを掴み、無意識のうちに周の楔を銜え込んだまま躯をずり上げ逃れようとしている。周は官能に震える上腕を掴み引き戻すと、享一を抱き上げ自分の上に落とした。自重で最奥を衝かれ仰け反る。その、肩甲骨や耳朶に唇をあてがい啄ばみ、歯をたてを煽っていく。
「あ・・・・あぁ!アマ・・・ネ・・深い、ダメだ・・・う、動かないで・・・あ・・・・あ・・・っ」
「うっ・・・く」
享一の躯が、弓なりのまま硬直した。享一の内部が蠢き、絹のごとき内壁が周を道連れに、忘我の果てへと連れ去ろうとする。上を向き見開かれた瞳からは快感に涙が毀れこめかみを伝い耳朶から滴って、欲情に煽られ熱を持った周の肌にも伝い落ちた。
腕の中の躯が断末魔の声と共に、ビクリと痙攣し周の胸に後ろ向きのまま倒れ込んできた。その躯を受け止め、意識を飛ばし弛緩した肢体を抱きしめた後、横たえる。
もともと、感度のよい享一の躯だが、今夜の享一は何時にも増して周を感じていた。
もしかしたら、感じすぎて辛いくらいだったかもしれない。
何度も合わせた視線から、享一の全てで周を受け止めてくれるのを感じた。
『
周にとっても、享一を『キョウ』と呼ぶ瀬尾の出現には面食らうものがあった。享一の学友であった瀬尾 隆範は、享一に恋情を抱いていた筈だ。他にも気にかかることのある男だったが、享一を神前のもとから連れ出した日にホテルのロビーで見かけたのを最後に享一の周りにも現れることはなかった。
すでに、昨日となってしまった日は、享一にとっていろいろ考えさせ惑わせる一日だったに違いない。その一日の終わりに、享一は自分の許へ戻ってきたのだ。
そして、「会いたかった」 と、言った。その言葉を聴いた時、胸が歓喜に溢れ温かいものに満たされていった。
享一の額にかかる髪の一房を指で避けくちづけた。続いて目蓋に、そしてどんな時にも自分を誘う色っぽい唇に。
そして、ガキみたいに、項に証しを残したことを心の中で謝り小さく笑う。
絶対怒ってくると思っていたのに、いろんな事がありすぎて、怒りそびれたのだろう。
唇を笑った形のまま、もう一度、詫びのキスをする。
享一を起こさないように身体を起こす。だが、もし派手にベッドを軋ませたとしても享一は目覚めることはないだろう。それほど、深い眠りの底に身を横たえ息をしていないかのようにさえ見える。
照度を絞った背の低いフロアスタンドの灯りが享一の繊細さを滲ませる線の細い面(おもて)に柔らかな陰影を落とす。庄谷から戻ってから、享一が夜中にうなされることはなくなった。
冷たく清らかな、美味しい水
最後のフレーズを圭太が言うのは気に入らないが、的を得ていると思った。
人は、水がなければ生きてはいけない。
享一は本屋で瀬尾に会ったと言っていた。父親の本がいやでも目に入る本屋へは普段あまり行きたがらない享一が向かった訳は・・・
周は、乳白色のガラスのダイニングテーブルの上に、自分宛に送られた郵便物の中身を取り出して置いた。差出人は高波 清輝、 鳴雪(めいせつ)という雅号を持つ男だ。
一冊の本と和紙に流麗な筆跡でしたためられた手紙が添えてある。
手紙は、作家の加納 太一に請われ譲り渡した絵が高波の許可なく加納の新刊の表紙を飾った経緯と、モデルとなった周に申し訳ないという、詫びの内容だった。
高波は食えない男だ。好奇心も強い。齢80を迎え衰えるどころか中身はますます冴え、自分は「財界などとうに忘れた」「ただの隠居の身だ」と嘯きながら、その指ひとつで日本経済に揺さぶりを掛ける。
多くの人間の上に君臨し、トップに立つ人間の常としてそれなりに虚栄心も自己顕示欲も強い。
日本画家としても名を馳せる高波が、自分の絵が時代を代表するベストセラー作家の表紙を飾ると知っていて自分の絵を手放したとしても、何の不思議もない。
よりによって、渡った相手が享一の父親だったというのは、単なる偶然だろう。
高波は祝言で女装した享一を見て男だと看破したが、享一の背景ついては全く知らない。
よしんば知っていても、自分と関わりのない人間に悪意めいた悪戯をするような暇な男でもない。
だが、自分に対してはどうだろうか?高波は、周という人間を認め、可愛がってもいるが、周が困ることをするのも一興とする。
「クソ爺め」
眉間に険しい皺を寄せ、治まり切らない怒りを無理からに呑み込んだ苦々しい表情で自分に送られた初版本を睨みつける。
テーブルの上の光沢紙に印刷された絵の原画は、もう10年も前に見たきりだが、背後の紅蓮の炎はもっと壮絶な朱と紅で金の火の粉が飛び散っていた。
高波はこの絵を描くために、他の男に周を抱かせた。背後の焔は、あの時、抗うことも出来ず傀儡(くぐつ)となり翻弄されるしかなかった自分を焼く業火であった。
もし、享一が高波の描いた自分の絵を見たなら、嫌悪するのではないかと懸念していたが、享一の黒曜石の瞳からも、差し伸べられた頬に触れる指先からも溢れんばかりの思いやりと慈しみの気持ちが流れ込んできた。
享一は周の過去に触れようとしない。それは、蔑み忌むべき負の要素と捕らえているからなのではなく、その逆で周を気遣うあまり口に出せないでいる。
それが、享一と自分との薄い皮膜のような隔たりの要因となっていることは、周も気付いてはいたが、全てを知った時、享一は今のままでいてくれるのか。享一の事だ、衝撃を受けても表には出さず、望めば傍にいてくれるだろう。
だが哀れみを隠し、表面上を取り繕い無理して微笑ませるようなことを強いたりしたくはない。
美しく清らかな生命の水。その水をこの手で濁らせることになるなら・・・・
周は、封筒の中に手紙と本を戻すと、アイランドキッチンに組み込まれた蓋つきのゴミ箱に放り込んだ。
<< ←前話 / 次話→>>
翠滴 1 →
翠滴 2 →
□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
すみません!予約投稿、失敗しました。ただでさえ、ギリギリだったのに~~(滝汗
とりあえず、更新します!
ブログ拍手コメントのお返事は、サイトの”もんもんもん”の
ブログ拍手コメ・メールのお返事からか、もしくは*こちら*から

↑
続き書いてもいいよ~♪
という奇特なかたはポチお願いします。
すみません!予約投稿、失敗しました。ただでさえ、ギリギリだったのに~~(滝汗
とりあえず、更新します!
ブログ拍手コメントのお返事は、サイトの”もんもんもん”の
ブログ拍手コメ・メールのお返事からか、もしくは*こちら*から

↑
続き書いてもいいよ~♪
という奇特なかたはポチお願いします。
周さんを苦しめていた顧客の一人だったんですものね。うう。
『その水をこの手で濁らせることになるなら・・・』
な、なに?周さん、何を考えているの?享ちゃんは絶対周さんのせいで濁ったりしないんだよぉー(ノд-。)クスン
今回のエチシーンも素敵でした(。-_-。)ポッ