01 ,2009
翠滴 2 poison 4 (37)
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人気のない道で、いきなり呼び止められ驚いて振り向くと男が2人立っている。
1人はラグビー選手のように体躯がよく、もう1人は痩せぎすで背が高かった。
「あんた、時見さんだろ?写真で見るより、別嬪さんだな」
2人とも30前後ぐらいだろうか、どちらも、荒んだ目をしてニヤニヤ嗤っている。一目で、一般人とは隔たれた世界の人間であることが分り、脳内で煩いくらいに警笛が鳴り響く。踵を返すための距離をとろうと後ずさったところ、素早く腕を掴まれた。
馬鹿力に顔が歪む。両脇を抱えられて引っ張られるその先に黒いベンツが停まっている。乗せられたら、お終いだ。「やめろっ 離せっ!」足を踏ん張り大声を上げようと息を吸い込んだ瞬間、鼻と口に布をあてられた。甘い匂いがしたと認識した途端、強烈な吐き気が込み上げ、身体を折り曲げ激しく咳き込んだ。
「別嬪さんの癖に、ちっとぁ、しおらしくしろよ。大人しくしてたら、痛てぇ事はしねえからよ。
それどころか・・・・天国を見せてやるぜ。
ふうん、こりゃ堪んねえな。今夜はツイてる」
ガタイのよい男が、享一の顎を掴み、上を向かせ覗きこんで来る。享一の息は荒く、苦しさのあまり涙ぐみ、口の端からは涎が滴っている。その顔を見て舌舐めずりをし、好色に相貌を崩す男に虫唾が走った。
「ゲホッ、ウ・・触る・・・な、ウエッ・・グッ・・」
相手から逃れようと身体を捻るが、力が入らずそのまま崩れ落ち、男達の下卑た笑いを誘った。食欲が無く何も食べていなかったせいで、吐くべき物は何も無いはずなのに嘔吐きが止まらない。そのうち眩暈が始まった。蹲った享一を男達は無理矢理立たせ、車へと引き摺っていかれる。意識が朦朧とし出して誘導されるままに縺れがちな足をノロノロ繰り出した。
ああ・・・誰か・・・・・・。
「グウッ!!」
突然、頭上で呻き声を聞いたかと思うと、地面が近づいてきて画面が反転し、続いてオレンジ色の街灯が目に入った。何もかもが緩慢で痛みも感じない。
視界に背の高い男が入った。
もう1人の痩せぎすの男ではない。均整の取れた躯がスーツの上からでも分る、美しい肢体が優雅な動きで舞うダンサーのような男。掌がひらリと翻る度、長い足がすうっと空を切る度、くぐもった男達の呻き声が聞こえた。その合間に振返った男の形のよい薄い唇がこちらに向かって何かを言っていたが、画面が頭を占めていた赤色に変わって次に、全てが暗転して消える。頬に包み込まれるようなぬくもりを感じ、自分の名を呼ぶ声を聞いた気がした。
「享一!」・・・・・・ああ、周の声は、こんな声だったろうか。
低めの、張りのあるその声に脳内が痺れ、漆黒の闇の中に蕩け出してゆく。
頭が痛い。千の銅鑼の音が頭上で鳴り響き、煩くてしょうがない。
誰か止めてくれと、叫ぼうと息を吸った瞬間、薬品の染み込んだ布を思い出し、恐怖で我に返った。あれほど煩かった銅鑼の音は止んで、それと引き換えに鼓膜を圧迫するほどの静寂が訪れる。薄い暗闇に目が慣れたきた。見慣れた天井、壁、ロールスクリーンの周りだけが日の出前の蒼い光に輪郭が浮き上がっている。
無意識のうちに涙が零れた。
夢?夢だったのだろうか?
確かに、周の声を聞いたと思ったのに。頭痛を押してベッドに起き上がり、頬に手を添えてみた。その腕の汚れたYシャツと袖の間から覗く痣に、下品な嗤いを浮かべる男の顔の記憶と、恐怖が急速に甦ってくる。
自分で帰ってきた記憶は無い。まさか本当に・・・周・・なのか?
胸に広がる赤いイメージが不安を呼ぶ。
思い出そうとするが頭が割れるように痛み、脳内は混乱を極め何一つ纏まらない。
「気が付きましたか?」
ドクンと心臓が大きく跳ね上がった。自分しかいない、いや自分しかいるはずの無い部屋の中で他人の声を聞いて緊張感が一気に高まった。恐る恐る声のする方へ首を回し目を凝らす。ダイニングの椅子に足を組み、こちらを向いて座る人物がいる。昨夜の男でも男達でもない。男は、眼鏡のブリッジを押し上げた。外からの仄かな明るさの中に浮かぶ、冷たい印象の怜悧な整った顔に、享一は瞠目した。
「鳴海さん・・?」
人気のない道で、いきなり呼び止められ驚いて振り向くと男が2人立っている。
1人はラグビー選手のように体躯がよく、もう1人は痩せぎすで背が高かった。
「あんた、時見さんだろ?写真で見るより、別嬪さんだな」
2人とも30前後ぐらいだろうか、どちらも、荒んだ目をしてニヤニヤ嗤っている。一目で、一般人とは隔たれた世界の人間であることが分り、脳内で煩いくらいに警笛が鳴り響く。踵を返すための距離をとろうと後ずさったところ、素早く腕を掴まれた。
馬鹿力に顔が歪む。両脇を抱えられて引っ張られるその先に黒いベンツが停まっている。乗せられたら、お終いだ。「やめろっ 離せっ!」足を踏ん張り大声を上げようと息を吸い込んだ瞬間、鼻と口に布をあてられた。甘い匂いがしたと認識した途端、強烈な吐き気が込み上げ、身体を折り曲げ激しく咳き込んだ。
「別嬪さんの癖に、ちっとぁ、しおらしくしろよ。大人しくしてたら、痛てぇ事はしねえからよ。
それどころか・・・・天国を見せてやるぜ。
ふうん、こりゃ堪んねえな。今夜はツイてる」
ガタイのよい男が、享一の顎を掴み、上を向かせ覗きこんで来る。享一の息は荒く、苦しさのあまり涙ぐみ、口の端からは涎が滴っている。その顔を見て舌舐めずりをし、好色に相貌を崩す男に虫唾が走った。
「ゲホッ、ウ・・触る・・・な、ウエッ・・グッ・・」
相手から逃れようと身体を捻るが、力が入らずそのまま崩れ落ち、男達の下卑た笑いを誘った。食欲が無く何も食べていなかったせいで、吐くべき物は何も無いはずなのに嘔吐きが止まらない。そのうち眩暈が始まった。蹲った享一を男達は無理矢理立たせ、車へと引き摺っていかれる。意識が朦朧とし出して誘導されるままに縺れがちな足をノロノロ繰り出した。
ああ・・・誰か・・・・・・。
「グウッ!!」
突然、頭上で呻き声を聞いたかと思うと、地面が近づいてきて画面が反転し、続いてオレンジ色の街灯が目に入った。何もかもが緩慢で痛みも感じない。
視界に背の高い男が入った。
もう1人の痩せぎすの男ではない。均整の取れた躯がスーツの上からでも分る、美しい肢体が優雅な動きで舞うダンサーのような男。掌がひらリと翻る度、長い足がすうっと空を切る度、くぐもった男達の呻き声が聞こえた。その合間に振返った男の形のよい薄い唇がこちらに向かって何かを言っていたが、画面が頭を占めていた赤色に変わって次に、全てが暗転して消える。頬に包み込まれるようなぬくもりを感じ、自分の名を呼ぶ声を聞いた気がした。
「享一!」・・・・・・ああ、周の声は、こんな声だったろうか。
低めの、張りのあるその声に脳内が痺れ、漆黒の闇の中に蕩け出してゆく。
頭が痛い。千の銅鑼の音が頭上で鳴り響き、煩くてしょうがない。
誰か止めてくれと、叫ぼうと息を吸った瞬間、薬品の染み込んだ布を思い出し、恐怖で我に返った。あれほど煩かった銅鑼の音は止んで、それと引き換えに鼓膜を圧迫するほどの静寂が訪れる。薄い暗闇に目が慣れたきた。見慣れた天井、壁、ロールスクリーンの周りだけが日の出前の蒼い光に輪郭が浮き上がっている。
無意識のうちに涙が零れた。
夢?夢だったのだろうか?
確かに、周の声を聞いたと思ったのに。頭痛を押してベッドに起き上がり、頬に手を添えてみた。その腕の汚れたYシャツと袖の間から覗く痣に、下品な嗤いを浮かべる男の顔の記憶と、恐怖が急速に甦ってくる。
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「鳴海さん・・?」
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
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いつも、お読み頂きありがとうございます。
申し訳ありません。2~3日程更新をお休みいたします。
これから、終盤にかけて、もう一度練り直しをしたいと思います。
我侭をお許しください。
紙魚

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紙魚

やっと、やっと・・周との再会かと思われたのですが・・。
私も、ドキドキした~!!
享一、狙われてますね・・。
こんな事をするのは・・・もしや・・もしや・・。
一人しかいませんよね!!
何とか、享一には勝ってもらいたい!!
そして、周を取り戻してもらいたい!!
2~3日お休みですか?
残念ですが、待ってますよ♪
紙魚さまの、納得のいく作品。
お待ちしております!