BL・MLに関心の無い方 18歳以下の方はご遠慮くださいませ。大人の方の自己責任においてのみの閲覧を お願いします。


プロフィール

紙魚

Author:紙魚
近畿に生息中。
拙い文章ですが、お読み頂けましたら嬉しいです。


紙魚は著作権の放棄をしておりません。当サイトの文章及びイラストの無断転写はご遠慮ください。
Copyright (C) 2008 Shimi All rights reserved

*お知らせ*
長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
参加ランキング
FC2カウンター
*
検索フォーム
QRコード
QRコード
17

Category: 深海魚 (全31話 )

Tags: ---

Comment: 8  Trackback: 0

深海魚 25
 携帯を持つ手が怒りと後悔に震える。 

 わが目が信じられず、ぎこちない動きで静を振り返った圭太は驚愕と恐怖に瞠目した。
 砂浜に寝かせていた筈の静の姿は無く、波間をゆく白いシャツの背中に静の悲しみを知る。
 掌から抜け携帯が砂の上に落ちた。

「シズカーーーッ!!」
 叫びながら砂浜を走り、波を蹴り飛沫を上げながら追いかけた。
 圭太の呼びかけに、何も反応を示さない背中に、再び恐怖し焦りだす。
 腰の深さまで進んだ静の身体が急に深くなった海底にバランスを崩し、そのまま大きく傾いだ。糸の切れた操り人形のように、何の抵抗も無く海水の中に身体が崩れ落ちた。
「シズカッ!!」
 泳いで何とか追いついた圭太の腕が静の身体を掴まえ浅瀬へと引き寄せる。

「バカ!なにやってんだお前はっ」
 強く肩を揺さぶられ、緩慢に顔を向ける静の瞳には、感情というものが見えない。
 
「シズカ、シズカ! 俺がわかるか?」 鳶色の瞳は揺れながら、圭太の顔を見上げた。

「・・・・圭太さん?」
 無表情だった瞳の焦点がゆっくり結ばれていき、やがて大きく見開かれていく。
 瞳の中の怯えに圭太は後悔と愛おしさが渾然となり、胸が苦しくなる。
 静の視線が自分の腕を掴む圭太の掌にゆっくり落ちた。

「俺に・・・触らないでくれ、圭太さん」
 呟くような小さな声だが、波音に消される事も無くはっきり聞こえた。

「シズカ?」
「俺に、触るなーーっ!!」
 静が叫ぶと同時に乱雑に圭太の腕をもぎ離し、圭太から離れた。波の抵抗の中を身を翻し、さっきバランスを崩し倒れそうになった深みに向かおうとする。すぐに追いかけた圭太は再び捕まえた腕をねじり上げた。言葉にならない声を上げながら、なおも抵抗する静の身体を抱きこんだ。

「圭太さん、離して、離してくれ。俺は醜いから、汚れているから!
だから・・・だから洗うんだっ!離せーーっ!」
 暴れながら、静の声は絶叫に変わる。
 怒りと絶望に満ちた鳶色の瞳はぎらついた光を放ち、狂人のごとく震えた。

「俺は、汚い。穢れてる。俺は、オレは・・・・・!」 その頬が、鋭い音を立てて鳴った。
「落ち着け、シズカ!!」
 荒い息をつきながら、静は圭太を見つめた。今まで圭太に手を上げられた事は無かった。
 濡れそぼり、血の気を失った圭太の髪の毛や輪郭から海水が滴っている。

「お前は、どこも汚れてなんていないし、醜くもない! 薫や俺が大事にしてきたままのシズカだ。それなのに、お前は、お前の事が可愛くてしょうがない薫や俺を置いて、何処へ行く気だ?」
 トーンを落としても柔らかく張りのある声に、瞳の中の狂気が次第に鳴りを潜めていく。気付けば自分を強く抱きこんだ腕が小さく震えている。

「お前、一体 伊原と何があったの? メールにあった"アンフェア” って、何なんだ?」
 静の中に重い衝撃が走った。
「言えよ、シズカ。なんでこんな事になるんだ?お前は、伊原とちゃんと付き合ってたんじゃないのか?頼むから、俺にちゃんとわかるように説明してくれ」

 正気の戻った静の目が大きく見開き、深い絶望の色に染まった瞳を隠すように目蓋が落された。圭太は携帯を見たに違いない・・・静は、自分が携帯をどうしたのかすら思い出せなかった。
 だが、一番知られたくない圭太に知られてしまった。もう隠す価値のあるものなど、何も無い。

「伊原さんは、一晩寝たらシーラカンスの譲渡を考えてもいいって言ったんだ」 
「一晩って・・・・何言ってるんだ、お前は?」
 驚きと怒りで、圭太の目が吊り上る。
「なんで、あの店に拘る?よりによって伊原なんかの。バーなら、他にいくらだってあるだろう?」

 静の鳶色の瞳から、涙が零れ落ちた。
 伏せられていた瞳が、真っ直ぐに圭太を見る。
「俺があの店を離れられないのは、圭太さんが設計した店だからだ」

 陽光の差していた空はまた厚い雲に覆われ、灰色の雲が低く垂れ込めている。
 頬をぬくもりが通り過ぎては、またすぐ冷えていく。言葉にすれば全てが終わる。
 このまま、空が堕ちてくればいいと静は願う。

「好きなんだ。圭太さん」

 頬に触れた指先は冷え切って涙ほど温かくは無かったが、涙のようにすぐに去っては行かなかった。
 重なる唇は、色を失っているのにとても熱い。柔らかい熱に静はうっとりと目を閉じる。

「お前はどうして。こんなにボロボロになる前に、なぜ・・・・」

 圭太の声が、耳元で悔しげにつまった。
 自分のために圭太が泣いている。・・・・ああ、圭太さんが好きだ。
 冷え切った皮膚の下の体温が触れ合う肌を通じて互いを行き来する。
 唇には優しい熱がある。
 このぬくもりに包まれていられるなら、他には何もいらない。

 シーラカンスも、願いをかけた鬚でさえも。

 本当は、自分の身体はあのまま深い海に沈んでいて、深海を漂っているのかもしれない。
 夢ならそれでもいいから、このままもう少しこの時間が続いてはくれないだろうか?
 意識は波間を漂い、力を失くした静の身体は圭太の腕の中で崩れていった。

 




←前話          次話→ 

深海魚 1 から読む

■静×圭太 関連<SS> ― 願い ―

■河村 圭太 関連作 翠滴 2

□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
 
間に合った!!ヨシ!
 
   ブログ拍手コメントのお返事は、サイトの”もんもんもん”の
 ブログ拍手コメ・メールのお返事からか、もしくは*こちら*から


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

ポチしてただけると嬉しいです♪
 

テーマ : BL小説    ジャンル : 小説・文学

Comments

だーーービックリした!
ビックリしたビックリしたビックリしたーー!!
圭太と一緒になって心臓止まるかと思いましたよ!!!
またしーちゃんの姿が無くなってどうなったのかと…。
はぁ~~ドキドキしましたぁ(;´Д`)

そしてそして…さ、さり気にチッスしましたか、圭太さん?
キャーーー゜+.゜.(⊃Д`*)゜+.゜
目を覚ました時に、ちゃんと圭太も気持ちを伝えてあげて欲しいですね…ここまでボロボロになってしまったしーちゃんを救えるのは、圭太の愛しかない!
しっかりと教え込んであげてねぇ~圭太ぁ~~!

お兄ちゃんがこの事知ったら、とんでもない事になりそうですねぇ…メディア動かして伊原を抹殺しそうだ。
Re: だーーービックリした!
 柚子季さま、こんばんは♪

> ビックリしたビックリしたビックリしたーー!!
 スミマセン、スミマセン~~驚かせてしまいました~~(汗
 圭太が携帯に見入っている間にヨタヨタと海に舞い戻ってしまいました。タハハ・・

> そしてそして…さ、さり気にチッスしましたか、圭太さん?
 何気に、手が早い圭太でございます。
 というか、これが圭太のスタンダードなんですね(汗

> しっかりと教え込んであげてねぇ~圭太ぁ~~!
 それこそ、手取り足取り・・・・〇〇を取り、懇切丁寧に指導するのではないかと・・・

> お兄ちゃんがこの事知ったら、とんでもない事になりそうですねぇ…メディア動かして伊原を抹殺しそうだ。
 ぷぷ・・・伊原だけでなく、静に手を出した(まだ出してないけど)圭太も、きっと抹殺されてしまいますね♪他人には寛容ですけど、弟に関してはバカの付く過保護なので、バレると拙いですね。
 深海魚の次の連載が、全く思いつきません~~。みなさん、なんであんなにスパスパ次が考えられるのでしょう??う~ん・・・

 コメント&ご訪問、感謝です!!
嬉しくて・・嬉しくて・・・。
良かった・・良かったよぉ~!(涙)
うん・・うん・・。
目が覚めても、隣に圭太居てくれるよね?
すべてを受け入れてくれるよね?
・・うん。
はぁ~!
もう胸が一杯で、コメントになりません・・・。
うん、が多いいし・・。(爆)

遠回りしたけど、これからは二人で愛を築けますよね?

もう少しで完結ですか?
今回も、紙魚さまらしい素晴らしい作品でした!!
次回作も頑張ってくださいね~!(あっ!催促ではないですよん♪)
そうそう、私も次回作を考えている時は、かなりプレッシャーを感じます・・。
とは言っても、今回はあまり考えずに見切り発車を為、今になって苦悩しておりますが・・。(爆)
私も、次回作は綿密に計画を立てるぞぉ~!!(オ~イ!ここで宣言してどうする!!笑)
やっと言えた..!
「好きなんだ・・・・圭太さん」
このひとことの為に、どんだけ回り道を(涙)
いいえ。何も言いますまい。これを乗り越えなければ二人は平行線のままだったのですから。
今はただ、二人を見守りながら泣いていたいです。
やっと言えたよ「すき」って
そうか、静は死んじゃいたいくらいに絶望したのではなくて、穢された身を浄化したかったのね。できることなら無かった事にしたいくらいに。清浄な海風や海水なら綺麗にしてくれるんじゃないかって・・・切なすぎて泣いちゃうよ。
だけど、静は汚れてなんか無いからね。
そして、好きって言えてよかったね。

圭太の心が手に入らないのならせめて圭太の作ったもの(シーラカンス)に包まれてすごしたいっていう健気な気持ちしっかりわかってくださいね、圭太さん。

薫&圭太からしたら、かわいい弟を『店をエサに弄んだ遊び人』どうするのだろう?
(伊原視点では、見たくないかも。情状酌量の余地があると憎めないじゃないさ)
Re: 嬉しくて・・嬉しくて・・・。
 ミートン・メートンさま、いらっしゃいませ。
 最初5話くらいのつもりで、バレンタイン企画と銘打ってスタートしたこの話、気付けば4月も半ばしかも、短編にしては多いけど、日数で割ると、やたら少ない25話。一体私は何をやっていたのか・・・(笑)

> 目が覚めても、隣に圭太居てくれるよね?
> すべてを受け入れてくれるよね?
 目が覚めたら、静にとって世界は大きく変わっていると思います。想い想われることで育つ「生きていく自信」が身についていくのだと思います。強い男の子になって欲しいというのは、母の願い・・・ですね~

> もう胸が一杯で、コメントになりません・・・。
 ありがとうございます~~時間がなくてバタバタと仕上げてしまったので、読んでくださる方にとって読みにくいものになっていなければいいんですけれど・・・

> 遠回りしたけど、これからは二人で愛を築けますよね?
 ・・・・の予定なんですけれど、私に2人の今後を語らせるとロクな事にならさそうなので口を噤んでおきます! お口、チャーーック!!とりあえず、シアワセなまんまで終わらせておきますね。

> もう少しで完結ですか?
> 今回も、紙魚さまらしい素晴らしい作品でした!!
 わわ、そうですか?重く暗い傾向の強いうちのサイトですが、
 今回もこの路線を踏襲してしまいました(苦~)
 次回は、できればもっと明るくて軽いものを書いてみたい(あくまで希望)です。
 
> そうそう、私も次回作を考えている時は、かなりプレッシャーを感じます・・。
 おお、サクサクとお話を書かれるミートン・メートンさまもですか?
 連載って、始めちゃうと進めるしかないので、始める前に悩んでしまいますよね。
 ウチも今回、見切りで発車したために、予定の5倍の量を書く羽目に・・・

> 私も、次回作は綿密に計画を立てるぞぉ~!!(オ~イ!ここで宣言してどうする!!笑)
 お~~~~~っ!!(一緒に☆)気合はありますけど、できた例がありません・・クスン

 コメント&ご訪問ありがとうございます♪

Re: やっと言えた..!
 シマシマ猫さま、こんばんは♪ようこそです♪

> 「好きなんだ・・・・圭太さん」
> このひとことの為に、どんだけ回り道を(涙)
 ほんとうに・・・この一言を言わせるために25話も書いてしまいました(苦笑)
 静は、この一言のために大きな犠牲も払いました。
 いま、静の口からこのセリフを言わせる事ができて私も感無量です。

> いいえ。何も言いますまい。これを乗り越えなければ二人は平行線のままだったのですから。
 そもそも、この連載は” 享一に振られた圭太をシアワセにしよう計画だったような・・・
 圭太のシアワセに交差しついて来る静と言う自発的には書かないキャラをかけてよかったです。 
> 今はただ、二人を見守りながら泣いていたいです。
 シマ猫ちゃん、ありがとうございますーー☆

 コメント&ご訪問感謝です。
Re: やっと言えたよ「すき」って
 甲斐さま、こんばんは。ようこそです。

 こちらにも、ありがとうございます!
> そうか、静は死んじゃいたいくらいに絶望したのではなくて、・・・・
 そうなんです。ただ、汚れ穢れてしまった身体や心を洗って浄化したかったのですけれど、正常な判断が出来ない静は入水してしまいまったのです。

> だけど、静は汚れてなんか無いからね。
 静自信が一番汚れたと感じているのは、自分の心だと思うんです。
 でも、自分の事をそう思う人って、逆にピュアな人が多い気がしますが。。。

> そして、好きって言えてよかったね。
 この一言のために、ここまでがんばってきました(笑)ダレモキイテナイ?
>
> 薫&圭太からしたら、かわいい弟を『店をエサに弄んだ遊び人』どうするのだろう?
 ハハハ・・・伊原の次に、可愛い弟に手を出した圭太にも薫の怒りの鉄拳が飛んで来そうです。悪い虫が付かないように、周りを牽制してきたのに、よりによって恋愛履歴の派手な圭太にもっていかれるとは思わなかったと思います。
 
> (伊原視点では、見たくないかも。情状酌量の余地があると憎めないじゃないさ)
 ↑↑↑↑
 (笑~)。勧善懲悪のほうがスパッとしてて気持ちいいですよね。わかります~~

 コメント&ご訪問、感謝です!!

Leave a Comment