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紙魚

Author:紙魚
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Category: 深海魚 (全31話 )

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深海魚 8
「おっと、そろそろ戻る時間だ」

 そのまま伊原がコートを取り完全に立ち上がって圭太の前で止まる。
ほぼ、同じ背丈の圭太を正面から見る目に挑戦的な色を湛え鮮やかに笑いかける。

「河村先生が、バレンタインに1人でいるなんて、お珍しいですね」
「伊原さんこそ、今日みたいな日に、こんな所でお会いするとは意外です」
「ちょっと、彼と昨日軽い行き違いがありましてね、気になってノコノコやって来たって訳です。これから、東京に舞い戻ってパーティの梯子ですよ。義理と付き合いでオールナイトってわけです」
伊原は、やれやれという風に両手を広げ笑って見せる。
「大変ですね、俺はもうトシなんでイベントで盛り上がるのは飽きてきたってところです」
 河村にしては、かつてのクライアントに対し、ややぞんざいに返答した。
 伊原はそれを全く気にするでもなく顔に笑みを貼り付けたまま言い募る。

「またまた・・・先生は僕より年下のくせに。
イベントものに飽きた先生になんですが、月末、別荘での僕のバースディパーティーには出席して頂けるんですよね?東京のご自宅には、先日招待状をお送りしたのですが、ご返事をまだ頂いてなかったもので・・・」

 伊原は、年に一回自分の誕生会と称して、地元の有志を集め営業を兼ねた接待を自分の別荘で催した。勿論、東京からもごく一部の選ばれた人間だけが招待される。そのパーティでのケータリングを手配したり、飲み物をサーブするのもシーラカンスを任されて4年目になる静の仕事になりつつある。細かいことに気の廻る静の仕事には無駄がなく卒がない、その辺も伊原が静を東京に呼びたがる理由のひとつだ。

「いかがですか?」

 伊原の別荘は、圭太のセカンドハウスの並びにある。
圭太のセカンドハウスが高台に位置するのに対して、伊原の別荘は海岸レベルに建っており、プライベートプールを通ってそのまま砂浜に出ることも出来る。夏には毎週末のように客や友人が訪れ、バーテンダー兼世話係として静が手伝いに行くことが多かった。
 享一も2度ほど圭太に連れられて訪れたがあり、圭太の新しい恋人として注目を浴びていた。互いの知識を競い合うような文化人を気取る招待客達の会話や、過度に華やかな場に馴染みきれないのか、享一は邪魔にならないようにかといって卑屈にもならず、そっと黙って座っていた。そんなところも静には好感が持てた。

 静は、緊張した面持ちで先程床に落としたアイスピックを拾って洗うと、それを片付けた。2人の会話に注意を傾けながらも、頭の中で手を繋いでいた言い訳を必死になって考える。そもそも圭太とは言い訳をする関係でも無いのに、なんと言えばいいのか?
 狼狽えた頭は空回りするばかりで、汲み上げたワードは片っ端から砂のように崩れ跡形も残らない。

「すみません。最近忙しくて郵便物をチェックしてなかったものですから、スケジュールを見てからでないと・・」
「河村先生、ぜひいらして下さいよ。
もちろん、静君にも、別荘に来てもらって、手伝ってもらうつもりですし」

 伊原は、圭太の返事に被せるように言うと振り返り、熱の籠った瞳で静を見つめる。その視線をどういう顔で受け止めればよいのか分らず目を逸らせた。その静の様子を圭太は横目で見ていたが、その視線に鋭く険があるのを見て取ると伊原は僅かに目を眇め口角を吊り上げ嗤う。

「・・・わかりました、伺います」
「そう、よかった。実は、先生のファンだっていうご婦人がいてね、それはもう先生に会いたがっておられたので、僕も鼻か高いですよ。では週末に、お待ちしていますよ」
 圭太の返事を聞いた伊原は、さも愉しげに笑い、そのまま立ち去りかけたが何かを思い出したように振返った。

「ああ、そうだ静君、僕もこれから君の事を先生みたいに”シズカ”って呼んでもいいかな?」
惚けたように間延びした声が聞いてきて、俯いていた静が驚いて顔を上げると、断られるとは露程も思っていない自信に満ちた甘く強請る瞳と目が合った。

 中学生の自分をシズカと呼びだしたのは圭太で、大人になった今、この呼び名で自分を呼ぶ者は圭太の他にはいない。静はこの”シズカ”という呼び名を、自分と圭太を結ぶキーワードのようなものだと思っていた。
 正直、絶対 他の誰にも呼ばせたくはない。

「それは・・・」遠慮勝ちに口を開くと、またも伊原が言葉を遮る。
「じゃあね、シズカクン。今日はカップル客にアテられるなよ。
せいぜい、脂下がった男共にしっかり酒を勧めて売り上げ向上に努めてくれ」

「また連絡するから」
伊原は静にウインクをすると圭太に会釈を残して、店を出て行った。

「シズカ、ジンをロックで」
「はい・・・」
冷めた表情の圭太がカウンターに座り、沈黙が降りた。



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■深海魚 1 から読む

■静×圭太 関連<SS> ― 願い ―

■河村 圭太 関連作 翠滴 2

□□最後までお読み頂き、ありがとうございます。
 更新が、途切れ途切れで本当に申し訳ありません(ペコペコペコ・・・
 本人がこの調子ですので、どうかお時間のあるときにでも
 覗いてやっていただければ有難いです。

テーマ : BL小説    ジャンル : 小説・文学

Comments

更新日、教えていただいちゃって、ムフフッ・・幸せ~♪

伊原の魔の手を静は逃れる事が出来るのかしら?
圭太の態度も変わってきたし。
目の前で、手を握られている静を見て、今まで気が付かなかった気持が、湧きだしちゃったような・・?
う~ん。
それとも、弟分を取られちゃったような?
どっちだろ~!!

しかし、バースディパーティ・・波乱の幕開け?
おおっ!!
ドキドキしてきた~!!!(笑)
Kさま♪
 こんばんは。いろいろとお忙しい中お越し頂き、
ありがとうございます。
J庭に向け、手作業も大詰めを迎えていらっしゃるようで、
本当にお疲れ様ですヽ( ^▽^)ノ
ランキングにも復帰されたのですね♪、おめでとうございます!!
(って、そちらのサイトに書き込むべきですよね。。スミマセン

 圭太と、静は本当に微妙です~スパッと完結したいのですが、
一足飛びに行くわけにも行かないので、書いてる本人はジリジリしてます~
只今、伊原の1人勝ち♪←

Kさま、お体に気をつけてJ庭に備えてくださいね。
コメント、ありがとうございました。
ミートン・メートン さま♪
 いらっしゃいませ。
>更新日、教えていただいちゃって、ムフフッ・・幸せ~♪
 そっか、せめて更新時間を、お教えできればいいんですよね。
この先、更新は前と同じ、夕方6時に更新する事にいたします。
・・・と偉そうに言っても所詮不定期・・・
やはり、気の向いたときにでも覗いてくださいませ~(弱気。。ヘタレですもん←?

>どっちだろ~!!
 享一の時は、ガンガン迫った圭太ですけど、オメメに分厚い眼鏡をかけて
静を見ているものですから、もう、ブレてブレて・・・
でも、心は(特に欲望には)正直だから、パーティーまでは自問自答の日々、
静はオロロそわそわと苦悶の日々(笑)
伊原さんの1人勝ちの高らかな笑い声が聞こえてきます♪
何故か、伊原さん書くの、ちょっとずつ快感になってきた自分を発見・・

>ドキドキしてきた~!!!(笑)
 ミートン・メートンさまにドキドキしていただけるものが書ければいいですけど、
イタタ記事のになりそうな予感が・・・(||^▽^;)

コメントありがとうございます!
Sさま♪
 いつも、すみません!!
本当に助かります。ありがとうございます♪♪
即行、修正しました!!って6時間も放置しちゃったよ~嗚呼~~っ
最近、ボケが一段と進行しているような・・・(゚д゚lll)
一旦、記事をSさまに送って校正してもらってからUPしたいくらいでございます。。マジで(汗
みなさま、スミマセン、スミマセン・・・ペコペコペコ・・
以後、気をつけますと言っても、きっとまた出てくると思うので、
またよろしくお願い致しま~す←図々しいですね、スミマセン~~~~
シズカと呼ばないで
やっぱり。河村氏が呼ぶ『シズカ』は静さんにとって特別だったんですね。
もぉ~~~伊原さんたら、知っててやるんだからっイケズー(≡ ̄ー ̄≡)ニヤドラ もっといじめてあげて!!
河村氏もなんだかムズムズしてきたみたいだし♡

ふぅー。シズカ、俺にはウオッカをトニックで割って。あっ俺下戸だったんだ(;´Д`)
シマシマ猫さま♪
 おはようございます♪
>河村氏が呼ぶ『シズカ』は静さんにとって特別だったんですね。
 河村しか使わない特別な呼び名は、河村にとって自分は他より
近い存在であると自覚できる重要なキーワード。
伊原に呼ばれるなんて、ぜ~~ったいイヤ~~!!と思っている筈。。
でも、呼ばせちゃうけど~(笑)

 あ~~、やっぱり、”河村”の方が”圭太”よりしっくりきます。
静主観の話だからと圭太にしてみたけど、違和感がいつまでたっても消えない・・・
3話くらいで、思い切って書き換えればよかったと、超~後悔しています(涙

>河村氏もなんだかムズムズしてきたみたいだし♡
 河村もムズムズしてきて温~いながらも、やっと展開が・・・

>あっ俺下戸だったんだ(;´Д`)
 (笑)そうなんですね~ んじゃ、静に日本茶でも淹れさせます♡ あ、えろ伊原に淹れさせた方がよかったかしらん?でも、茶の他になにが入ってるか、怪しげですが・・♡♡

しっかし、掻き入れ時のはずなのに客が来ないな~この店は・・・
シマ猫ちゃま、お気遣いに感謝です。コメント、ありがとうございます♪
ち、違うのよ圭太さん!
と代わって言い訳してあげたくなってしまう。
しーたんはこういう場面に弱そうですよね。
このまま伊原さんが勝ち続けてもいいのか圭太?!
そういう対象にまだ見てくれないんですかね。
盗られちゃうよ?!
しーたんのオロオロそわそわが伝わってきます。
続きがきになる…
りりさま♪
 こんばんはv
しーたんは、今まで頭の中になかったキャラクターをしているので、
リンクしにくい上に、苛々して、う~う~唸りたくなります。
って、のっけから愚痴でですみません(滝汗

>しーたんはこういう場面に弱そうですよね。
 良い言い方をすれば奥ゆかしい人なので、オロオロ手を拱いてます。
圭太はしーたんの性格はバッチリ把握しているんですけどねぇ。
圭太の微妙な変化に気付いているのは、伊原だけ~♪

>続きがきになる…
 そう言って頂き、ありがとうございます。
根がぐうたらな性格上、最近益々手が遅くなっています(汗
何とかしなくては・・・
コメント、ありがとうございます♪

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