01 ,2009
翠滴 2 春雷 1 (48)
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「みんな、今朝のニュースか新聞見たか?NKホールディングスが
アメリカのシップス&パートナーズにM&Aをかけられたぞ」
梅原がアトリエに着くなり今朝のニュースを口にした。
「うっそお!NKホールディングスって言えばN・Aトラストに
融資してる会社じゃなかったっけ?」
二ノ宮が、「打てば響く」といういつもの掛け合いのテンポの良さで反応する。
「何だ?そのシップス&パートナーズって?」
構造マニュアルを読みふけっていた相模がマニュアル本から目を上げた。
「アメリカに本拠地をおく、そこそこ大手の投資ファンドなんだけど、
日本企業の買収って聞いたの初めてだ。なんで、NKホールディングスに目をつけたんだろう?」
「あっと・・・、インターネットで今朝のニュースやってるよ」
大森建設と電話とPCでデーターの遣り取りをしている享一以外の全員がリーの机に集まった。河村は、いつもなら皆より一時間は先にアトリエに来ているが、今日はまだ姿を見せてない。
「ええ?これがシップス&パートナーズの日本法人の代表?若っかーい!しかも、超美形じゃね?」
「水も滴るってヤツだな。威風堂々とした態度といい、幾つぐらいだろう。
この落ち着きようだと、案外見た目より結構いってそうだよな」
「あれ、永邨って、この苗字。昨日死亡が報道されたN・Aトラストの代表と同じじゃん
”偶然”にしちゃあちょっと珍しくねえ? この苗字・・」
「おい、時見。世間はなんかえらい事になってるぞ。ちょっと、これ見てみろよ」
データ送信の確認が終わって電話を切ったところで、梅原から声を掛けられた。
「どうしたんですか?」
「N・Aトラストの事業縮小に続く、NKホールディングスの買収騒動。
MAM・・・・いや、臨海都市計画自体の存亡の危機かもねぇ」
リーがさして危機感もなさそうに、画面の再生を示す右向きの三角をクリックしながら呟いた。このご時世、計画がぽしゃるのは、設計事務所にとって珍しい事ではない。河村のアトリエより、工事を請け負うはずの大森建設の方が確実にダメージは大きい。
画面が再生になり、会見用にセッティングされた机に並んで座る男達の様子が映し出された。夥しい数の記者やりポーター、カメラに囲まれた数人のアメリカ人と東洋人がアップになる。
その中でたった一人立ち上がり、異常な数のマイクを前に喋る一人の男に享一の目が釘付けになった。
『我々は、この度NKホールディングスの公開株式の34%を取得いたしました
引き続き、半数以上の取得を目指してTOBをかけていきたいと思います』
その男は真っ直ぐ前を向き、黒い瞳から気を吐きながら言い切った。
周とは”GLAMOROUS”で別れて4日が経った。
その周が、今画面の中で全国に向けてNKホールディングスの買収を高らかに宣言している。いきなりの展開に、またも眩暈を覚えそうだ。周は、NKホールディングスにM&A(企業買収)を仕掛けたアメリカのファンド会社、シップス&パートナーズの日本法人代表としてその席にいた。
「なんか、すっごいカッコいいんじゃない、この代表。かなり若そうだけど、日本人の年齢ってほんっと不明な。時見は幾つだと思う?」
自分も生粋日本人の二ノ宮が画面に映るクォーターの男に目を凝らしたまま訊いてきた。
「27才のはずだけど・・・」
「んな、いくら日本人が若く見るからって、そこまでなわけないじゃん。この不敵なまでの堂々たる面構え。こんなのに正面から睨まれたらゾクッとしちゃうな、きっと」
二ノ宮のいう通りだった。悠然と正面を見据える周は20代には見えず、その端正な顔と老成した態度が実年齢をわからなくしている。
画面が変わって、見覚えのあるNKホールディングスの高層の本社ビルが映った。NKホールディングスの社員達はマイクを向けられ、一様に迷惑そうな顔をし無言で走り去る。その中に、黒塗りの車のリアシートに身を預け建物に入る神前 雅巳が画面に映ると、途端に享一の顔が強張り全身が小さく震えだす。
神前は、無表情で集中して寄せられるマイクや各局のリポーターや記者に一切視線も向けぬまま、建物の地下駐車場へと消えていった。一度体内に入った毒は、なかなか消えそうもなかった。画面が再び記者会見の様子へと移りかわる。会見は各テレビ局との質疑応答に入っていた。
『では今回の株式公開買付けは、敵対的TOBとみなされても構わないという事ですね?』
『我々は、NKホールディングスという会社の更なる発展を視野に入れた上での買収を考えたまでです。
それをNKホールディングス側が敵対的と判断するなら、それは仕方のないことです』
そう答えた周は、カメラに向かって口角だけを上げてニッと笑う。画面の中で記者と、周の遣り取りが続いている。
その顔は、神前に向けられたものだと直感した。
--------最後にお前の息の根を止めてやる
神前に放った周の言葉が甦る。
2年前の失敗で諦めることなく、しぶとく強かにチャンスを狙い、息を潜めてこの時を待っていたのだ。周という男の叡智に長けた忍耐強さと、重なる失敗を恐れぬ大胆不敵な行動力が、周の可能性を無限に広げてゆくのを感じた。
記者会見の最後に席を立ち、帰りかけたシップス&パートナーズの代表達に、女性記者が慌てて同時に立ち上がる。質問はこれまでです、と遮る係員にレポーターは負けじと身を乗り出した。女性記者に気付いた周が去りかけた足を止めて、女性に向き直った。一瞬、息を呑むような間が空き、少し上ずった女性の声が質問を投げかけた。
『この買収に、勝算はおありですか?』
女性レポーターの簡潔な質問に、周は艶然と微笑んだ。
『我々は、狙った獲物は逃がしませんよ』
画面の中の女性記者と一緒に、モニターを見つめるK2の所員たちも、一斉に息を呑む。たぶん、その意味は様々だろうが。
享一は周の艶やかな微笑に胸を打ち抜かれつつも、眉間にシワを寄せこめかみを指で押さえた。
「みんな、今朝のニュースか新聞見たか?NKホールディングスが
アメリカのシップス&パートナーズにM&Aをかけられたぞ」
梅原がアトリエに着くなり今朝のニュースを口にした。
「うっそお!NKホールディングスって言えばN・Aトラストに
融資してる会社じゃなかったっけ?」
二ノ宮が、「打てば響く」といういつもの掛け合いのテンポの良さで反応する。
「何だ?そのシップス&パートナーズって?」
構造マニュアルを読みふけっていた相模がマニュアル本から目を上げた。
「アメリカに本拠地をおく、そこそこ大手の投資ファンドなんだけど、
日本企業の買収って聞いたの初めてだ。なんで、NKホールディングスに目をつけたんだろう?」
「あっと・・・、インターネットで今朝のニュースやってるよ」
大森建設と電話とPCでデーターの遣り取りをしている享一以外の全員がリーの机に集まった。河村は、いつもなら皆より一時間は先にアトリエに来ているが、今日はまだ姿を見せてない。
「ええ?これがシップス&パートナーズの日本法人の代表?若っかーい!しかも、超美形じゃね?」
「水も滴るってヤツだな。威風堂々とした態度といい、幾つぐらいだろう。
この落ち着きようだと、案外見た目より結構いってそうだよな」
「あれ、永邨って、この苗字。昨日死亡が報道されたN・Aトラストの代表と同じじゃん
”偶然”にしちゃあちょっと珍しくねえ? この苗字・・」
「おい、時見。世間はなんかえらい事になってるぞ。ちょっと、これ見てみろよ」
データ送信の確認が終わって電話を切ったところで、梅原から声を掛けられた。
「どうしたんですか?」
「N・Aトラストの事業縮小に続く、NKホールディングスの買収騒動。
MAM・・・・いや、臨海都市計画自体の存亡の危機かもねぇ」
リーがさして危機感もなさそうに、画面の再生を示す右向きの三角をクリックしながら呟いた。このご時世、計画がぽしゃるのは、設計事務所にとって珍しい事ではない。河村のアトリエより、工事を請け負うはずの大森建設の方が確実にダメージは大きい。
画面が再生になり、会見用にセッティングされた机に並んで座る男達の様子が映し出された。夥しい数の記者やりポーター、カメラに囲まれた数人のアメリカ人と東洋人がアップになる。
その中でたった一人立ち上がり、異常な数のマイクを前に喋る一人の男に享一の目が釘付けになった。
『我々は、この度NKホールディングスの公開株式の34%を取得いたしました
引き続き、半数以上の取得を目指してTOBをかけていきたいと思います』
その男は真っ直ぐ前を向き、黒い瞳から気を吐きながら言い切った。
周とは”GLAMOROUS”で別れて4日が経った。
その周が、今画面の中で全国に向けてNKホールディングスの買収を高らかに宣言している。いきなりの展開に、またも眩暈を覚えそうだ。周は、NKホールディングスにM&A(企業買収)を仕掛けたアメリカのファンド会社、シップス&パートナーズの日本法人代表としてその席にいた。
「なんか、すっごいカッコいいんじゃない、この代表。かなり若そうだけど、日本人の年齢ってほんっと不明な。時見は幾つだと思う?」
自分も生粋日本人の二ノ宮が画面に映るクォーターの男に目を凝らしたまま訊いてきた。
「27才のはずだけど・・・」
「んな、いくら日本人が若く見るからって、そこまでなわけないじゃん。この不敵なまでの堂々たる面構え。こんなのに正面から睨まれたらゾクッとしちゃうな、きっと」
二ノ宮のいう通りだった。悠然と正面を見据える周は20代には見えず、その端正な顔と老成した態度が実年齢をわからなくしている。
画面が変わって、見覚えのあるNKホールディングスの高層の本社ビルが映った。NKホールディングスの社員達はマイクを向けられ、一様に迷惑そうな顔をし無言で走り去る。その中に、黒塗りの車のリアシートに身を預け建物に入る神前 雅巳が画面に映ると、途端に享一の顔が強張り全身が小さく震えだす。
神前は、無表情で集中して寄せられるマイクや各局のリポーターや記者に一切視線も向けぬまま、建物の地下駐車場へと消えていった。一度体内に入った毒は、なかなか消えそうもなかった。画面が再び記者会見の様子へと移りかわる。会見は各テレビ局との質疑応答に入っていた。
『では今回の株式公開買付けは、敵対的TOBとみなされても構わないという事ですね?』
『我々は、NKホールディングスという会社の更なる発展を視野に入れた上での買収を考えたまでです。
それをNKホールディングス側が敵対的と判断するなら、それは仕方のないことです』
そう答えた周は、カメラに向かって口角だけを上げてニッと笑う。画面の中で記者と、周の遣り取りが続いている。
その顔は、神前に向けられたものだと直感した。
--------最後にお前の息の根を止めてやる
神前に放った周の言葉が甦る。
2年前の失敗で諦めることなく、しぶとく強かにチャンスを狙い、息を潜めてこの時を待っていたのだ。周という男の叡智に長けた忍耐強さと、重なる失敗を恐れぬ大胆不敵な行動力が、周の可能性を無限に広げてゆくのを感じた。
記者会見の最後に席を立ち、帰りかけたシップス&パートナーズの代表達に、女性記者が慌てて同時に立ち上がる。質問はこれまでです、と遮る係員にレポーターは負けじと身を乗り出した。女性記者に気付いた周が去りかけた足を止めて、女性に向き直った。一瞬、息を呑むような間が空き、少し上ずった女性の声が質問を投げかけた。
『この買収に、勝算はおありですか?』
女性レポーターの簡潔な質問に、周は艶然と微笑んだ。
『我々は、狙った獲物は逃がしませんよ』
画面の中の女性記者と一緒に、モニターを見つめるK2の所員たちも、一斉に息を呑む。たぶん、その意味は様々だろうが。
享一は周の艶やかな微笑に胸を打ち抜かれつつも、眉間にシワを寄せこめかみを指で押さえた。
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
いよいよ、最終章でございます。
日ごろコメント・拍手・村ポチありがとうございます。
読み手の皆さまからの、パワーを頂いております。
本当に、感謝です。
ブログ拍手コメントのお返事は、サイトの”もんもんもん”の
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やっぱり愛するものを手中にすると、男とは輝きが違いますね!
自信も運も漲っているようで、素敵です♪
周の手腕をじっくりと拝見しつつ、2人の愛の深まりを楽しみにしてますね。
頑張れ周~~♪((O(*・ω・*)O))♪ワクワク