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紙魚

Author:紙魚
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Category: 深海魚 (全31話 )

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深海魚 13
 リビングから拍手と歓声が上がった。
パティオ越しにリビングを見ると、ガラスの向こうに圭太が立っている。
声ははっきりとは聞こえないが、圭太の腕を取って二ノ宮がなにやらしゃべると、また大きな拍手と笑い声が上がった。
 二ノ宮は、拗ねたようすを見せ圭太も笑っている。人数も自分がさっきオーダーを取りに行った時より2~3倍に膨れ上がっていた。その後も、リビングから時折華やかな、さんざめきが漏れてくる。圭太が中心にいる、そのざわめく声を心地よく感じ、静はカクテルを作りながら穏やかな笑みを洩らした。

「河村先生の新しい恋人は随分と可愛い人だね・・・」
「え?」
 静はカクテルのグラスから思わず顔を上げた。
 つい今まで穏やかに笑んでいた顔が微妙に強張り、鳶色の瞳が大きく見開いている。
 その顔を正面から面白そうに目を細めた伊原の目が捉えた。
 目が合うと、伊原はニッコリ笑って見せ、いかにも仕方ないという風に肩をすくめる。

「もし、新しいお相手がいるならぜひ連れて来るようメールしたら、彼が来た」
「・・・・」
「噂じゃ、彼はまだ、MIT(マサチューセッツ工科大学)の学生らしいよ。インターンで河村先生の事務所に入って、そのまま居付いてるんだってさ。恋人が日本にいたんじゃ、ボストンはなお遠いということかな。オーダーのカクテル、これで全部だね。主役の僕が運んであげるよ」

 シルバーのトレイに7人分のグラスが次々移っていくのを呆然と眺めた。
 今日のバースデーの主役の登場に、リビングでひときわ大きな喝采が起こる。ガラスの向こうで伊原が圭太に話しかけるのが見えた。圭太の姿に目が釘付けになる。
 
「静君、ラムのソーダ割り頼むよ。セ・イ君?」

 自分を呼びかける声に、はっと我に返ると、カウンターに肘を付いたゲストの男性が、静の顔を覗き込んでいる。シーラカンスにもよく訪れる年配の客に姿勢を正し、慌てて返事した。

「あ、はい。ぼおっとしてて・・・すみません。オーダーですね?」
「ははは、あっちは楽しそうだもんね。静君、ラムのソーダ割りちょうだい。
リビングはえらい騒ぎだな。河村君も、相変わらずおばちゃんたちに人気だねえ」
 実際聞かれたら女性陣から袋叩きに遭いそうな言葉をさらっと笑いながら言ってのける客に、自分も作り笑いで「そうですね」と応える。ラムのグラスを持った男がいなくなると、静1人が部屋に残った。再びリビングに目が向く。

 リビングでは二ノ宮が1人立ち上がり大きなゼスチャーを交え何かを一生懸命話している。
二ノ宮の一挙一動にどよめきと笑い声が上がる。
 小動物。そう、二ノ宮は小動物のイメージだ。銀縁の眼鏡の下で活き活きとした大きな瞳がクルクルと動き、整った容姿に小動物のような愛嬌を添えている。二ノ宮は、圭太の講演会で見かけ、酒が飲めないのだと圭太から説明を受けた青年だった。
 『先生』でも『所長』でもなく、それが当然であるかのように圭太を自分と同じくファーストネームで呼んでいたのを思い出す。たったそれだけのことに、今更のように胸が締め付けられる。

 圭太の周りにはキラキラした光が集まる。圭太の側には醜い自分のいる場所など、無い。
 俯き止まってしまった手に伊原の浅黒い掌が重ねられた。
 吐息が耳朶に触れぞわりと肌が粟立った。

「今晩は泊まっていくだろう?約束通り・・・君を汚してあげる」
「シーラカンスは・・・?」
 俯いたまま低く囁くように問う声に、耳元で笑う気配がした。
「もちろん、忘れていないよ。僕に満足できなかったら、シーラカンスは君のものだ」

 綺麗に並んだリキュールの色とりどりのボトルを放心したように見つめるその横顔を、伊原は笑いを消した顔で眺めていたが、やがて静が溜息ともつかぬ弱い息を吐き、消え入りそうな声で一言「わかりました」と短く告げると満面の笑みが広がった。

「・・・ちょっと、こっちにおいで」
「あっ、え?な・・」
「待ちきれない」
 伊原が重ねていた手を掴み、静をバーカウンターのある書斎の外に引っ張り出した。
廊下の柱の陰に身体を押し付けられる。スペイン風に練りつけられた白い壁の凹凸が背中に当たって痛い。
「伊原さん、なにを・・・」
「静君、契約のキスをしよう。今晩、僕と付き合って気に入らなければ、君の望み通りシーラカンスを君に譲ろう。でも、君が少しでも感じたら、君は僕のものだ。さあ、僕の首に腕を廻して」
 シズカではなく元通り静と呼ぶ伊原に違和感を覚えた。

 伊原を相手に何かを感じるなんて事はありえない。
 シーラカンスを手に入れる。
静は、このような形でしか圭太と自分を繋ぐことが出来ない自分に辟易した。だが、シーラカンスさえあれば、自分はこの先、圭太の作り出した深い海の底を思わせるあの空間に身を置き、いつまでも圭太を感じながら生きていける。
 そんな思いに、思考や感情の全てが囚われていく。
 シーラカンスさえあれば、――― 平気だ。

 ゆっくり、ギクシャクとした静の腕が伊原の首に回される。
その様子を楽しみながら伊原の目は廊下の端を見ていた。やがて白い壁を背景に長身の姿が視界に入って来る。均整の取れた長躯が戸惑ったように立ち止まった。
その目が大きく見開くのを認めてから、この場から立ち去るようにウィンクで合図した。
窪みからはみ出した静の身体を自分に向け、何も知らない静の後頭部に手を掛けると唇を重ねた。
河村 圭太は、憤りにも似た表情を過らせると、身を翻してそのままリビングに戻っていった。



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■深海魚 1 から読む

■静×圭太 関連<SS> ― 願い ―

■河村 圭太 関連作 翠滴 2

深海魚2

□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
 
色鉛筆とPSで、一色だけですけど、スケッチに色を着けてみました。画像をクリックしていただくと大きくなるみたいです。静ですが、ちょっと後の話の予告っぽい感じです。ご興味のある方は、どうぞ♪ 

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テーマ : BL小説    ジャンル : 小説・文学

Comments

(;´Д`)(;´Д`)(;´Д`)
伊原氏……おいたが過ぎます!!(怒
しぃちゃぁぁぁん(;つД`)
もどかしいですねぇ~本当…。
圭太も益々誤解が深まっちゃったみたいですし…溜息が出てきます(涙

イラスト素敵ですね~。
綺麗で切なくて…まさにこのお話のような。

この先どうなっていくんですかーー!?
し、幸せは来るのでしょうか(ドキドキ
柚子季さま。こんばんは♪
> 伊原氏……おいたが過ぎます!!(怒
 ホントに二昔くらい前の少女漫画の意地悪キャラみたいなやつです(笑)
今まで出てきた腹黒キャラとは若干違うタイプ、ある意味幼稚っぽいかと・・

> もどかしいですねぇ~本当…。
> 圭太も益々誤解が深まっちゃったみたいですし…溜息が出てきます(涙
 こんな伊原の罠にハマっていく2人、、2人に共通の言葉さえあれば伊原なんかに翻弄される事はなかったと思います。

> イラスト素敵ですね~。
> 綺麗で切なくて…まさにこのお話のような。
 きゃ~~ハジカシ・・・ありがとうございます。はい、静です。
 もう少し後の部分の挿絵になります。

> この先どうなっていくんですかーー!?
 この先はゴニョゴニョ・・・でも、ハピエのつもりなので(汗

コメント、ありがとうございます♪
ここのところ、落ち着かず読み逃げが続いててすみません~~!!
Kさま、こんばんは♪
> 文章もさることながらイラストがスッゴク雰囲気があって素敵です!!
 ありがとうございます!!いつもは鉛筆スケッチのみなんですけど、今回はちょっと色を付けてみました。Kさまみたいに華麗で美しいイラストを描かれる方にお見せするのは、ちと恥ずかしいです~。。

> 実は自分、深海魚、好きなんですよ!
 わーい!Kさまもなんですね!深海に生きる生き物って、、ちょっとグロい形のものが多いんですけどなんか惹かれるものありますよね。ね。

コメント、ありがとうございます。
Kさま宅での美しいイラスト、いつも見るのを楽しみにしています。
いつも、読み逃げばかりですみません!落ち着いたらゆっくり伺います。
切な辛いですね…
「目は口ほどに物を言い」と言う言葉がありますが、それだけでは伝わらないことだってあるんですよね。
きっと静さんの目には顕著に想いが表れていると思うだけに、辛いです。
そして自分の恋に臆病になっている彼の選択も、すごく切なくって痛々しいなぁ。
「どうなるんだろう」と続きを待つ反面、どんな結末が出るにせよ、この彼らの辛い現状が終わってから読もうと思う気持ちが、私の中でせめぎあっています(笑)。
とりあえず明日から「書き週間」に入る予定なので、初稿が終わるまでおあずけ。
が、我慢出来るのかしら、私(笑)

紙森さま♪いらっしゃいませ~
 こんばんは。今日はとてもいい天気でしたね。。花粉は大丈夫でしたか?
私は、明日は野暮用で奈良までいくんですけど、、花粉が恐いよう~~~。

>「目は口ほどに物を言い」と言う言葉がありますが、それだけでは伝わらないことだってあるんですよね。
 そうですよね。先入観とか思い込みとかが強すぎると、視線を伝わって入ってくるストレートな感情にも、脳で変換する段階で余計な色や曇りが出て来る気がします。
静の瞳はきっと、恋に溺れ切羽詰った色をしていると思うんですけれど、目を合わせないし勘違いされてるしで、報われない瞳とでも言いましょうか・・・(笑)難航しそうしそうです。。

>とりあえず明日から「書き週間」に入る予定なので、初稿が終わるまでおあずけ。
 おお、「書き書き週間」ですね!!
また新しいお話に会えるのが楽しみです!!
気合入れないと踏み込めないその気持ち・・・ホンマニよくわかります。。。シミジミ・・・
紙森さまの作品を、少しでもたくさん読みたいので、もう、気合入れて書きまくって頂きたいで~す!←その間に、深海魚をスパッと完結できてたら・・・いいなあ。。。

コメント、ありがとうございます。
只今、アップアップ状態なので(笑)落ち着き次第、伺います!!
あああー
どんだけ伊原ペースなんですか(泣)
まさに伊原氏1位独走中!2位以下をぐんぐん引き離しておりますな(=ω=。)
果たして河村氏は追いつけるのか!?
でも、この罠に堕ちて行く感じ..大好物です。うっかり伊原氏を応援しちゃうくらい。ひひ。(お下品)

イラストすっっっっっっごく素敵です!!!
以前から思ってたんですが、絵のお勉強なさってたのですか?
静さんをリクエストしたくてウズウズしてたところなので嬉しい~(●´ω`●)ゞエヘヘ 
静さんホント美しいデス..翻弄されてるような、それでいて諦観の域に達してしまったような雰囲気。静さんの心そのもののようです。おヒゲは剃った後なのね♡
シマシマ猫さま♪おはようございます
 独走首位!伊原。
やはり人の感情を俯瞰で見れる人間が一番強いです。しかも、伊原は性格悪いし・・

>でも、この罠に堕ちて行く感じ..大好物です。
 単純な罠なんですけど、「恋する盲目」達はいともあっさり罠に絡め捕られていってます。こういう探りの時期って、相手の気持ちがわからない分、不安とか疑いが生まれやすいところを、上手く利用されちゃってます。起爆剤のつもりだった伊原、実は爆弾本体だった・・?ヤバイ(笑)

>イラストすっっっっっっごく素敵です!!!
 ワ~~イ!ありがとうございます!!
イラストは高校の時が一番、大好きピークで描いていました。人物ではないですけれど、描くという事に近い仕事に携わってきたせいか、イラストも○○年(!)ぶりに描いたわりに、今の方がデッサンがましになっているのが自分でも不思議です。

>静さんをリクエストしたくてウズウズしてたところなので嬉しい~(●´ω`●)ゞエヘヘ
 ヤッタ~~!以心伝心?シマ猫ちゃんのご期待に添えることが出来て嬉しいっす!!!
静そのもの・・・、といっていただけて、これも嬉しいです。

>おヒゲは剃った後なのね♡
 エヘヘ。どうやって、なくなっちゃうのか・・・シアワセななくなり方だといいんですけど、、
このイラストからは、幸せ感は漂ってきませんね。。ヤッパリ・・(笑)

 コメント、ありがとうゴザイマス。後、何話続くんだろ~?地味な話だし、飽きてない?大丈夫ですか~~?
何てことだああ!
しーたん首にtを回しちゃってるし!
決定的だ…orz
もう圭太はこれを恋愛だと信じ込んでいますよね。きっと。
あぁ~~~~もう!頭を掻きむしりたい!!
圭太の手が入っているシーラカンスを欲しいから、圭太にはもう新しい恋人もいるから…。
いじらしすぎて伊原さんが憎くなってきました。
純情につけ込む大人、許せん!!そして伊原さんに食べられてしまうのでしょうか(涙

水の中を漂うような透明感のあるイラスト、素敵です。ヒゲフェチではありますが、しーたんには最良の形でイラストのようにヒゲをおとしてほしいです。
りりさま♪おはようございます~
 暖かいですね~春ですね~♪花粉も!!!!
紙魚の住んでいるところは今日は快晴で気持ちがいいんですけれど、花粉が怖くて外に踏み出せません~~結局、出なくちゃいけないんだけど・・

>しーたん首にtを回しちゃってるし!
 もう、昼ドラ並みのわかりやすさ。。(笑)手、回しちゃったら、もう言い訳できないですね。
どんどん、伊原の単純な罠に嵌って離れてしまう・・・まさに伊原の意のままに玩ばれています。。
 シーラカンスを手に入れたいと思っている静の気持ちや想いを手玉に取る伊原、ずるくて抜け目の無い伊原から、鬚面オトメ・静が逃れるのは至難の業かと・・・うーん。
圭太と静、、お互い、ひとこと言えば全て解決なのに・・・上手くいかない恋模様~♪

>水の中を漂うような透明感のあるイラスト、素敵です
 ありがとうございます!ラストだけは決まっていたので、前に描いたものに色を着けてUPしてみました。書き手がイラストを描いてしまうとイメージが固定されてしまうので、あんまり描かない方がいいような気もするんですけど、嬉しがりなので~つい・・・(恥


>しーたんには最良の形でイラストのようにヒゲをおとしてほしいです。
   ・・・・・・、何があっても、見捨てないと約束してくださいね♡

 コメント、ありがとうございます♡後数話で終わるのに、物理面と精神面(ズボラ)の両方で書けない~サクサクッと完結させたい気持ちはすごくあるのに。。

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