BL・MLに関心の無い方 18歳以下の方はご遠慮くださいませ。大人の方の自己責任においてのみの閲覧を お願いします。


プロフィール

紙魚

Author:紙魚
近畿に生息中。
拙い文章ですが、お読み頂けましたら嬉しいです。


紙魚は著作権の放棄をしておりません。当サイトの文章及びイラストの無断転写はご遠慮ください。
Copyright (C) 2008 Shimi All rights reserved

*お知らせ*
長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
参加ランキング
FC2カウンター
*
検索フォーム
QRコード
QRコード
14

Category: 深海魚 (全31話 )

Tags: ---

Comment: 9  Trackback: 0

深海魚 23

 思えば、これまでいつもシズカの鳶色の瞳と目を合わせていた気がする。
 まだ静に幼さの残る時分から、薫とともに弟として愛しんできた。ともにすごした長い年月の節々で、自分を見つめる瞳と目が合った。元々、優しい性質を持つ少年だった。
はじめは憧れ慕うだけだった瞳は、いつしか成長とともに強さや深い慈しみといったものを具えていった。
父親と揉めて大学を辞めアメリカに留学を決めた時も、享一と別れた時も、振り向けばそこにいて鳶色の瞳でさり気なく気遣ってくれる。

 追いかければ遠く離れてしまう。逃げ水のように圭太の目線からするりと抜けてしまう昨夜のシズカの態度に、心が動揺している。いや、それだけじゃない。自分の心の深層を探ると、そこには確かに怒りとか嫉妬といった身勝手な感情が渦巻いている。

 バレンタインに静を、ここ葉山に送り届けて以来、圭太を捉え続けた想いは、今や圭太の否定を押し退け、完全な形を成していた。肌を切るような冷たい潮風が、切り立った岸壁で砕けた細かい波の飛沫を舞い上げ、圭太の癖のある髪の毛を弄り体温を奪ってゆく。圭太は、年甲斐にも無く暴走を始めた静への恋心に、冷え切った眉を顰めた。

 ようやく気付いて観念し、その想いを認めたとしても、いつもいるはずの場所には既に肝心のシズカの姿はない。

 手を伸ばせば、僅かに届かない位置までさりげなく身体を引く。圭太を避けるような昨夜の態度を思い起こすと、どうしようの無いもどかしさや憤りがわきおこる。
 感情のままに、あの繊細な指を持つ手指を捻りあげ、態度の変化の理由を厳しく問いただしたい。邪魔な鬚の生えた細い顎を押さえつけて、謝罪を紡ぐであろう唇を強奪したい。自分の中に潜在する、凶暴な欲望と感情が蠢き出すのを抑えられない。

 何度も、潮の混ざった凍てつく空気を吐いては吸い込んだ。
 頭が冷えない。

      征服欲をそそられる。
 伊原はそう言った。自分は伊原や雅巳とは違うのだと思いたい。なのに今、シズカを捩じり伏せたいと望む自分がいる。
 
 これまで、シズカにこんな欲望を感じたことは無かった。『シズカ』と名を口に出さなくとも、振り返ればいつもそこにいて、柔かく澄んだ明るい色の瞳が俺の言葉を待っていた。
 身内として大切にしてきたつもりだった。 

 静かに自分に起こる全ての諸事を受け止めようとする瞳に不図、似た感じの目をするもう1人の男の顔が浮かぶ。
時見 享一。永邨 周(あまね)を忘れようと決意した享一の瞳は、誠意をもって圭太を受け入れようと覚悟を漂わせる一方で、周に対する切ないまでの深い想いに苦しんでいた。

 シズカ。シズカの瞳は、享一と違い真っ直ぐに自分に向けられている。ただ、ただ柔かく優しい瞳に、俺は安心しきって甘えていたのかもしれない。兄キ面をして庇護していたつもりが、実は静の繊細で柔らかな襞を持つ心に甘えていただけと気付いても、もう遅い。

 あの瞳はもう自分を受け止めることはない。
 心の柔かい部分を掠め取られたような喪失感が圭太の胸が塞ぐ。

「シズカの決めたことだ。何を今更、俺は・・・」

 女々し過ぎだ。そう呟きながらも視線は、伊原の別荘の方に向いてしまう。
 オレンジ色のスペイン瓦を頂いた屋根は静かな休日の朝の眠りを貪っているようだ。
 今もあの別荘にシズカはいるのだろうか?自分の下品な邪推に呆れて自嘲した。

 その別荘の影から人影が飛び出してきた。砂浜を歩くその人影に目が釘付けになる。離れていてもその細身のバランスのとれたシルエットから、それが誰であるかはすぐにわかった。

「シズカ・・・?」
 やっぱり、お前は伊原と     
 わかってはいても、鳩尾辺りに重たい拳を喰らったような衝撃を感じた。

 不意に、そのシルエットが砂浜の上で転ぶ。驚き、目を凝らすと裸足であることが見て取れる。転んだ拍子に捲れたシャツの裾から肌の色が見えた。
 何か様子がおかしい。

 この寒空に、黒いスラックスと昨夜と同じだと思しき白いウィングシャツを一枚羽織っただけの薄着だ。
 肩に羽織った保温性に優れたカシミヤのガウンの下で鳥肌が立つ。

 暫らく砂の上に伏していた体が、緩慢で重たげな動作で漸く膝を突き、砂の上で四つん這いになるとそのまま動作が止まってしまう。かくんと項垂れたままの頭部は、髪が冷たい風に玩ばれ持ち上がることは無い。

 強風に煽られシャツの裾がめくれ上がると、素肌が晒されて腹や背中が剥き出しになった。皺の寄ったシャツのボタンが、ちぐはぐなのがこの位置からも見て取れる。
 どこか常軌を逸したその光景に、圭太はゾっとした。



←前話          次話→ 

深海魚 1 から読む

■静×圭太 関連<SS> ― 願い ―

■河村 圭太 関連作 翠滴 2


□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
 

 いつも、ご訪問くださるみなさま、本当にありがとうございます。
めずらしく、連続3日目の更新でございます。思えば、去年はこのペースで更新していたような・・・
なんということは無く、タネを明かしますとこの辺りの記事は前に書いていたものなのです(とは言っても、そのままでは出せないんですけれど・・・苦笑)
明日以降はまだ白紙なので、元のペースに戻るとは思いますが、なるべく詰めてお送りしたい・・・という”気持ちだけ”はありますので、今後ともよろしくお願い致します。

 
   ブログ拍手コメントのお返事は、サイトの”もんもんもん”の
 ブログ拍手コメ・メールのお返事からか、もしくは*こちら*から


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

ポチしてただけると嬉しいです♪
 

テーマ : BL小説    ジャンル : 小説・文学

Comments

やっと、気づきましたね、圭太さん。
何となく良い方向の兆しが見えますが、二人にとってあまりにも高い『授業料』でしたね。
今度こそ、間違えないようにしてほしいです。
それとももう一波乱あるのでしょうか?
気になって、私の原稿は白紙のままです(笑)。
(patiコメのお返事を日記にてさせて頂きます。感激! ありがとうございました♪)
ようやく読みにこれた!!
出かける前にUPされているのは村新着で存じていたのですが…ふひぃ~~今帰って来ました(汗

圭太、ようやく自覚するところまで来ましたね!
遅いよ!!ヽ(≧Д≦;)ノ
食べられちゃったじゃん!!←
しーちゃんお屋敷飛び出してきたのか…うぅ、ドキドキしますね、この先の展開が。
お髭のことでまた勘違いされちゃうのかなぁ(;つД`)
でもでも様子が明らかにおかしいしーちゃんを前にすれば、圭太も分かりますよね?!そう信じたい(泣)
紙森さんの仰る通り!もう間違った擦れ違いはしないで欲しいわぁ゜+.゜.(⊃Д`*)゜+.゜
Re: やっと、気づきましたね、圭太さん。
 紙森さま、こんばんは!!

> 何となく良い方向の兆しが見えますが、二人にとってあまりにも高い『授業料』でしたね。
 やっと、起承転結の”結”に入れます~(嬉泣!)

> 今度こそ、間違えないようにしてほしいです。
 紙森さまの仰るとおり、高いお勉強代を払ってしまった2人です。。
 これを教訓に、圭太もきっと大人しくなる事だと思います。

> それとももう一波乱あるのでしょうか?
 ふふふ・・・いくら紙森さまといえど、それは申せません(笑)←言ってるも、同じぢゃん。

> 気になって、私の原稿は白紙のままです(笑)。
 ひーーーっ。深海魚より紙森さまの作品を一作でも多く書いていただきたい私ですのに・・・

> (patiコメのお返事を日記にてさせて頂きます。感激! ありがとうございました♪)
 こちらこそです!今の仕事が片付くまでは・・・と思っていたのに、ちょびっとだけ~♪と、チラ見したのが、ドップリと・・・25話書けるかな・・・(笑)イエ、充実した時間がすごせたからいいんで~す。
 コメント&ご訪問、感謝です!
うおぉぉーー!!
数話まとめ読みの幸せ…ああ!ついに圭太さんが恋愛感情を認めたのですね。
しーちゃん可哀想に可哀想に…(T^T)ズルズルー
卑怯な手を使っておとしたことより、写メとかで脅したことより、髭を勝手にそり落としたことが許せないです。
しーちゃんのひたむきな恋情を踏むにじるなんてヾ(*`Д´*)ノ"彡☆ ケシカラン!!
潮騒が聞こえてくるような描写、ボロボロになって海を目指すしーたんの姿、鳥肌立ちました。
ぼろぼろのしーちゃん、今度こそ圭太さんが受け止めてあげて欲しいです。
Re: ようやく読みにこれた!!
 柚子季さま、こんばんは♪

> 出かける前にUPされているのは村新着で存じていたのですが…ふひぃ~~今帰って来ました(汗
 出かけられていたんですね~お疲れ様です!

> 圭太、ようやく自覚するところまで来ましたね!
> 遅いよ!!ヽ(≧Д≦;)ノ
> 食べられちゃったじゃん!!←
 ホントに・・・・遅い、遅いですよね。圭太にとってもこのお勉強代は高くついたと思います。
 自分の気持ちをダイレクトに出した伊原が、ここまでは一番強かったですね。
 さて、次は誰の番でしょうか・・?

> しーちゃんお屋敷飛び出してきたのか…うぅ、ドキドキしますね、この先の展開が。
> お髭のことでまた勘違いされちゃうのかなぁ(;つД`)
 おお、「ドキドキ」ありがとうございます!! 
 ここで鬚のことを責めたら、圭太はオニですよね。オニ・・・ん、それもまた・・!やめときます。。

> 紙森さんの仰る通り!もう間違った擦れ違いはしないで欲しいわぁ゜+.゜.(⊃Д`*)゜+.゜
 はい!!柚子季さまと紙森さまの願い、しかと胸に刻みます!!
 やっと、ラストスパートです、柚子季さま。。(涙)
 BLなのに、こんな話でよかったのだろうかと、未だに頭を抱えてます。

 コメント&ご訪問、ありがとうございます。
 Kさまの描かれた永くん(紙魚の脳内ではすっかり永くん♪・・Kさま、スミマセン)
 素敵ですね♪郁くんも描いてくれないかなぁ・・・って、こんな所で呟くな!
 ですよねm(_ _)m
Re: うおぉぉーー!!
 りりさま、えらっしゃいませ!!

> 数話まとめ読みの幸せ…ああ!ついに圭太さんが恋愛感情を認めたのですね。
  ↑↑↑↑次話のあるシアワセ!わかります。
 嫉妬で気付くウツケモノ・・・圭太です。

> 卑怯な手を使っておとしたことより、写メとかで脅したことより、髭を勝手にそり落としたことが許せないです。
 りりさま、やっぱりソコですね。傍にいるだけで・・言いながら、圭太を求めた想いの結晶のような鬚を落とされるのは、しーたんには一番堪える仕打ちのはずです。

> しーちゃんのひたむきな恋情を踏むにじるなんてヾ(*`Д´*)ノ"彡☆ ケシカラン!!
 確かに、ケシカラン!!のだけど、コレ、かなりカワイイ・・↑↑↑

> 潮騒が聞こえてくるような描写、ボロボロになって海を目指すしーたんの姿、鳥肌立ちました。
 ありがとうございます。少し壊れ気味な感じが伝わってますでしょうか?

> ぼろぼろのしーちゃん、今度こそ圭太さんが受け止めてあげて欲しいです。
 私的、BLの鉄則 『ハピエ!』なのですけど、後味が悪そう。。。

 コメント&ご訪問、ありがとうございます。
 まとめ読みのシアワセ、私も来週には味わえそうです~~~♪
 想像するだけでも、シアワセ~♪
Re: うわ・・・
 Kさま、おはようございます♪
 暖かいというよりは、暑いくらいですよね。体調の方は、いかがでしょうか?

> 今すぐ飛び出していくんだよねっ!!
> いろんな柵があるけれど、今はそれを考えて居る場合じゃないっ!
 そうですよね、四の五の考えている場合じゃないですよね。
 今、それを考えていたら圭太は静を失ってしまいますから、即行動!!

> あ~~ドキドキする!
 おおぉ、「ドキドキ」ありがとうございます!
 短編の予定で始まった、この話ようやくラストに突入(嬉泣~)
 本当は、次話で完結の予定だったんですが、引っ張り過ぎたため中途半端感が残りそうなので、後、2~3話書きます。もう少し、お付き合いいただけると嬉しいです。

 コメント&ご訪問、ありがとうございます♪♪
早く早く!!
ダッシュで行って!!早く静さんを抱きしめてあげて~~~!!!。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。エーン!!
それもまた静さんにとっては辛いですけどね(涙)
Re: 早く早く!!
 シマシマ猫さま、こんにちは♪

> ダッシュで行って!!早く静さんを抱きしめてあげて~~~!!!。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。エーン!!
 このお話も、ラストが見えてきました(感涙!←
 そうですよね!静を救えるのは圭太の熱い抱擁だけです。
 行けっ!!圭太!すぐに、向わせます!!
 
> それもまた静さんにとっては辛いですけどね(涙)
 はい。。でも、この辛さを超えなければ、静は二度と圭太と顔を会わせることも出来なくなってしまいますもの~。静には、この試練を乗り越えてありのままの姿を受け止め、自分を許す強さをもってほしいですね。

 コメント&ご訪問、嬉しいっす。

Leave a Comment