10 ,2008
翠滴 1-4 ポートレート 2 (11)
←戻る 進む→
珍しい幾何学模様の欄間を紙に写し取ろうと、脚立に上がり作業する。
背中や項に汗が流れてきて不快だ。重要文化財に指定されているせいか、
この建物にはエアコンがない。旧式の扇風機が普段人がいる部屋にあるだけだ。
この暑さの中でも美操と芽乃は着物を着ていた。
さすがに麻の着物で涼しい色模様だが、まだ10代の二人の楚々とした居ずまいや
所作には脱帽ものだ。
姉妹の自分に対する揶揄いや、人を煙に巻くような態度には少しずつ馴れてきたが、
時々 目上を敬え!と叱ってやりたくなる。だが、そんな言葉を口にしようものなら、
笑いのネタにされるのがオチだということも、経験済みだ。
柳に風、暖簾に腕押し、ぬかに・・・・本当に閉口してしまう。
享一にも高校生の弟と妹がいるが、茅乃達と同じ高校生とはとても思えない程 おぼこい。双子達と較べると、サッカーやタレントに夢中な 弟や妹が幼くて、素朴に思えた。2人とも、享一にとって可愛い弟妹だ、多少垢抜けなくても今のまま素直でいて欲しいと願う。
茅乃達は黙っていれば、最高に麗しい姉妹なのに、と自分と同じ兄の立場である美貌の男の顔を思い浮かべた。
類稀な美貌の兄妹3人が並ぶと、それはもう華麗としか言い様のない 一幅の絵になってしまう。自分達 3兄弟とは、まるで住む世界の違う異次元の存在だとさえ思える。3人には特別な美の遺伝子が流れているとしか思えない。
美しすぎる遺影に目を遣ると、切ないまでに瑞々しい色香が漂ってくるような気がした。
3人兄妹の中でも周は男でありながら、滴るような艶やかさをもち、男特有の撓るような線の強さがその容貌に特別な色香を添える。たとえ、美しい双子の瞳が碧であっても、兄のような蠢惑的な薫りを放つ事は無いように思えた。
そして、もう一人・・・。
鳴海がガレージの方向へと庭先を横切って行った。
二十代後半の男が身に着けるには、高級そうなスーツをビシッと着こなし、相変わらず都会的な空気を醸し出している。背すじを伸して歩く姿は暑さに気付いていないのではないか?とさえ思われるくらい涼やかだ。
歩く度に軽く流した癖のない髪の毛がサラサラと揺れる
銀縁眼鏡の奥の怜悧な眼差しはいつも自分が仕える永邨家の人間に、とりわけ
周に向けられている。身長は180cmぐらいか、同じ位の身長の周と2人並ぶと
雑誌の表紙から飛出してきたようだ。
享一は、標準よりは‥と思っていた170cm半ばの身長も、ここではいらぬ
コンプレックスに変っててしまい、不公平感が募ってくる。
「ちぇっ、なんだよ この家は長身の美男美女限定かよ」独りごちた。
花嫁役はやっぱり、ミスキャストだと思う。出来ることなら、今でも撤回して貰いたい。
謂れの無いコンプレックスと来たるべき婚礼に溜息し、呟いた瞬間 身体が傾いだ。
脚立が足の下でグラグラと、身体の向きと逆方向に傾く。
手が前に伸びて、無意識に一番身近な物を掴もうとしたが、
指先の繊細な欄間の組細工が目に飛び込んで来て びくりと引っ込んだ。
「うわ…っ!」
覚悟を決めて落下するに任せた身体は宙に留まり いつまで経っても衝撃を
迎えることはない。
不思議に思い、咄嗟に閉じた瞳を開けると、碧の瞳が間近で自分を覗き込んでいた。
珍しい幾何学模様の欄間を紙に写し取ろうと、脚立に上がり作業する。
背中や項に汗が流れてきて不快だ。重要文化財に指定されているせいか、
この建物にはエアコンがない。旧式の扇風機が普段人がいる部屋にあるだけだ。
この暑さの中でも美操と芽乃は着物を着ていた。
さすがに麻の着物で涼しい色模様だが、まだ10代の二人の楚々とした居ずまいや
所作には脱帽ものだ。
姉妹の自分に対する揶揄いや、人を煙に巻くような態度には少しずつ馴れてきたが、
時々 目上を敬え!と叱ってやりたくなる。だが、そんな言葉を口にしようものなら、
笑いのネタにされるのがオチだということも、経験済みだ。
柳に風、暖簾に腕押し、ぬかに・・・・本当に閉口してしまう。
享一にも高校生の弟と妹がいるが、茅乃達と同じ高校生とはとても思えない程 おぼこい。双子達と較べると、サッカーやタレントに夢中な 弟や妹が幼くて、素朴に思えた。2人とも、享一にとって可愛い弟妹だ、多少垢抜けなくても今のまま素直でいて欲しいと願う。
茅乃達は黙っていれば、最高に麗しい姉妹なのに、と自分と同じ兄の立場である美貌の男の顔を思い浮かべた。
類稀な美貌の兄妹3人が並ぶと、それはもう華麗としか言い様のない 一幅の絵になってしまう。自分達 3兄弟とは、まるで住む世界の違う異次元の存在だとさえ思える。3人には特別な美の遺伝子が流れているとしか思えない。
美しすぎる遺影に目を遣ると、切ないまでに瑞々しい色香が漂ってくるような気がした。
3人兄妹の中でも周は男でありながら、滴るような艶やかさをもち、男特有の撓るような線の強さがその容貌に特別な色香を添える。たとえ、美しい双子の瞳が碧であっても、兄のような蠢惑的な薫りを放つ事は無いように思えた。
そして、もう一人・・・。
鳴海がガレージの方向へと庭先を横切って行った。
二十代後半の男が身に着けるには、高級そうなスーツをビシッと着こなし、相変わらず都会的な空気を醸し出している。背すじを伸して歩く姿は暑さに気付いていないのではないか?とさえ思われるくらい涼やかだ。
歩く度に軽く流した癖のない髪の毛がサラサラと揺れる
銀縁眼鏡の奥の怜悧な眼差しはいつも自分が仕える永邨家の人間に、とりわけ
周に向けられている。身長は180cmぐらいか、同じ位の身長の周と2人並ぶと
雑誌の表紙から飛出してきたようだ。
享一は、標準よりは‥と思っていた170cm半ばの身長も、ここではいらぬ
コンプレックスに変っててしまい、不公平感が募ってくる。
「ちぇっ、なんだよ この家は長身の美男美女限定かよ」独りごちた。
花嫁役はやっぱり、ミスキャストだと思う。出来ることなら、今でも撤回して貰いたい。
謂れの無いコンプレックスと来たるべき婚礼に溜息し、呟いた瞬間 身体が傾いだ。
脚立が足の下でグラグラと、身体の向きと逆方向に傾く。
手が前に伸びて、無意識に一番身近な物を掴もうとしたが、
指先の繊細な欄間の組細工が目に飛び込んで来て びくりと引っ込んだ。
「うわ…っ!」
覚悟を決めて落下するに任せた身体は宙に留まり いつまで経っても衝撃を
迎えることはない。
不思議に思い、咄嗟に閉じた瞳を開けると、碧の瞳が間近で自分を覗き込んでいた。
みどりとかむらさきとか、いろいろあっていいなあ異国の人。
日本人も黒、といったっていろいろな黒があるとはわかってますが、やっぱりつまんないですよね(笑)
みどりって、碧、とか緑とか、翠とかいいますよね。
ときに考えたりしませんか?
どうちがうんだろう……