01 ,2009
翠滴 2 毒 8 (41)
←(40) (42)→
「周は美しかったよ。君の名前を出されて完全に憤っていた
周はね、怒ると翠の瞳の赤みが増してね、頭に上った血液を抑えようと
苦悶する周は、服従させられ屈辱にのた打ち回る気高い竜のようにゾクゾクする程、美しい」
陶酔するように話す神前の目には周以外の何も映っていないのだろう。享一に向けられた瞳には、狂気めいた全ての光を飲み込んでしまいそうな暗い炎のみが宿り、背筋が寒くなった。その、つかみ所を間違えると間違いなく引きずり込まれそうな暗い深淵から浮上してきた冷たさすらない温度を持たない感情が緩慢に、だが滑らかに享一に照準を合わせる。
やがて残忍さと欲情が綯交ぜになった微笑を浮かべる。一見、上品で優しげに見えるその微笑が、却ってこの男の冷酷さを物語る。ぎゅうと冷え切った心臓が縮み上がり、身体が勝手に後ずさろうとした。それを意地だけで踏み止まらせる。
この男を、心底恐ろしいと思った。
「もう一匹、小綺麗な色をした蜥蜴を飼うのも悪くない」
輝きの無い暗黒の瞳に捕らえられ、動けなくなった。飲み込まれる。
18の周も、この瞳に捕まり恐怖を感じただろうか?アマネ・・・アマネ・・
”アマネ”それは戒めを解き放つ名前だった。ドロリとした暗闇に足を取られ、その大半を占められていた胸の内が、一気に生命力溢れる緑に満たされる。その真中に、いつの間にか享一の心の中に住み着いた、瑞々しい翠の瞳で真直ぐに自分を見つめる18才の周が佇んでいる。
挑戦的な目で神前を睥睨しつつ笑っている自分に気が付いた。自分の中で濃厚な生命力を宿した瑞々しい植物の蔓がいくつも絡み合い育ちながら自分を満たしてゆくのを感じた。大丈夫だ、俺の中には周がいる。
「取るに足らない小さな蜥蜴でも、油断していると、咬みますよ。
俺には守るべきものは一つしかない。周を必ず、あなたから解放してみせます」
神前は、自分が今まで見ていた男が、目の前で変化(へんげ)したのを見て、「おや」とばかりに少し片眉を上げ、次に満足した表情で悦しそうに嗤った。
「なるほど。周の選んだ男の正体が見えてきた」
少し間をおいて、闇が滴る笑みを浮かべ呟く。
「これは、実に楽しみだ」
流れるような手つきでグラスにワインを注ぐ。神前はビジネスと共に教養も周に施したと言っていたが、こんな些細で動作も周を連想させるのが辛い。その優雅に流れる指先が、シャツの胸のポケットから茶色の小さなアンプルを取り出した。
「これが何かわかりますか?」
アンプルを割ると中から粘性のある液体が流れ出し煙のような澱を作った後、深紅の液体に溶けていった。薬品は無色でありワインの色自体には何の影響も無いはずなのに、目の前のルビー色していたワインは前よりも明かにどす黒く妖気を漂わせる液体になった気がした。
口に含めば喉や内蔵が内から焼け爛れ腐敗していくに違いない。
享一はグラスから神前の顔に視線を移すと瞳に挑戦の光を宿し睨みつけた。
「ふふ・・・媚薬だよ。無味無臭だからワインの味を損ねる事は無い、飲みたまえ」
無言で黒煙を上げそうなグラスを手に取り、先日神前がやって見せたように一気に飲み干した。
周・・・
目を閉じて周と同じ闇を見る。けれど、俺は負けない、必ず救い出してみせる。
「緩効性なのが、今ひとつですがね。
さてと、食事の続きをしようか?それとも、このまま・・・」
神前がそう言いながら開けた幅広のサイドボードの抽き斗しの中身に享一は瞠目し、慄いた。抽き斗しの中には、鞭や注射器、鋲の打たれた黒革の首輪とチェーンで繋がった揃いの手錠など、それとわかる淫具や使い道の全く想像つかない道具がびっしりと詰まっていた。黒皮に褐色に変色した血液が染みついているのが見て取れ、自分の顔から音を立てて血の気が引くのがわかった。
「全て特注品だよ、周のサイズに合わせて作らせた
君のもそのうち用意するから、今日はこれで我慢してくれたまえ」
狼狽が隠せない。この男は真性のサディストだ。
本能から身体が神前から離れようとするが、足に力が入らない。神前が恐怖に見開かれた享一の目が首輪に釘付けになっているのを見て取り、それを取り上げた。チェーンで繋がった手錠もジャラと音を立て一緒に持ち上がる。神前は整った貌に残忍な嗤いを浮かべ、邪欲にまみれた視線で享一を捕らえながら首輪の金具を外した。
薬が効いてきたのか、それとも恐怖からなのか身体が思うように動かない。されるがままにネクタイを緩められ、Yシャツの首もとの釦を外されると、柔らかい項に硬い皮の首輪が充てがわれる。そのひたりと冷たく、しっとりとした感触に恐怖心が極まり、発狂し叫び声を上げそうになった。
いや、実際に怒鳴る声を享一の耳は聞いていた。
「享一に手を出すな!」
時間が止まり、神前はおもむろに振返り、享一の瞳は信じられない思いで侵入者を凝視した。
「周は美しかったよ。君の名前を出されて完全に憤っていた
周はね、怒ると翠の瞳の赤みが増してね、頭に上った血液を抑えようと
苦悶する周は、服従させられ屈辱にのた打ち回る気高い竜のようにゾクゾクする程、美しい」
陶酔するように話す神前の目には周以外の何も映っていないのだろう。享一に向けられた瞳には、狂気めいた全ての光を飲み込んでしまいそうな暗い炎のみが宿り、背筋が寒くなった。その、つかみ所を間違えると間違いなく引きずり込まれそうな暗い深淵から浮上してきた冷たさすらない温度を持たない感情が緩慢に、だが滑らかに享一に照準を合わせる。
やがて残忍さと欲情が綯交ぜになった微笑を浮かべる。一見、上品で優しげに見えるその微笑が、却ってこの男の冷酷さを物語る。ぎゅうと冷え切った心臓が縮み上がり、身体が勝手に後ずさろうとした。それを意地だけで踏み止まらせる。
この男を、心底恐ろしいと思った。
「もう一匹、小綺麗な色をした蜥蜴を飼うのも悪くない」
輝きの無い暗黒の瞳に捕らえられ、動けなくなった。飲み込まれる。
18の周も、この瞳に捕まり恐怖を感じただろうか?アマネ・・・アマネ・・
”アマネ”それは戒めを解き放つ名前だった。ドロリとした暗闇に足を取られ、その大半を占められていた胸の内が、一気に生命力溢れる緑に満たされる。その真中に、いつの間にか享一の心の中に住み着いた、瑞々しい翠の瞳で真直ぐに自分を見つめる18才の周が佇んでいる。
挑戦的な目で神前を睥睨しつつ笑っている自分に気が付いた。自分の中で濃厚な生命力を宿した瑞々しい植物の蔓がいくつも絡み合い育ちながら自分を満たしてゆくのを感じた。大丈夫だ、俺の中には周がいる。
「取るに足らない小さな蜥蜴でも、油断していると、咬みますよ。
俺には守るべきものは一つしかない。周を必ず、あなたから解放してみせます」
神前は、自分が今まで見ていた男が、目の前で変化(へんげ)したのを見て、「おや」とばかりに少し片眉を上げ、次に満足した表情で悦しそうに嗤った。
「なるほど。周の選んだ男の正体が見えてきた」
少し間をおいて、闇が滴る笑みを浮かべ呟く。
「これは、実に楽しみだ」
流れるような手つきでグラスにワインを注ぐ。神前はビジネスと共に教養も周に施したと言っていたが、こんな些細で動作も周を連想させるのが辛い。その優雅に流れる指先が、シャツの胸のポケットから茶色の小さなアンプルを取り出した。
「これが何かわかりますか?」
アンプルを割ると中から粘性のある液体が流れ出し煙のような澱を作った後、深紅の液体に溶けていった。薬品は無色でありワインの色自体には何の影響も無いはずなのに、目の前のルビー色していたワインは前よりも明かにどす黒く妖気を漂わせる液体になった気がした。
口に含めば喉や内蔵が内から焼け爛れ腐敗していくに違いない。
享一はグラスから神前の顔に視線を移すと瞳に挑戦の光を宿し睨みつけた。
「ふふ・・・媚薬だよ。無味無臭だからワインの味を損ねる事は無い、飲みたまえ」
無言で黒煙を上げそうなグラスを手に取り、先日神前がやって見せたように一気に飲み干した。
周・・・
目を閉じて周と同じ闇を見る。けれど、俺は負けない、必ず救い出してみせる。
「緩効性なのが、今ひとつですがね。
さてと、食事の続きをしようか?それとも、このまま・・・」
神前がそう言いながら開けた幅広のサイドボードの抽き斗しの中身に享一は瞠目し、慄いた。抽き斗しの中には、鞭や注射器、鋲の打たれた黒革の首輪とチェーンで繋がった揃いの手錠など、それとわかる淫具や使い道の全く想像つかない道具がびっしりと詰まっていた。黒皮に褐色に変色した血液が染みついているのが見て取れ、自分の顔から音を立てて血の気が引くのがわかった。
「全て特注品だよ、周のサイズに合わせて作らせた
君のもそのうち用意するから、今日はこれで我慢してくれたまえ」
狼狽が隠せない。この男は真性のサディストだ。
本能から身体が神前から離れようとするが、足に力が入らない。神前が恐怖に見開かれた享一の目が首輪に釘付けになっているのを見て取り、それを取り上げた。チェーンで繋がった手錠もジャラと音を立て一緒に持ち上がる。神前は整った貌に残忍な嗤いを浮かべ、邪欲にまみれた視線で享一を捕らえながら首輪の金具を外した。
薬が効いてきたのか、それとも恐怖からなのか身体が思うように動かない。されるがままにネクタイを緩められ、Yシャツの首もとの釦を外されると、柔らかい項に硬い皮の首輪が充てがわれる。そのひたりと冷たく、しっとりとした感触に恐怖心が極まり、発狂し叫び声を上げそうになった。
いや、実際に怒鳴る声を享一の耳は聞いていた。
「享一に手を出すな!」
時間が止まり、神前はおもむろに振返り、享一の瞳は信じられない思いで侵入者を凝視した。
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
いくら年間契約でも借り上げでも、ホテルの抽斗の中にこれはないやろ~!!!
という突っ込みは自分で入れときますので、ご容赦くださいませ~ハハハ・・・(llllll)
猛毒エリアをようやく抜けました。不快な思いをされた読者のみなさま、申し訳ございませんでした。
このようなイタイ記事にも、かわらずコメント・拍手・村ポチをいただき、ほんとうに
ありがとうございます。本当に本当に、感謝・感謝です(感涙

□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
いくら年間契約でも借り上げでも、ホテルの抽斗の中にこれはないやろ~!!!
という突っ込みは自分で入れときますので、ご容赦くださいませ~ハハハ・・・(llllll)
猛毒エリアをようやく抜けました。不快な思いをされた読者のみなさま、申し訳ございませんでした。
このようなイタイ記事にも、かわらずコメント・拍手・村ポチをいただき、ほんとうに
ありがとうございます。本当に本当に、感謝・感謝です(感涙

神前が怖い、怖い、怖すぎる。
毒が濃すぎて、どうしようかと・・・・・。
間に合ったんでしょうか、間に合ったんですよね。
喜んで良いのか、まだ分からないですけども。
取りあえず、ガッツポーズしながら胸をなで下ろしております。
周も紙魚さんも、頑張って下さいませ。
ドキドキ・・・。