02 ,2009
翠滴 2 -エピローグ 3- 最終話
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「ああ、お腹すいたわね。お兄様いらっしゃる?」
突如聞こえた複数の足音と、人の声にぎょっとした。
「享一、覚悟しろよ。パワーアップしたカシマシ娘の登場だぞ」
茶化しながらも、その声には、優しさが滲み出ている。
振返ると、目にも艶やか晴れ着を纏い、3年前より更に完成された美しさを身につけた美貌の双子が、背後に鳴海を引き連れてやって来た。
享一達を見つけると、華やいだ雰囲気に黄色い声もくっつけて足早に寄ってくる。
「享一さん、お久しぶりですわ」
「お元気でしたの?」
「あら、この髪型は薫ちゃんかしら?素敵。」
艶を増した優美な日本人形の顔をグッと近づけられてたじろいだ。
「美操さん、・・・久しぶりです」
美操と呼ばれた彼女は、ニヤリと兄と同じニヒルな笑みを浮かべると、「茅乃ですわ」と返してきた。中身は3年前と、さして変わらないらしい。
双子の背後に立つ鳴海と目が合い、居心地の悪さを感じた。結局、周に救い出された自分を、鳴海はどう思っているのか。表情を表に出さないクールな風貌からは何も判らず、享一はそのまま視線を落とした。
「時見さん、その節は失礼いたしました」
鳴海が自分の部屋に現れてから、実際は1ヶ月半ほどなのに、数え切れない長い月日を経たような気がする。「いえ」とだけ答えて伺った鳴海の目には、あの時の見るだけで心臓を凍りつかせるような剣呑さは無い。ただ沈静した怜悧な瞳をさり気無く逸らされた。
「鳴海、随分早かったな。
2人を乗せてのドライブは、さぞ辛かっただろう。ご苦労だった」
「お兄様、ひっどーい!!」
黄色い抗議の声を尻目に、鳴海が薄く笑う。
「いえ、すみません。おふたりの早くこちらに到着したいとのご要望で、東京を早めに出ました。夕食はまだかと思いましたので、玉庵の折をご用意してあります。
ところで準備はもう始めてもよろしいのですか? お召し物もそのままで?」
鳴海が問うと、周は突然現れた3人に目を白黒させている享一の手を取り向き直った。
左手の薬指に冷たい感触がして目を下ろすと、幅広の銀色に光る指輪が嵌っていて驚いた。
口々に好き勝手を言っていた双子の声が止み、華やいだ場が一転して緊張する。いきなり双子の前で指輪を嵌められ、なす術もなく固まった享一は、狼狽えながらも抗議の色を滲ませ周を睨みつけた。火照った顔に3人の視線が痛い。
「享一、もう一度、私と祝言を挙げてくれますか?」
「は?」 瞠目して固まる。
一体、この男は人前で何という事を訊くのか・・・
いや、これが永邨 周だ。強くて美しく、我侭で不埒、惚れたのは自分のほう。
皆が固唾を呑んで自分を見ている。さらに、頭に血が上った。
「享一、俺と結婚して欲しい」
周が片手を伸ばしてきた。その手を取る
「ああ。周、結婚しよう」
双子の歓声が上がり、鳴海は煩悶の表情を隠すように
眼鏡のブリッジを持ち上げた。
「では、早速 支度をはじめましょう。周、場所は能舞台でよろしいですか?」
「え?今からですか?」
「ええ、前のような派手な演出は出来ませんが、構いませんか?」
「いや、とんでもないです。あれはもう勘弁してください。あの衣装は殆ど拷問に近かった、二度とごめんです」
麗かな春の宵に、華やかな笑い声が上り、交互に絡めた指はいつまでも離れない。
夜桜の舞う能舞台の上で、ささやかな宴が始まった。
雪洞に灯をともし、月明かりの中、周が「高砂や」を謡う。
前回と同じく、雄蝶雌蝶を美操と茅乃が務める。2人は、前にも増して艶やかに咲き誇り、瑞々しい若さの中に兄とはまた違った色を匂い立たせていた。アメリカへの留学を決めている2人は、準備のため間もなく渡米してしまう。あと何度も、こうやって皆が集まる事は無いのかもしれない。そう思うと、静かな春の夜に散る桜を前に 一片の寂寥感がひらひらと舞いながら胸に落ちる。
目の前に出された盃のお神酒に、目の前を舞い下りた花弁が2枚浮いている。
周を見ると深い翠の瞳が愛しげに微笑んだ。
すべては、この翡翠の瞳に捕えられた瞬間に始まった。
そして、今やっと自分もこの瞳を捕まえた。
-翠滴2 エピローグ 終 -
「ああ、お腹すいたわね。お兄様いらっしゃる?」
突如聞こえた複数の足音と、人の声にぎょっとした。
「享一、覚悟しろよ。パワーアップしたカシマシ娘の登場だぞ」
茶化しながらも、その声には、優しさが滲み出ている。
振返ると、目にも艶やか晴れ着を纏い、3年前より更に完成された美しさを身につけた美貌の双子が、背後に鳴海を引き連れてやって来た。
享一達を見つけると、華やいだ雰囲気に黄色い声もくっつけて足早に寄ってくる。
「享一さん、お久しぶりですわ」
「お元気でしたの?」
「あら、この髪型は薫ちゃんかしら?素敵。」
艶を増した優美な日本人形の顔をグッと近づけられてたじろいだ。
「美操さん、・・・久しぶりです」
美操と呼ばれた彼女は、ニヤリと兄と同じニヒルな笑みを浮かべると、「茅乃ですわ」と返してきた。中身は3年前と、さして変わらないらしい。
双子の背後に立つ鳴海と目が合い、居心地の悪さを感じた。結局、周に救い出された自分を、鳴海はどう思っているのか。表情を表に出さないクールな風貌からは何も判らず、享一はそのまま視線を落とした。
「時見さん、その節は失礼いたしました」
鳴海が自分の部屋に現れてから、実際は1ヶ月半ほどなのに、数え切れない長い月日を経たような気がする。「いえ」とだけ答えて伺った鳴海の目には、あの時の見るだけで心臓を凍りつかせるような剣呑さは無い。ただ沈静した怜悧な瞳をさり気無く逸らされた。
「鳴海、随分早かったな。
2人を乗せてのドライブは、さぞ辛かっただろう。ご苦労だった」
「お兄様、ひっどーい!!」
黄色い抗議の声を尻目に、鳴海が薄く笑う。
「いえ、すみません。おふたりの早くこちらに到着したいとのご要望で、東京を早めに出ました。夕食はまだかと思いましたので、玉庵の折をご用意してあります。
ところで準備はもう始めてもよろしいのですか? お召し物もそのままで?」
鳴海が問うと、周は突然現れた3人に目を白黒させている享一の手を取り向き直った。
左手の薬指に冷たい感触がして目を下ろすと、幅広の銀色に光る指輪が嵌っていて驚いた。
口々に好き勝手を言っていた双子の声が止み、華やいだ場が一転して緊張する。いきなり双子の前で指輪を嵌められ、なす術もなく固まった享一は、狼狽えながらも抗議の色を滲ませ周を睨みつけた。火照った顔に3人の視線が痛い。
「享一、もう一度、私と祝言を挙げてくれますか?」
「は?」 瞠目して固まる。
一体、この男は人前で何という事を訊くのか・・・
いや、これが永邨 周だ。強くて美しく、我侭で不埒、惚れたのは自分のほう。
皆が固唾を呑んで自分を見ている。さらに、頭に血が上った。
「享一、俺と結婚して欲しい」
周が片手を伸ばしてきた。その手を取る
「ああ。周、結婚しよう」
双子の歓声が上がり、鳴海は煩悶の表情を隠すように
眼鏡のブリッジを持ち上げた。
「では、早速 支度をはじめましょう。周、場所は能舞台でよろしいですか?」
「え?今からですか?」
「ええ、前のような派手な演出は出来ませんが、構いませんか?」
「いや、とんでもないです。あれはもう勘弁してください。あの衣装は殆ど拷問に近かった、二度とごめんです」
麗かな春の宵に、華やかな笑い声が上り、交互に絡めた指はいつまでも離れない。
夜桜の舞う能舞台の上で、ささやかな宴が始まった。
雪洞に灯をともし、月明かりの中、周が「高砂や」を謡う。
前回と同じく、雄蝶雌蝶を美操と茅乃が務める。2人は、前にも増して艶やかに咲き誇り、瑞々しい若さの中に兄とはまた違った色を匂い立たせていた。アメリカへの留学を決めている2人は、準備のため間もなく渡米してしまう。あと何度も、こうやって皆が集まる事は無いのかもしれない。そう思うと、静かな春の夜に散る桜を前に 一片の寂寥感がひらひらと舞いながら胸に落ちる。
目の前に出された盃のお神酒に、目の前を舞い下りた花弁が2枚浮いている。
周を見ると深い翠の瞳が愛しげに微笑んだ。
すべては、この翡翠の瞳に捕えられた瞬間に始まった。
そして、今やっと自分もこの瞳を捕まえた。
-翠滴2 エピローグ 終 -
<<← 前話/3章ー1>>
□□今回をもちまして、翠滴 2 は終わりです。
長々のご愛読、ありがとうございました(*^_^*)ペコリ
日ごろコメント・拍手・村ポチありがとうございます。
読み手の皆さまからの、パワーを頂いております。
本当に、感謝です。
ブログ拍手コメントのお返事は、サイトの”もんもんもん”の
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□□今回をもちまして、翠滴 2 は終わりです。
長々のご愛読、ありがとうございました(*^_^*)ペコリ
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もう、吐息しか出ません・・。
周と享一、幸せになれて良かった・・・。
最後に、みんなの前でプロポーズとは・・流石の演出に思わずニヤリと笑っちゃいました。(むふふっ・・
紙魚さまの世界は、本当に素敵ですね~。
読んでいると、別世界に逃避行した気分になります。
ウットリとしばらくこの余韻に浸っていたいわ~。
完結お疲れ様でした!
翠滴2の次は、3があるのでしょうか・・?
何をおいても、紙魚さまの次回作、楽しみにしております!
まずは、ゆっくり休んで下さいね!