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紙魚

Author:紙魚
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Category: レジ男

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レジ男 3
 レジ男 3


 「お前さ、一体いつまで拗ねてるつもりだ」
 ここ2週間で一気に冷え込んだ。良平はコートに俺がプレゼントしたマフラーを巻き、寒そうに鼻の頭を赤くしている。ずっとここで俺が戻るのを待ってくれていたらしかった。
 こんなことは初めてだ。今まで、喧嘩しても折れるのも相手を待つのもいつも自分の方だった。
 2週間の冷却期間は、それなりに功を奏したようだ。

 久し振り会う男の大好きな顔に、つい絆されてしまいそうになる気持ちをぐっと抑えた。ここで許せば、またもとの裏切られ傷つき続ける生活に戻るだけだ。
 普段はいい加減なくせに野性的な勘だけは鋭い良平は、呆然と立ち尽くす俺の心の決意を嗅ぎ取ったよう笑顔を消す。花崗岩の床に散らばる袋の中身を素早くチェックした目が、何かを見透かすように俺の顔に戻された。
 「今晩は鍋か?」
 「え、ああ。今日は冷えるから・・」
 「ひとりで?」
 そうだ。と答えかけ、言うのを躊躇う。

 「じゃあ、俺のマンションでやろうぜ。丁度、瑛介のつみれ鍋が食べたいって思ってたんだ」
 良平の鈍さを装った態度に、これまでに無いくらい気持ちが苛立った。
 良平はいつもそうだった。
 気がつかないふりをして、鈍いふりをしてこちらを油断させてちゃっかり取込もうとする。本当はそこそこ計算高くて、狡いところもふんだんにある男だったが、惚れた弱みでずっと見えていない振りをしてきた。
 
 伸びてきた手を反射的に払った。肩透かしを食らった良平が苦笑いをする。
 「いい加減、機嫌直せよ。アレはちょっと魔が差したっつうかさ、何も本気じゃなかったんだし。俺が本当に好きなのは英介だけだって。本当はお前だって、わかってんだろう?」
 なあ? と、良平の節だった指が肩先に喰い込む。
 カゴとカゴの間を行き来する、整った手指を思い出した。
 品物を傷つけないように、気を遣いながら丁寧に運ぶ。ああいう手なら自分をこんな風に乱暴に扱ったりはしないに違いない。突然、なんの脈絡もなくそんなことを思った。

 「痛いな。放せよ良平。浮気に、本当も嘘もあるもんか。浮気は浮気だろうが」
 「そんなこと言っていいのかよ。今迄だって別れたくないって、いつも先に泣きついてきたのはお前の方だったんじゃないのか」
 好きだという気持ちが強かった分だけ、悔しくて腹が立った。
 自分好みの厳つい男の顔を見つめても、それまで感じた胸の高まりが起こらない。本当は、何度も浮気を繰り返す良平に、気持ちはとっくに疲れて醒めていたのかもしれない。

 「放してあげてくれませんか? 田口さんのあなたへの気持ちはもう醒めているんですよ」

 2人の間を割って入った声に、良平と同時に振り向き驚いた。
 レジ男?
 寒空の下、スーパーのロゴの入った赤いエプロンに薄手のジャンパー。見ているこっちが寒くなりそうな薄着姿で軽く息を切らし、レジ男が立っていた。左手に卵の入ったレジ袋を持っている。
 俺が忘れたのを見つけて、追いかけてきてくれたに違いなかった。

 鼻白んだ良平の腕が離れるのを見て、レジ男は微笑みながら袋を差し出した。
 「はいこれ、忘れ物です」
 「わざわざこれだけのために、追いかけてきてくれたの?」
 「田口さん、目玉焼きがないと目が覚めないんでしょう? 気付くのが遅くてすみませんでした」
 遣り取りを黙って聞いていた良平がひょいと眉を上げる。
 「お前・・・どっかで、」
 「スーパーヤマヤのパート従業員です」 
 良平の言葉に被さるようにして、レジ男が言い放つ。赤いエプロンの胸を張って、堂々とパートだと言い切るレジ男は、いつもの優男風とは違って格好よく見えた。

 「これは俺たちの話で、お前には関係ないだろうが」
 「田口さんに振られたのがわからないんですか? あなたはどうやら、強引さと男らしさを勘違いされているようだ」
 レジ男、拙い・・・。
 辛辣なセリフに良平の顔が真っ赤になり、ただでさえ厳つい鬼瓦のような顔が険しく吊り上る。子供ならこの顔を見ただけで泣き出してしまうだろう。ヤクザでも、良平のこの顔をみたら怖気づく恐ろしい顔だ。
 重ねて言うが、俺は面食いじゃない。今までの男も良平同様、世間では怖いとか暑苦しいとかと、敬遠されるタイプの顔だ。
 レジ男はボルテージの上がった良平の顔を、澄ました表情で平然と見据えている。
 俺は心の中で密かに拍手を贈った。
 今風な外見とは違って、根性はなかなか据わっているらしい。
 「スーパーの店員風情が余計なお世話だ。大体、パートってなんだ。若い男が威張って言えるような仕事か? お前みたいな能無しは黙ってレジでも打ってりゃいいんだ」
 これには、俺が頭にきた。職業で人を差別する発言を平気でする良平が許せなかった。
 こんな男に惚れこんでいた自にも腹が立つ。
 「良平、レジ男を悪く言うなっ!」

 「レ・・・・レジオ?」 良平とレジ男が語尾を上げながら同時に復唱した。 
 「ああ? 誰だって?」
 「レジ男だ」 俺はレジ男をびしっと指差した。
 「あ、僕・・・ですか?」 レジ男自身も自分を指差さし目を白黒させている。当然だろう、レジ男にも山咲という立派な苗字がある。
 だが、今はそんなことどうでも良かった。

 「良平、レジ男を馬鹿にするな。レジ男はお前なんかと違って、秩序と常識をきちんと持った人間なんだ。お前みたいな無節操なヤツより数百万、いや数億倍偉いんだ。一緒にすんじゃねえ。失礼だろうがっ」
 「はあぁ? お前、頭に蝿でもたかってんじゃないのか」
 薄ら笑いを浮かべた良平が、小馬鹿にするように頭の横で指をくるくる回す。
 「うるせえ! お前のその惚けた態度も気に食わねぇつってんだよ! お前とは金輪際だ。もうその顔も見たくねえ。キッパリ別れてやるっ」 
 良平とレジ男の目が同時に大きくなる。
 
 あ・・・。
 勢いで言葉を放った瞬間、頭の中が真っ白になった。



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テーマ : BL小説    ジャンル : 小説・文学