01 ,2009
翠滴 2 春雷 2 (49)
←(47) (49)→
「周に、勝ち目ははないよ。享一」
河村は自分のデスクの置いてある部屋の窓際のソファに座っていた。春を濃くした陽気が高い窓から差込み、河村の茶色味の勝つくせ毛の上で踊っている。
その正面に享一が立っていた。
「下手を打てば、シップス&パートナーズは濫用的買収者とみなされかねない。
そうなれば、日本での、信用を完全に失墜させ、日本でのビジネスチャンスを
棒に振る事になる。周の関係する”GLAMOROUS”や融資を受けていた
N・Aトラストもただでは済まないだろう。ただ、周はそれをわかっていてやっている節がある」
「どういうことですか?」
「先日の、N・Aトラストの事業縮小は周のやったことらしい」
「周は、叔父の死に便乗して、N・Aトラストの旨みのある部門に抱き合わせて
負担になっているいくつかの部門を高波グループに委譲した後、トラストの資産を含めた
永邨の相続の全権利を破棄し、永邨との縁を断ったらしい。
騰真氏の死から事業整理まで、目を見張る早さだったそうだ。
これで、N・AトラストはNKホールディングスからの多額の融資がなくとも破綻は免れ、
政財界からの非難も回避できるという訳だ。」
享一の知らない したたかな周がまた顔を覘かせる。
自分の意思でなかったにしろ、自らの血肉を削って守ってきた永邨とN・Aトラストを惜しげもなく切り捨て、単身で持てる力を最大限に発揮して豪胆に切り開いていく。
短期間の間に持てるカードを手早く切り、操りながら次の手を打っている。
「頭のいい男だ。俺は周がNKホールディングスをアメリカ企業に売り飛ばそうと
考えているとは思えない。日本の歴史と経済に大きく根を張るNKホールディングスの売却は
日本の経済の基盤を脆弱化させることにもなりかねない。国がそれを許すはずが無いだろう。
享一、周の狙いはなんだ? 」
NKホールディングスと言えば、日本でも有数の大企業だ。手を出せば、日本の政・財・官が黙ってはいない。アメリカのファンド会社を従えて正面切って財界に斬り込んだ周はその実年齢と容姿から、"巨大な像に楯突く美しい青蛙"と揶揄され、メディアを賑わせた。
買収を宣言したその日のうちに、周が同時に代表を務める”GLAMOROUS”の詳細や、事業縮小を発表したばかりのN・A トラストとの繋がりなど、表面化している周のデーターが総てメディアを通じて晒された。
良し悪しの分別は忘れられ、一気に時の人となった周は会見には姿を見せず、代理人として鳴海がその席に着いている。
予め予想していたのか、周は”GLAMOROUS”での別れ際に、享一に自分が連絡をするまで待って欲しいと言った。
桜の頃、必ず迎えに行く
その言葉は今も艶やかな薄紅を纏い、胸の中ではらはらと小さな花弁を舞い上げている。
「周は、NKホールディングスなど欲しがってはいない、狙いは他にある」
河村の言葉に、生々しいリアリティを感じた。
周が心の底から真に切望するもの・・・・電車の外を流れる夕暮れに疲れた色を滲ませる東京の街を眺める。
春の柔らかな夕刻の陽射しがビルのガラスやエッジに反射して、ささやかな華やかさを添えていた。
この街のどこかに周がいる、今はそれだけでよかった。
NKホールディングスは剰余金を配当金として既存株主に拠出する事でTOBにブレーキをかける一方で、巨大な力を振りかざし政界に働きかけ、周率いるシップス&パートナーズに濫用的買収者の烙印を捺そうと、息の掛かったメディアをことごとく利用し糾弾させていた。ジャーリストやコメンテーターは挙って、日本の企業が外資に買われていくことへの懸念を口にする。
享一は、テレビや新聞を見ずに過ごした。何気なく目にする車内吊りの見出しにも、今回の買収劇が刺激の強い言葉と字で語られている。目を伏せて逸らし、ホームへ降り立った。
背後で、ドンという人がぶつかるような音がして続いてカラカラと金属が地面をすべる音がする。何かが当たる感覚に見下ろすと、足許に登山ナイフが落ちていた。「君、下がって!」スーツ姿の男が、ジャンパーを着た浮浪者風の男を取り押さえている。
「永邨 周さまより、時見さまの警護を承っております」 スーツ姿の男から告げられ、驚いた。ホームの床に転がった冷たい光を反射する登山ナイフが、自分を貫くためのものであったと知らされ、背筋が凍りついた。
「我々がついている事で相手への牽制にもなりますので」
改めて、神前という男の執着と業の深さ、それに言い表しようのない弱さのようなものを感じた。
桜の開花が宣言された日、長年ライバル企業といわれてきた、『高波グループ』がNKホールディングスを救済するホワイトナイトとして合併の名乗りを上げた。
派手に国内を騒がせた買収劇が収束に向かう頃、東京の桜はピークを終え、花吹雪を散らしていた。
<<← 前話/2-1/次話 →>>
「周に、勝ち目ははないよ。享一」
河村は自分のデスクの置いてある部屋の窓際のソファに座っていた。春を濃くした陽気が高い窓から差込み、河村の茶色味の勝つくせ毛の上で踊っている。
その正面に享一が立っていた。
「下手を打てば、シップス&パートナーズは濫用的買収者とみなされかねない。
そうなれば、日本での、信用を完全に失墜させ、日本でのビジネスチャンスを
棒に振る事になる。周の関係する”GLAMOROUS”や融資を受けていた
N・Aトラストもただでは済まないだろう。ただ、周はそれをわかっていてやっている節がある」
「どういうことですか?」
「先日の、N・Aトラストの事業縮小は周のやったことらしい」
「周は、叔父の死に便乗して、N・Aトラストの旨みのある部門に抱き合わせて
負担になっているいくつかの部門を高波グループに委譲した後、トラストの資産を含めた
永邨の相続の全権利を破棄し、永邨との縁を断ったらしい。
騰真氏の死から事業整理まで、目を見張る早さだったそうだ。
これで、N・AトラストはNKホールディングスからの多額の融資がなくとも破綻は免れ、
政財界からの非難も回避できるという訳だ。」
享一の知らない したたかな周がまた顔を覘かせる。
自分の意思でなかったにしろ、自らの血肉を削って守ってきた永邨とN・Aトラストを惜しげもなく切り捨て、単身で持てる力を最大限に発揮して豪胆に切り開いていく。
短期間の間に持てるカードを手早く切り、操りながら次の手を打っている。
「頭のいい男だ。俺は周がNKホールディングスをアメリカ企業に売り飛ばそうと
考えているとは思えない。日本の歴史と経済に大きく根を張るNKホールディングスの売却は
日本の経済の基盤を脆弱化させることにもなりかねない。国がそれを許すはずが無いだろう。
享一、周の狙いはなんだ? 」
NKホールディングスと言えば、日本でも有数の大企業だ。手を出せば、日本の政・財・官が黙ってはいない。アメリカのファンド会社を従えて正面切って財界に斬り込んだ周はその実年齢と容姿から、"巨大な像に楯突く美しい青蛙"と揶揄され、メディアを賑わせた。
買収を宣言したその日のうちに、周が同時に代表を務める”GLAMOROUS”の詳細や、事業縮小を発表したばかりのN・A トラストとの繋がりなど、表面化している周のデーターが総てメディアを通じて晒された。
良し悪しの分別は忘れられ、一気に時の人となった周は会見には姿を見せず、代理人として鳴海がその席に着いている。
予め予想していたのか、周は”GLAMOROUS”での別れ際に、享一に自分が連絡をするまで待って欲しいと言った。
その言葉は今も艶やかな薄紅を纏い、胸の中ではらはらと小さな花弁を舞い上げている。
「周は、NKホールディングスなど欲しがってはいない、狙いは他にある」
河村の言葉に、生々しいリアリティを感じた。
周が心の底から真に切望するもの・・・・電車の外を流れる夕暮れに疲れた色を滲ませる東京の街を眺める。
春の柔らかな夕刻の陽射しがビルのガラスやエッジに反射して、ささやかな華やかさを添えていた。
この街のどこかに周がいる、今はそれだけでよかった。
NKホールディングスは剰余金を配当金として既存株主に拠出する事でTOBにブレーキをかける一方で、巨大な力を振りかざし政界に働きかけ、周率いるシップス&パートナーズに濫用的買収者の烙印を捺そうと、息の掛かったメディアをことごとく利用し糾弾させていた。ジャーリストやコメンテーターは挙って、日本の企業が外資に買われていくことへの懸念を口にする。
享一は、テレビや新聞を見ずに過ごした。何気なく目にする車内吊りの見出しにも、今回の買収劇が刺激の強い言葉と字で語られている。目を伏せて逸らし、ホームへ降り立った。
背後で、ドンという人がぶつかるような音がして続いてカラカラと金属が地面をすべる音がする。何かが当たる感覚に見下ろすと、足許に登山ナイフが落ちていた。「君、下がって!」スーツ姿の男が、ジャンパーを着た浮浪者風の男を取り押さえている。
「永邨 周さまより、時見さまの警護を承っております」 スーツ姿の男から告げられ、驚いた。ホームの床に転がった冷たい光を反射する登山ナイフが、自分を貫くためのものであったと知らされ、背筋が凍りついた。
「我々がついている事で相手への牽制にもなりますので」
改めて、神前という男の執着と業の深さ、それに言い表しようのない弱さのようなものを感じた。
桜の開花が宣言された日、長年ライバル企業といわれてきた、『高波グループ』がNKホールディングスを救済するホワイトナイトとして合併の名乗りを上げた。
派手に国内を騒がせた買収劇が収束に向かう頃、東京の桜はピークを終え、花吹雪を散らしていた。
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
ちょっと、駆け足で進んじゃったので、読みにくいかもしれません。
すみません!!
日ごろコメント・拍手・村ポチありがとうございます。
もうすぐ、5000HIT行きそうなので、キリバン踏まれた方で
もし、キリリクがありましたら、おしらせください☆
ブログ拍手コメントのお返事は、サイトの”もんもんもん”の
ブログ拍手コメ・メールのお返事からか、もしくは*こちら*から

ちょっと、駆け足で進んじゃったので、読みにくいかもしれません。
すみません!!
日ごろコメント・拍手・村ポチありがとうございます。
もうすぐ、5000HIT行きそうなので、キリバン踏まれた方で
もし、キリリクがありましたら、おしらせください☆
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周の完璧な人間像に、ウットリ頬を赤らめてしまいます!
とは言え、神前の執着心のねばっちこさには、怒りがメラメラと込み上げますよ!
でも、周ナイス!
ボディーガードとは!!
あとは、周・・早く享一を迎えに来てあげて~!!
そうそう、昨日のコメントを拝見しました。
J庭、私も意味が分からなく、ネットで調べた派です!
妙な所で、紙魚さまと親近感を感じてしまいました!!
うふふっ・・。
ではでは、完結まであと少し、頑張ってくださいねっ!