03 ,2009
深海魚 12
「伊原さん、本当にあなたはシズカ1人で満足出来ますか?
シズカ ひとりを愛する自信があると?」
願掛けの理由(わけ)をシーラカンスで手を繋ぎ内緒話に顔を寄せる2人を目撃し、願掛けの真実を知っても、何かが合致しない。2人の仲を快く認める気にならないのは、自分の嫉妬や願望が混ざっているからかも知れない。
だが、伊原を相手にシズカが幸福になるのは難しい気がした。
「こう言っては何ですが・・・、東京で浮名を流し続ける伊原さんは正直、私の中で”遊び人”という括りにカテゴライズされています。シズカを泣かさないという保証は無い」
「それは、それは・・・。まさか先生の口からそんな言葉が飛び出すとは思わなかったな。
それは、兄代わりとしての問いかけですか?それとも、別の感情から?」
「河村先生は確か、シズカクンのお兄さんと友達なんですよね。仲のいい友人の弟を気遣う気持ちはわかりますが、彼も大人です。恋愛は、自由であるべきだ。この信条は河村先生も僕と共通であると思っていますよ。」
伊原が同意を得るように共犯者の目を向けてくる。
その顔を圭太は醒めた表情で見返した。
冗談ではない。自分が恋愛する時は、たとえ短い期間であってもたった一人を、真剣に想う。こんな、複数相手に月代わり用途別で恋人をとっかえひっかえする男の恋愛観と一緒にされたくはない。
「でも先生、ご心配なく。僕は、彼にゾッコンなんですよ。凄い美人だし、控えめで情が厚い。
それにあの、もどかしさも僕は愛してますよ。征服欲を刺激されるって言うのかな・・おっと、すまない、言い方が悪かった。そう睨まないでくださいよ」
伊原の言葉とその物言いに、圭太は露骨に顔を顰めた。
「鬚なんか生やしているのは勿体無いでし・・・」
言葉が途中で途切れその顔が一方向にむけて固定された。その視線を追うと、ライトアップされたパティオを囲むように作られた回廊をリビングから戻ってくる静の姿があった。背はそれほど高くは無いが、スラリとしたプロポーションにレジメンタルタイとウイングカラーの白シャツ、黒いスラックスにベストというシンプルでストイックなバーテンダーの装いが初々しさと同時に、思わず目を引く艶やかさを添えている。
清楚で端然とした装いに背く色香を湛えたその姿は、静がニッチに飾った紅い椿を思い起こさせた。
一瞬、明確な意思を持った憂い色の瞳が上げられた。シズカを凝視していた自分とはっきり目が合ったという気がしたのに、鳶色の瞳はすぐに目蓋が薄く下り視線は隔てられた。
その些細な仕草にも、心のどこかが小さくかき乱される。
シズカが美人なのは知っている。そのせいで、シズカの中高時代は美しい弟に心配性の薫がどれだけやきもきし、ちょっかいをかけようとする男どもに対する制裁を手伝わされたことか。
カウンターに戻ると、静はもう圭太の顔を見ることなくオーダーのメモに目を走らせ、必要なリキュールやソーダ、フルーツ類を手際よくカウンターに並べていく。
淡々と仕事をこなす静の姿に、圭太は静が自分の手を離れていくのを感じた。
いつまでも庇護をしなければいけないと思っていた相手は、既に立派な大人で自分がどうこう言う相手では無くなっていたという事だ。
「圭太さん!」
切羽詰った半泣きの声に3人が一斉に顔をあげた。
「どこにいるのかと思えば・・・、探したじゃないですかぁっ!動かないでくださいって・・・
あ、そだ!あっちにいるごオバサン達から圭太さんを連れてくるように仰せ付かってるんです。圭太さんっ、一緒に来て下さいよ。さっきの彼女と2人だと、モグリ、モグリって揶揄われるんです。河村 圭太を連れてこないと信じないって!もォ~、オバサン達に何とか言ってくださいよォ~」
情け無い声で、一気に捲し立てると鼻息の荒い二ノ宮が返事も聞かずに河村の手を引いて歩き出す。
二ノ宮に引っ張られ、静を一瞥するがとうとう視線が合うことはなかった。
それなのに、立ち去る背中に静の縋るような視線を感じ振り返る。だが、タイミングをわざと合わせているのかずらしているのか。静の鳶色の瞳は手元のカクテルに注がれ、終に捕まえることは出来なかった。
←前話 次話→
■深海魚 1 から読む
■静×圭太 関連<SS> ― 願い ―
■河村 圭太 関連作 翠滴 2
シズカ ひとりを愛する自信があると?」
願掛けの理由(わけ)をシーラカンスで手を繋ぎ内緒話に顔を寄せる2人を目撃し、願掛けの真実を知っても、何かが合致しない。2人の仲を快く認める気にならないのは、自分の嫉妬や願望が混ざっているからかも知れない。
だが、伊原を相手にシズカが幸福になるのは難しい気がした。
「こう言っては何ですが・・・、東京で浮名を流し続ける伊原さんは正直、私の中で”遊び人”という括りにカテゴライズされています。シズカを泣かさないという保証は無い」
「それは、それは・・・。まさか先生の口からそんな言葉が飛び出すとは思わなかったな。
それは、兄代わりとしての問いかけですか?それとも、別の感情から?」
「河村先生は確か、シズカクンのお兄さんと友達なんですよね。仲のいい友人の弟を気遣う気持ちはわかりますが、彼も大人です。恋愛は、自由であるべきだ。この信条は河村先生も僕と共通であると思っていますよ。」
伊原が同意を得るように共犯者の目を向けてくる。
その顔を圭太は醒めた表情で見返した。
冗談ではない。自分が恋愛する時は、たとえ短い期間であってもたった一人を、真剣に想う。こんな、複数相手に月代わり用途別で恋人をとっかえひっかえする男の恋愛観と一緒にされたくはない。
「でも先生、ご心配なく。僕は、彼にゾッコンなんですよ。凄い美人だし、控えめで情が厚い。
それにあの、もどかしさも僕は愛してますよ。征服欲を刺激されるって言うのかな・・おっと、すまない、言い方が悪かった。そう睨まないでくださいよ」
伊原の言葉とその物言いに、圭太は露骨に顔を顰めた。
「鬚なんか生やしているのは勿体無いでし・・・」
言葉が途中で途切れその顔が一方向にむけて固定された。その視線を追うと、ライトアップされたパティオを囲むように作られた回廊をリビングから戻ってくる静の姿があった。背はそれほど高くは無いが、スラリとしたプロポーションにレジメンタルタイとウイングカラーの白シャツ、黒いスラックスにベストというシンプルでストイックなバーテンダーの装いが初々しさと同時に、思わず目を引く艶やかさを添えている。
清楚で端然とした装いに背く色香を湛えたその姿は、静がニッチに飾った紅い椿を思い起こさせた。
一瞬、明確な意思を持った憂い色の瞳が上げられた。シズカを凝視していた自分とはっきり目が合ったという気がしたのに、鳶色の瞳はすぐに目蓋が薄く下り視線は隔てられた。
その些細な仕草にも、心のどこかが小さくかき乱される。
シズカが美人なのは知っている。そのせいで、シズカの中高時代は美しい弟に心配性の薫がどれだけやきもきし、ちょっかいをかけようとする男どもに対する制裁を手伝わされたことか。
カウンターに戻ると、静はもう圭太の顔を見ることなくオーダーのメモに目を走らせ、必要なリキュールやソーダ、フルーツ類を手際よくカウンターに並べていく。
淡々と仕事をこなす静の姿に、圭太は静が自分の手を離れていくのを感じた。
いつまでも庇護をしなければいけないと思っていた相手は、既に立派な大人で自分がどうこう言う相手では無くなっていたという事だ。
「圭太さん!」
切羽詰った半泣きの声に3人が一斉に顔をあげた。
「どこにいるのかと思えば・・・、探したじゃないですかぁっ!動かないでくださいって・・・
あ、そだ!あっちにいるごオバサン達から圭太さんを連れてくるように仰せ付かってるんです。圭太さんっ、一緒に来て下さいよ。さっきの彼女と2人だと、モグリ、モグリって揶揄われるんです。河村 圭太を連れてこないと信じないって!もォ~、オバサン達に何とか言ってくださいよォ~」
情け無い声で、一気に捲し立てると鼻息の荒い二ノ宮が返事も聞かずに河村の手を引いて歩き出す。
二ノ宮に引っ張られ、静を一瞥するがとうとう視線が合うことはなかった。
それなのに、立ち去る背中に静の縋るような視線を感じ振り返る。だが、タイミングをわざと合わせているのかずらしているのか。静の鳶色の瞳は手元のカクテルに注がれ、終に捕まえることは出来なかった。
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■静×圭太 関連<SS> ― 願い ―
■河村 圭太 関連作 翠滴 2
□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
予約更新したつもりが、下書きのままでした(゚д゚lll)
ま、、ウチではよくある話なんでございますけど、、遅ればせながら更新しますm( _ _ ;)m
緩みきった進行状況ににも拘らず、コメント・拍手・拍手コメを下さるみなさま、
本当にありがとうございます。深く深く感謝いたします。
ブログ拍手コメントのお返事は、サイトの”もんもんもん”の
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ま、、ウチではよくある話なんでございますけど、、遅ればせながら更新しますm( _ _ ;)m
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静さんが歩いてくるシーン、最高に萌えです。オッサン二人完全に魂抜かれてますがな(笑)
あっいくらなんでもこの色男たちにオッサンはひどいですねm(_ _)mスマン