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紙魚

Author:紙魚
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Category: 翠滴 3 (全131話)

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翠滴 3 交差  1  (8)
「キョウ」
「・・・・瀬尾」
振り返った先にはさっきの子供を連れた背の高い男が立っていた。
「いや・・・驚いたな。こんなところでキョウと会うなんて」
「ああ、俺も・・・・驚いた」

 目の前に立つ男、瀬尾 隆典は、5年前 享一の恋人だった上原 由利に横恋慕し享一から奪っていった。いや、横恋慕うというのは正しくはないのかも知れない。あの時、由利はずっと瀬尾のことを好きだったと言ったのだ。享一の恋人だった由利は、享一に自分に妊娠を告げたその口で、子供の父親が瀬尾であることを告げたのだった。

 享一は少し前に自分が抱きあけた子供を、不思議な面持ちで眺めた。
子供が瀬尾の子であると聞く寸前まで、由利の腹の子を享一は自分の子だと信じ喜んだ。
今となっては、由利が浮気するに至った事に関しては、自分にも原因があったことなのだと理解できる。あの時の自分は、自分勝手な幸せの形に拘り過ぎて、由利を無理やりその中に填め込もうとしていた。

 同性である周を愛し、見えない枷から放たれて初めて見えてきたものがたくさんあった。5年前の自分はまだまだ未熟で、自分にも非があると認めながらも、2人のことを許せないでいた。
 蟠りのようなものが全然ないといえば嘘になるが、5年の月日が経つうちに、由利のことも、親友であった瀬尾のこともいつか心の底から祝福できる日が来ればよいと、そう思っていた。

「きみ、名前は?」
屈み目線を合わせて尋ねると透明度の高い澄んだ黒い瞳と見返してくる。

「瀬尾 和輝(かずき)」
「ふうん、和輝くんか、いい名前だね」
自分を見つめるつぶらな瞳は確かに由利に似ているような気もした。
「上原さんは?」

 人妻になった自分のもと恋人を、なんと呼んでいいか分からず、呼び捨てにするのもどうと婚姻前の苗字で呼ぶ。こうやって、以前付き合っていた恋人を苗字で呼ぶと、急に空々しく感じ、あの頃に関わるもの全てがスピードを上げて過去のものへと変化し色褪せた気がして、ほんの少しの寂しさと自分の中で完全なる“過去”になった安堵感のようなものを感じた。

「由利はまだ、NYにいる。運良くあっちの設計事務所に潜り込めたんで、もう少しNYで自分を試したいそうだ。」
「へえ、瀬尾たちはNYか、格好いいな。お前は、法律関係の仕事についているのか?」
「ああ、この近所の法律事務所だ。司法試験にも合格して弁護士をやっている」
「この若さで?流石、瀬尾だな。お前は高校の時から優秀だったからな」
「はは、キョウにそう言われると、なんだかくすぐったいな」

 なんの衒いもなく、口から出た賞賛の言葉に、瀬尾は本当に嬉しそうに笑った。
 それが、享一にも瀬尾を親友だと思っていた頃の気安さや心地よさを思い出させて、享一もつられて笑う。和輝も、新しく買ってもらったのか絵本の包みを抱えながらにこにこしている。
 一度は絶縁してしまった瀬尾との穏やかな邂逅に、自分の中に残っていた小さな塊が解けて消えていく。

「キョウ、よかったらこれから一緒に飯食わないか? ちょうど、これから和輝と行くところだったんだ。それに・・・」
「それに?、なんだ?」
「俺は、一度キョウに会って、ちゃんと謝りたいと思ってた・・・」
 自分を裏切ったとばかり思っていた瀬尾は、実はこの5年の間、自分に謝りたいと思っていてくれたのだと知り一気に親友だった時間に戻ったような気がした。

「瀬尾、俺はもうお前たちを恨んでなんかいないし、俺こそ、瀬尾と由利に会えたら、ちゃんと祝福しようって思っていたんだ」

 こんな言葉を自然と毀れるのも、周というかけがえのないパートナーを得ることが出来たからなのだと、実感する。

「キョウ、一緒にご飯食べるの?やったぁ!」
 幼い和輝にいきなり呼び捨てにされ、唖然とするが“おじさん”よりは幾分ましかと、和輝に腕を取られてぶんぶん揺らされるに任せた。代わりに瀬尾が詫びを入れてきた。

「すまん、向こうで変な癖がついちまったみたいで、追々直していかなくちゃならないんだけどな」
「まあ、構わないよ。晩飯に行くんだろう、どこへ行くか決めているのか? 俺も、久しぶりに瀬尾と話したいし、お言葉に甘えて一緒させてもらうことにするよ」
 享一の返事を聞いた瀬尾の顔が、「よし、決まりだな」と嬉しそうに微笑んだ。

「ね、こっち、こっち!」
 享一の手を和輝はどんどん引っ張っていく。
 一人遅れて歩き出した瀬尾は、享一が慌てて戻した本にさり気なく目を落とすと、片眉を上げ口の端を歪めて嗤った。
「これはまた、永邨 周に高波 清輝、加納 太一とは。三者揃い踏みってところだな」
 そして顔を上げ、仮面を付け替えるように穏やかな友人の表情を創ると、エレベーターに向かった2人を追いかけた。じゃれ合う2人の後姿を見る目には、一瞬冷ややかな影が浮かぶが、追いつく頃にはそれも消えうせた。

「和輝、そっちのエレベーターじゃなくて、あっちのに乗ろう」
「えー!パパ、こっちがいい。ぼく、お外が見たいもん」
「和輝、このお兄ちゃんはね、高いところがダメなんだ。だから窓はないけど、あっちので我慢しような」
「キョウちゃん、高いの怖いの?」
 呼び捨てから『ちゃん』がついた。幼い和輝に気遣うように見上げられ、微妙に哀れむ瞳に情けなくなり、声のトーンを落として小声で瀬尾に講義した。

「瀬尾、いいって。子供の前で余計なこと言うなよ。恥ずかしい」
「ん?直ったのか?高所恐怖症」
「や、まだだけど・・・さ。まったく、つまらない事よく覚えてんな」

 瀬尾は、参ったなと呟いて閉口する享一の肩を抱くように手を回すと和輝の手を取り、楽しそうに笑いながら歩き出した。



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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ

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Comments

ウガーー( ゚-゚)( ゚ロ゚)(( ロ゚)゚((( ロ)~゚ ゚
せ、瀬尾さん…あんたってヒトは…黒いよ、黒い尻尾が見えるよ…ブルブル
さり気に肩を抱くなー!消毒\(゜ロ\)(/ロ゜)/消毒

何だかなぁ~亨たん素直に騙され(っていうと御幣有り?)て、掌で転がされそうだわ…怖いよぉ(;つД`)

息子はやっぱり可愛い( ´艸`)ムププ♪
小学校入ると生意気ちゃんになっちゃうのよねぇ~未就学児が一番めんこい(可愛い)わぁ♪
ガルルルル~
享一は今が幸せだから瀬尾達のことも許せるようになったってことかな。

でも、その原因になった子供との対面ていうのは複雑な感じ。

瀬尾の高所恐怖症を気遣うさりげない優しさが、わざとらしいーと思ったのはワタシだけでしょうか。
「これはまた、永邨 周に・・・」って台詞、弱った享一をまんまと手に入れようという腹黒さがちらついてるし。策略家の罠にはまるなよ享一クン。
ホントにもう。
瀬尾っちには困りました..(;-_-) =3 フゥ
彼の狂人神前と互角な勢いじゃないですか?ある意味。(私の妄想で勝手に語ってます。スイマセンッ)
やり方は違うけどかなりエグイと思う。

人を愛するってなんなんだろー。(知るかーっ)一応自分でツッコんでおきました。

なんか、グルグルしちゃっておかしなコメごめんなさい!ぺこ <(_ _)>
Re: ウガーー( ゚-゚)( ゚ロ゚)(( ロ゚)゚((( ロ)~゚ ゚
 柚子季さま、おはようございます!!

 遅レス申し訳ないです(汗
 身内で不幸があり、ちょっと時間的にもゆとりがなくって・・・・すみません~m(_ _)m

> せ、瀬尾さん…あんたってヒトは…黒いよ、黒い尻尾が見えるよ…ブルブル
> さり気に肩を抱くなー!消毒\(゜ロ\)(/ロ゜)/消毒
 もと、親友の強みで、何気に強引・・・きっと、決別の前からアレコレかこつけて
 ベタベタと触っていたんだと思います。
  享一にとって、瀬尾に性的な対象ではないので(アララ)至極、普通で自然な行為で
 何も感じていないんですけど、その分この先はきっと気持ちいいくらい素直に騙されて
 くれると・・・(lll; ゚Д゚)   

> 息子はやっぱり可愛い( ´艸`)ムププ♪
> 小学校入ると生意気ちゃんになっちゃうのよねぇ~未就学児が一番めんこい(可愛い)わぁ♪
 めんこい(この言い方がカワイイ♪)
 そうそう、子供って小学校に入ると、幼児から子供になっちゃうんですよね。
 女の子なんてませるの早いし・・・でも男の子は、生意気言いながらも甘えんぼう・・・
 カズキも本当は由利が恋しいはず・・・と思いながら書いていると、なんか切ないです。

 コメント&ご訪問、感謝です♪
Re: ガルルルル~
 甲斐さま、いらっしゃいませ!!

 遅レス、ごめんなさいです!

> 享一は今が幸せだから瀬尾達のことも許せるようになったってことかな。
 それはありますよね。もし、享一が過去にとらわれ寂しい日々を送っていたら
 2人のことを祝福できるようなゆとりは生まれなかったと思います。
>
> でも、その原因になった子供との対面ていうのは複雑な感じ。
  由利のお腹も目立ってなかったし、生まれた赤ちゃんも見てはいないので
 実感がなく、今のところ空間から湧いて出たような感覚なのだと思います。
>
> 瀬尾の高所恐怖症を気遣うさりげない優しさが、わざとらしいーと思ったのはワタシだけでしょうか。
  ププ、気付いていただけましたか?
 瀬尾っち、ポイントUP狙ってます。享一から見た瀬尾は昔から「気遣いの出来るいい奴」
 瀬尾から見た享一はある意味「チョロイ奴」・・(なんだ、この対比は?

> 「これはまた、永邨 周に・・・」って台詞、弱った享一をまんまと手に入れようという腹黒さがちらついてるし。策略家の罠にはまるなよ享一クン。
 アメリカにいる間に徹底的に周の身辺を調べた瀬尾ですが、この切り札を
 どうやって使うのでしょうか?どうする?私←

 ん~、この先どうしようか迷いが出てきました。
 コメント&ご訪問、感謝で~す♪
 
Re: ホントにもう。
 シマシマ猫さま、おはようございます。

> 瀬尾っちには困りました..(;-_-) =3 フゥ
> 彼の狂人神前と互角な勢いじゃないですか?ある意味。(私の妄想で勝手に語ってます。スイマセンッ)
 はい、困った奴です。
 狂人ぶりが表に出ていない分、神前より性質が悪いかも(いや、神前ほどイった人では
 ないんですけど、その筈なんですけど・・・・。。

> やり方は違うけどかなりエグイと思う。
 このずっと先、吐き気のするようなシーンが出てくる予定なんですけど、自分でも
 頭で起こすとゲロっときそうになるので、変更するかどうか思案中です。
>
> 人を愛するってなんなんだろー。(知るかーっ)一応自分でツッコんでおきました。
 セルフ突っ込み・・・それは、関西人の技です(笑)
 人を愛するってなんなんだろう?個々によって答えは違うかもしれないし
 大きく括ると模範的な回答が出てきそうです。永遠のテーマなんですね、きっと。
 でも、我欲のみを追求する心は、決して愛にはなり得はない気がします。
>
> なんか、グルグルしちゃっておかしなコメごめんなさい!ぺこ <(_ _)>
  とんでもない!こうやって、文字を書いて何かを発信するからには、時々立ち止まって
 考えなければいけないと思いつつも、流し気味だった自分に改めて気がつきました。
 とても良い、刺激になりました。
 シマ猫ちゃん、ほんとうにいつもありがとうございます(*´∀`)

 感謝です♪
享一~
だまされる、だまされる~~~~
瀬尾のいい友人仮面にだまされる~!!
「ちゃんと謝りたいと思ってた」なんていってるし。
じつに嘘くさい(笑)
ここらあたりは享一視線で描写されているので、このあと瀬尾がどんなに態度を豹変させたとしても、紙魚さんは嘘を書いたことにはならない。

……と、瀬尾が態度を豹変させるということを前提にしていってますが、これが見当違いだったら笑われちゃいますね。
まだそうそう牙はむかないかしら瀬尾は。

瀬尾、がんばれ!!

あたしはだれの味方だ。

(ゆがんだひとの味方です)
(もしくは、愚かにも追いつめられたひとの味方)
Re: 享一~
 7がつさま、こちらにも♪

> 「ちゃんと謝りたいと思ってた」なんていってるし。
> じつに嘘くさい(笑)
 ・(笑)~~!享一はチョロイ奴なので、コロッと瀬尾の思う壺にはまってますv

> ここらあたりは享一視線で描写されているので、このあと瀬尾がどんなに態度を豹変させたとしても、紙魚さんは嘘を書いたことにはならない。
 ・3人称ならではですよね。はい、私は嘘を吐いた事にはなりません(笑)

> ……と、瀬尾が態度を豹変させるということを前提にしていってますが、これが見当違いだったら笑われちゃいますね。
> まだそうそう牙はむかないかしら瀬尾は。
 ・まだまだ先ですね。瀬尾は只今、懐柔作戦実行中です♪

> 瀬尾、がんばれ!!
 あ、そうきますか(笑)

> あたしはだれの味方だ。
> (ゆがんだひとの味方です)・・・・・・・←鳴海?
> (もしくは、愚かにも追いつめられたひとの味方)・・・・・・・←享一ですね。

 某、書き手さまが、鳴海と享一を参考にした新作を考えていられるみたいです♪
 こちらも楽しみです♪

 コメント、ありがとうございます。

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