02 ,2009
深海魚 3
車の外を、都会の見る度に高くなっていくビル郡が流れ過ぎて行く。
4年前までは自分も、この街を自在に泳ぎ回っていた筈だったのに、この街は訪れる度に自分の知らない街へと変貌を遂げていた。圭太の運転するポルシェGT2は、人も建物も高密度にせめぎあう都会を切り裂くように首都高速を突っ走っていく。
静を引きとめた後、圭太は一旦、2人のスタッフの元に戻りそれから姿を消した後、車をまわして戻って来た。
「圭太さん、打ち上げは行かなくて良かったんですか?」
「打ち上げ? 今日のは単にスタッフと飲みに行こうかって話しだったんだけど。互いに気を遣うMAMのエライさん達と飲んだって面白くともなんともないだろう? ここんとこ激務で丁度、息抜きもしたかったし、週末は葉山のセカンドハウスでゆっくりするよ。そう思えば、今日はシズカに会えてラッキーだったかもな」
そう言って向けられた笑顔に心が小躍りしそうになるのを、商売用の笑顔を顔に貼り付けることで何とか乗り切った。その勢いで、自分の中の厭らしい勘繰りを口に乗せる。
「でも、明日はバレンタインですよ。誰かと会う約束とかないんですか?」
「ああ、そういえばそんなイベントが世間にはあったっけな。最近やたらとメールが多いと思った」 苦笑混じりに笑っている。
「読まないの? メール」
「ここんとこ忙しかったからな。仕事関係以外は、申し訳ないが無視だ」
週末、圭太が葉山にいる、そう思うだけで胸をノックするリズムが高くなる。
先程、講演会が催されていた美術館MAM(モダン・アート・ミュージアム)は元々、臨海都市再開発の一環として計画されたが一年前、クライアントの事業縮小と融資元であったHNホールディングスの買収問題で計画が頓挫しそうになった。事業を引き継いだ高波グループによって規模は縮小されたものの、都市開発は続行され圭太の設計したMAMも日の目を見ることとなった
日本中を揺るがほどの騒動の引き金となった、大企業買収を仕掛けた男が自分もよく知る男で、先程、時見 享一を抱きしめようとして躱された永邨 周(ながむら あまね)だったと思うと、不思議な感じがする。
圭太は以前、周にもちょっかいをかけていた。だが、それをいったらキリが無い。
出合った頃からモテまくっていた圭太の隣にはいつも、美しい女が座を占めていた。いつの頃からか、その恋人の位置に男が混じり始めた。自分の圭太に対する気持ちが、単なる憧れではないことに気が付いたのもその頃だ。圭太がクリスマスやバレンタインのイベント時にひとりでいるのを一度も見たことが無い。
明日は、圭太は葉山にいる。店のささやかな飾りつけ以外に、イベントというものを意識したことはなかったが、バレンタインに圭太がひとりで葉山にいるという事実が、静の心の中に小さな喜びを生み出した。静は、我に返ったように小さく息を呑むと、自分の胸に灯る自分本位なささやかな喜びを、慌てて打ち消した。
これではまるで、現在、圭太に恋人がいない事を喜んでいるみたいだ。
「圭太さん、飲んで車で帰るつもりだったんですか?」
先の言葉を裏付けるように、ハンドルを握る圭太の横顔に微かな疲労が滲む。
「さっきいた眼鏡のほう。あいつは、超下戸の癖に、飲みにいくのが好きという変わり種でね。代わりに車を運転してくれるからありがたい存在ではあるが、ちょいと煩いのが玉に瑕」
軽く笑いながら、圭太が言う。こんな、普通の会話が自分には、とても嬉しいことなのだと、圭太は想像できるだろうか?
「ところでシズカ、今日は何の用で東京に来たの?薫は確か今、撮影でイタリアだろ?」
なんといおうか迷ったが、正直に話すことにした。
「圭太さん、俺、シーラカンスを買い取ろうと思うんだ」
「買い取る? シズカがあの店を? 伊原さんは承諾したのか?」
「いや、まだ交渉の土俵にも乗せてもらってない」
「東京にはもう戻らないつもりなのか?」
「……うん。海のそばにあるあの店が好きなんだ。葉山にいれば湘南も近いし、サーフィンも好きなときに出来るだろう?」
もし、俺があの店を離れられない理由を言ったら、圭太はどんな顔をするのだろう?
←前話 次話→
■静×圭太 関連<SS> ― 願い ―
■河村 圭太 関連作 翠滴 2
4年前までは自分も、この街を自在に泳ぎ回っていた筈だったのに、この街は訪れる度に自分の知らない街へと変貌を遂げていた。圭太の運転するポルシェGT2は、人も建物も高密度にせめぎあう都会を切り裂くように首都高速を突っ走っていく。
静を引きとめた後、圭太は一旦、2人のスタッフの元に戻りそれから姿を消した後、車をまわして戻って来た。
「圭太さん、打ち上げは行かなくて良かったんですか?」
「打ち上げ? 今日のは単にスタッフと飲みに行こうかって話しだったんだけど。互いに気を遣うMAMのエライさん達と飲んだって面白くともなんともないだろう? ここんとこ激務で丁度、息抜きもしたかったし、週末は葉山のセカンドハウスでゆっくりするよ。そう思えば、今日はシズカに会えてラッキーだったかもな」
そう言って向けられた笑顔に心が小躍りしそうになるのを、商売用の笑顔を顔に貼り付けることで何とか乗り切った。その勢いで、自分の中の厭らしい勘繰りを口に乗せる。
「でも、明日はバレンタインですよ。誰かと会う約束とかないんですか?」
「ああ、そういえばそんなイベントが世間にはあったっけな。最近やたらとメールが多いと思った」 苦笑混じりに笑っている。
「読まないの? メール」
「ここんとこ忙しかったからな。仕事関係以外は、申し訳ないが無視だ」
週末、圭太が葉山にいる、そう思うだけで胸をノックするリズムが高くなる。
先程、講演会が催されていた美術館MAM(モダン・アート・ミュージアム)は元々、臨海都市再開発の一環として計画されたが一年前、クライアントの事業縮小と融資元であったHNホールディングスの買収問題で計画が頓挫しそうになった。事業を引き継いだ高波グループによって規模は縮小されたものの、都市開発は続行され圭太の設計したMAMも日の目を見ることとなった
日本中を揺るがほどの騒動の引き金となった、大企業買収を仕掛けた男が自分もよく知る男で、先程、時見 享一を抱きしめようとして躱された永邨 周(ながむら あまね)だったと思うと、不思議な感じがする。
圭太は以前、周にもちょっかいをかけていた。だが、それをいったらキリが無い。
出合った頃からモテまくっていた圭太の隣にはいつも、美しい女が座を占めていた。いつの頃からか、その恋人の位置に男が混じり始めた。自分の圭太に対する気持ちが、単なる憧れではないことに気が付いたのもその頃だ。圭太がクリスマスやバレンタインのイベント時にひとりでいるのを一度も見たことが無い。
明日は、圭太は葉山にいる。店のささやかな飾りつけ以外に、イベントというものを意識したことはなかったが、バレンタインに圭太がひとりで葉山にいるという事実が、静の心の中に小さな喜びを生み出した。静は、我に返ったように小さく息を呑むと、自分の胸に灯る自分本位なささやかな喜びを、慌てて打ち消した。
これではまるで、現在、圭太に恋人がいない事を喜んでいるみたいだ。
「圭太さん、飲んで車で帰るつもりだったんですか?」
先の言葉を裏付けるように、ハンドルを握る圭太の横顔に微かな疲労が滲む。
「さっきいた眼鏡のほう。あいつは、超下戸の癖に、飲みにいくのが好きという変わり種でね。代わりに車を運転してくれるからありがたい存在ではあるが、ちょいと煩いのが玉に瑕」
軽く笑いながら、圭太が言う。こんな、普通の会話が自分には、とても嬉しいことなのだと、圭太は想像できるだろうか?
「ところでシズカ、今日は何の用で東京に来たの?薫は確か今、撮影でイタリアだろ?」
なんといおうか迷ったが、正直に話すことにした。
「圭太さん、俺、シーラカンスを買い取ろうと思うんだ」
「買い取る? シズカがあの店を? 伊原さんは承諾したのか?」
「いや、まだ交渉の土俵にも乗せてもらってない」
「東京にはもう戻らないつもりなのか?」
「……うん。海のそばにあるあの店が好きなんだ。葉山にいれば湘南も近いし、サーフィンも好きなときに出来るだろう?」
もし、俺があの店を離れられない理由を言ったら、圭太はどんな顔をするのだろう?
←前話 次話→
■静×圭太 関連<SS> ― 願い ―
■河村 圭太 関連作 翠滴 2
■最後までお読みいただき、ありがとうございます。
こんにちは、紙魚です。
3話なんですね、3話。なのにゼンゼン進展してません。
短編の予定なんですけど、、一応ネ。
萌えなしでダラダラ・・・飽きてませんか?スイマセン、スイマセン・・
ランキングを離脱していますのに、読みに来て下さる方が思っていたより
遥かに多かったので、驚いています(超、地味サイトなんで。。オホホ・・)
嬉しくって、感謝・感謝でございます。
ありがとうございます。
ここ2~3日は、激寒ですね。
どうぞ、みなさまご自愛くださり、風邪など召されませんように。
こんにちは、紙魚です。
3話なんですね、3話。なのにゼンゼン進展してません。
短編の予定なんですけど、、一応ネ。
萌えなしでダラダラ・・・飽きてませんか?スイマセン、スイマセン・・
ランキングを離脱していますのに、読みに来て下さる方が思っていたより
遥かに多かったので、驚いています(超、地味サイトなんで。。オホホ・・)
嬉しくって、感謝・感謝でございます。
ありがとうございます。
ここ2~3日は、激寒ですね。
どうぞ、みなさまご自愛くださり、風邪など召されませんように。
そして相変わらず紙魚さんのこの澄んだ空気感が堪りません(●´д`●´д`●´д`●)ポポポッ
あーー進展あって欲しいなぁ~。
いい方向に・・・。
で、髭剃ったしーちゃんが見たいですw
圭太さんに「やっぱそっちの方がいいな」とか言われちゃったりして~~!!
きゃーー!!!
勝手に妄想スイマセンスイマセン(_ _(--;(_ _(--; ペコペコ