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紙魚

Author:紙魚
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Category: ラッシュアワー(全6話)

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ラッシュアワー 1
 

― ラッシュ・アワー1 ―
 

君、名前は?

俯いた耳に届いたそのしっとりと澄んだ声を最初は空耳かと思った。
もう一度、
「なんていうの?君の名前」
今度は、はっきりと届いたその声にハッと顔を上げる。

 目の前には顔・顔・顔・顔・・・・どうやったら、これだけ同じ顔が集められるのか。
安全確認のため視線を走らせると、朝のラッシュ時、過剰に乗車させられた客達の不満、忿懣、イライラを滾らせた顔のいくつかと目が合った。どの顔も、「売られたケンカは買うぜっ」、とばかりに殺気立ったオーラを身体から陽炎のようにモアモアと発している。
 慌てて目蓋を伏せ視線を逸らす。
 森で猛獣と出会ったら目を合わせてはいけない・・・都会だって同じだ。

 発車の短いメロディーが鳴ると、更に全身に力を込めて乗客を車内に詰め込む。
 スシ詰めとは、よく言ったものだ。
 入社後の研修の一環として、この駅に配属されてもうすぐ2ヶ月が経つが、最近この朝の異常な密度で客を詰め込み走る電車が、箱寿司の木枠に見えてきて仕方がなかった。銀シャリを枠の中に入れて、中板でギュウっと圧して中身をぎちぎちに詰めていく。表立っては言えないが、まさにそんな気持ちで毎朝、オレたち・・・いやオレだけか?は乗客たちを電車の中に詰め込んでいる。

 もちろん、お客様は神様だ。定期代を会社が払おうが、本人が払おうが、強奪したり拾った切符で乗ろうが、目の前に並ぶ無愛想な顔たちがこの時間俺の神様となる。
オッサンが暑苦しいからといって、ピンヒールの踵が足の甲に足骨が折れそうなくらいメリ込んだからといって、足蹴に詰め込むわけにはいかないのだ。
掌と肩と胸でありがたく、優しく、そしてあらん限りの力を込めて強引に押し込んでゆく。

「ちょっと、駅員さんっ!バッグが引っ掛ってんのよ。ドアが閉まっちゃうじゃない。早く中に入れてってば!」
「あ、はいっ」

 苛立ちで爆発した甲高い女の声に視線を下げると、ヴィトンの赤い光沢のあるエナメルの鞄が、灰色の岩場に咲いたビビットな赤い毒花のように、ニョキっとはみ出していた。それを、メタボな腹と腹の間に押し込んでいると、すうっと顔の輪郭を撫でる冷たい感触がして、驚いて頬を押さえて飛び退った。
 タイミングよく鼻先でドアが閉まる。

 ドアが閉まる前の、その一瞬の間、その15センチほどのほんの隙間にオレは自分を見下ろす涼やかな顔と目が合った。他の乗客が一様にグレーの戦闘服で満員御礼状態に不快感を顕にする中、その顔はひとり薄いベージュのスーツに身を包み避暑地にでもいるかのごとく、爽やかで寛いだアンバーの瞳に微笑を添えて向けてきていた。

 いまの声と手は彼のものだろうか?

 頬を押さえたまま、ホームに立ち竦んでいると、すぐ次の電車が入ってくる。
乗車待ちの列の後ろに慌てて戻り、バイトと目配せをしながら再び客を詰め込んでいく。毎朝夕と繰返される戦争のような時間と昼間の改札業務に忙殺され、その朝のささやかな出来事はあっという間に日常にかき消され、忘却の彼方へと追い遣られていった。

 微笑むアンバーの瞳も、言葉の内容も、その問いかけ自体が持つ意味も失い、ただ涼やかな声音だけが耳底に張り付いた。

      君、名前は?

 やがて耳底に張り付いて蒸発してしまったかと思われた声音は、知らぬ間に皮膚から体内に滑り込み、感情が希薄だと人から指摘されるカラカラと乾いた心に秘めやかな痺れを呼び起こしながら、掻痒感を伴った小さな粒となって躯の芯へと落ちていった。





次話→

 □□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
 

  すみません!!本当なら今日、深海魚の更新をすべしなんですが、なかなか頭がRモードに切り替わらず、間に合いませんでした。前回も企画参加でブチしてしまい、折角訪問していただいたのに私的にこのままではあまりに申し訳なく思いますので、以前ノートブックと共に撃沈した短編ものをサルベージしましたそちらをUPさせてください。エ、イラナイ?・・・どきっ!
 微妙なところで切れている深海魚ですが、続きを気にしていただいている皆様には本当に申し訳なく思います。
いつも、ご訪問くださるみなさま、本当にありがとうございます。




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Comments

おや?
SSですか~!
深海魚も勿論お待ちしてますが、何か得した気分です♪
都会のラッシュってすごいんでしょうね~。
田舎者柚子季には想像だに出来ない…ってか想像だけで貧血起きそうなんすけど(爆)
続き楽しみに待ってます♪♪

紙魚さんのこのボキャブラリーと表現力の豊富さ、見習いたいです~゜+.゜.(⊃Д`*)゜+.゜
わお
切ないSFの後に、超現実的な日常キターッ(笑)
その日常の狭間のとある出来事..むむー。
続き期待しちゃいますよ?( ̄ー ̄)ニヤリッ

私も、ラッシュ時にコートなんかをドアに挟まれたまま電車に乗ってたクチです。自分が降りる駅で開くのは反対側のドアだと気付いた時の戦慄..Σ( ̄ロ ̄lll)
Re: おや?
 柚子季さまこんばんは。いらっしゃいませ!!

> SSですか~!
> 深海魚も勿論お待ちしてますが、何か得した気分です♪
 きゃあ~~~!すみません!!頭がR脳に切り替わりませんでした!
 ああ、見落としていただいても良かったくらいの記事です。
 (なら、載せんなよって話ですね。すみません、すみません(ペコペコペコペコ・・・

> 都会のラッシュってすごいんでしょうね~。
 これは凄まじいものがありますですよ。
乗る事がなくなって久しいですけれど出来ればもう乗りたくないです。
貧血で倒れた事も・・・ありま~す♪

> 続き楽しみに待ってます♪♪
 優しすぎるわ、柚子季さま(滝涙

> 紙魚さんのこのボキャブラリーと表現力の豊富さ、見習いたいです~゜+.゜.(⊃Д`*)゜+.゜
 うぉぉ!そんな事ないです!!
 ここのところ、自分の語彙の貧困さと発想の貧弱さに、自家中毒を起こしそうなくらい凹み中です。私ってBLの心がわかってない気が・・市販されているBL小説も読んでみようかなぁぁ~~(本当に行き詰ってる感が滲み出てしまった・・
でも、我が家は狭くて隠す場所ないし・・・う~~~もう。。。←バカ?バカだわ。
1人でのた打ち回ってますね。。。捨ておいてくださいませ・・テヘ

コメント&ご訪問、感謝です☆
Re: わお
 シマシマ猫さま、いらっしゃいませ~☆

> 切ないSFの後に、超現実的な日常キターッ(笑)
 うおっ(マタ・・・
 何の予告もなく唐突にすみません~~
もう一本SSがあったんですが、桜テーマなので企画中に出すのは紛らわしいかと
こちらにしました。
この話は、以前にノートPCがダウンしたとき一緒に沈没したものでございます。
なんか、書いたときは超日常の話が書きたかったんです。。
いやいや、BL自体がファンタジーなので超日常ってのは違うかしらん?

> その日常の狭間のとある出来事..むむー。
> 続き期待しちゃいますよ?( ̄ー ̄)ニヤリッ
 シマ猫ちゃんまで!!優しすぎる・・・・(泣~~

> 自分が降りる駅で開くのは反対側のドアだと気付いた時の戦慄..Σ( ̄ロ ̄lll)
 !!!それは、戦慄とついでにサブイボが走りますね(笑)人を掻き分けて降りるだけでも体力消耗なのに、コートが・・・ププ。笑っちゃあイカンですね、すみません。

コメント&ご訪問、ありがとうございます!
Re: うわっ!!
 鍵コメのKさま!
うおっ!こちらにも!!無理なさらないで~~~~!(絶叫!
こっちの記事は、場繋ぎみたいなもんで・・・もうもう、Kさまを煩わせるほどのものでは・・

> ラッシュって田舎に居ると経験がないんですが、
> 途轍もなく恐ろしい!!(爆)
 都会のラッシュは、まさに「すし詰め」です。
もう、人と人の間でキュウゥゥ~ゥ~~って感じ(笑)
おテテも伸びてきますしドアに貼り付け状態にも・・・

 でも、都会の電車は空いていてもアブナイ人に遭遇します。
知らない人に結婚迫られたり、痴漢から逃げたらいきなりビンタ喰らったり ・・・
上げればキリの無いオハナシが他にも・・・ゾゾゾ。。。

> 続き、お待ちしております!
> 両方ねっ♪
 ぎゃ!!Kさままで!(涙~
今、深海魚の続き書いてますが、なかなか腐脳に切り替わりません凹
家の者の目もあるしで、ひたすら無言で唸っています←???

 Kさま、再度のコメント&ご訪問、本当にありがとうございます!

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