01 ,2009
翠滴 2 poison 2 (35)
←(34) (36)→
「・・・・」
即答できぬ問いに表情が強張る。
まさか、こういう切り替えしが返ってくるとは思わなかった。
「・・・何が、望みなんですか」
聞いてはいけない、聞いてはいけない・・耳を傾けてしまえば取り込まれると そう思いながらも、相手の術中に引き摺り込まれていく。
「君に請われて愛しい周を手放すのなら、
それ相応のものを君は用意しなくてはいけない。それは当然のことではないかな?」
永邨 周と同等のもの・・・そんなものが他にあるのかと?
見上げる目つきが問うてくる。
「君は周より美しい人間に会ったことがあるかい?私は男も女も関係なく、
美しいといわれる者達を大勢見てきたが、周ほど美しく魅惑を持った人間に
私は未だ会ったことは無い。見て呉れだけではない、容姿に見合うだけの
精神性の強さや、穢れる事の無い魂にもだ」
「・・・・・・・・」
神前は周を語ると満足そうに微笑み、肘掛に肘を突きその上に頭を乗せ寛いだ様子で享一を鑑賞するように眺めた。リラックッスしているように見せ掛けてはいるが、優しげに細められた目の奥には猛禽類のような非情の光が宿り、その視線で享一を嘗め回しながら品定めをしている。
「君ではダメだよ。周の代替品の価値は無いし、役不足で話にならない。
だが、こうして見ると君も悪くはない。祝言の時の君は、本当に美しかったからね。
君には倒錯の美がよく似合う。周の副産物として、退屈凌ぎ程度にはなりそうだ」
周に代わるもの、そんなものがこの世にあるはずは無い。
それは、誰しも同じだ。
みなたった一人の人間だからこそ慈しみ、愛し、大切にされ、愛される。
「あなたは、周を愛しいと言いながら、毛の先ほども周を愛してなどいない」
神前の顔に張り付いていた笑みが消えた。
「・・・では君は、周の事を愛している?
私はね、彼を自分の分身のように愛しているよ」
愛している。
ひたりと、冷気を纏ったその声が湿りきった暗い闇の底から聞こえてくるようで、ゾッとした。
「周の闇は私の闇だ。
時間をかけてビジネスや教養と共に私の闇を彼に分け与えてきた。
周を、愛しているというのなら
君に、彼と同じ闇をみる覚悟は出来ていると思っていいんだね?」
周の闇・・・・。苦悩の表情を浮かべた儚げな姿が、こちらを向いて漆黒の間に佇んでいる。
神前は立ち上がると部屋の隅のローズウッドのギャビネットへ行き、ワインとグラスを手に戻ってきた。ボトルの栓はキャビネットの前で既に抜かれている。赤褐色液体が薄いグラスに半分程注がれると、重厚な机の上に置かれたグラスを挟んで対峙した。
「恋が媚薬なら、愛は猛毒だとは思わないかね?享一君」
「これは契約だ、時見君。君が私の相手をする間、少なくとも
周は私から解放される。どうだろう?君には、その身体で周の時間を
買い取るだけの勇気はあるかな?
媚薬か毒か・・・
取り引きをするには、先ずこの液体を飲む事が条件だ。さあ、手にとりたまえ」
身動ぎもせず息を殺して、グラスを見つめた。掌や脇の下に嫌な汗が滲み出る。
媚薬か毒。何かが混入されている可能性は高い。
周を神前から引き離すには、2人から離れていてはダメだ。だが、この手をグラスに伸ばせばどんな結果が訪れるのか?グラスを取ってしまえば、二度と自分は周と肩を並べることを許されなくなる。喩えどんな理由であろうと、神前の手に堕ちた自分など、周は見向きもしないだろうという直感があった。完全に周を失う、そう思うと気持ちが怯んだ。
躊躇いが沈黙を刻む。
「・・・・」
即答できぬ問いに表情が強張る。
まさか、こういう切り替えしが返ってくるとは思わなかった。
「・・・何が、望みなんですか」
聞いてはいけない、聞いてはいけない・・耳を傾けてしまえば取り込まれると そう思いながらも、相手の術中に引き摺り込まれていく。
「君に請われて愛しい周を手放すのなら、
それ相応のものを君は用意しなくてはいけない。それは当然のことではないかな?」
永邨 周と同等のもの・・・そんなものが他にあるのかと?
見上げる目つきが問うてくる。
「君は周より美しい人間に会ったことがあるかい?私は男も女も関係なく、
美しいといわれる者達を大勢見てきたが、周ほど美しく魅惑を持った人間に
私は未だ会ったことは無い。見て呉れだけではない、容姿に見合うだけの
精神性の強さや、穢れる事の無い魂にもだ」
「・・・・・・・・」
神前は周を語ると満足そうに微笑み、肘掛に肘を突きその上に頭を乗せ寛いだ様子で享一を鑑賞するように眺めた。リラックッスしているように見せ掛けてはいるが、優しげに細められた目の奥には猛禽類のような非情の光が宿り、その視線で享一を嘗め回しながら品定めをしている。
「君ではダメだよ。周の代替品の価値は無いし、役不足で話にならない。
だが、こうして見ると君も悪くはない。祝言の時の君は、本当に美しかったからね。
君には倒錯の美がよく似合う。周の副産物として、退屈凌ぎ程度にはなりそうだ」
周に代わるもの、そんなものがこの世にあるはずは無い。
それは、誰しも同じだ。
みなたった一人の人間だからこそ慈しみ、愛し、大切にされ、愛される。
「あなたは、周を愛しいと言いながら、毛の先ほども周を愛してなどいない」
神前の顔に張り付いていた笑みが消えた。
「・・・では君は、周の事を愛している?
私はね、彼を自分の分身のように愛しているよ」
愛している。
ひたりと、冷気を纏ったその声が湿りきった暗い闇の底から聞こえてくるようで、ゾッとした。
「周の闇は私の闇だ。
時間をかけてビジネスや教養と共に私の闇を彼に分け与えてきた。
周を、愛しているというのなら
君に、彼と同じ闇をみる覚悟は出来ていると思っていいんだね?」
周の闇・・・・。苦悩の表情を浮かべた儚げな姿が、こちらを向いて漆黒の間に佇んでいる。
神前は立ち上がると部屋の隅のローズウッドのギャビネットへ行き、ワインとグラスを手に戻ってきた。ボトルの栓はキャビネットの前で既に抜かれている。赤褐色液体が薄いグラスに半分程注がれると、重厚な机の上に置かれたグラスを挟んで対峙した。
「恋が媚薬なら、愛は猛毒だとは思わないかね?享一君」
「これは契約だ、時見君。君が私の相手をする間、少なくとも
周は私から解放される。どうだろう?君には、その身体で周の時間を
買い取るだけの勇気はあるかな?
媚薬か毒か・・・
取り引きをするには、先ずこの液体を飲む事が条件だ。さあ、手にとりたまえ」
身動ぎもせず息を殺して、グラスを見つめた。掌や脇の下に嫌な汗が滲み出る。
媚薬か毒。何かが混入されている可能性は高い。
周を神前から引き離すには、2人から離れていてはダメだ。だが、この手をグラスに伸ばせばどんな結果が訪れるのか?グラスを取ってしまえば、二度と自分は周と肩を並べることを許されなくなる。喩えどんな理由であろうと、神前の手に堕ちた自分など、周は見向きもしないだろうという直感があった。完全に周を失う、そう思うと気持ちが怯んだ。
躊躇いが沈黙を刻む。