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紙魚

Author:紙魚
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*お知らせ*
長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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花喰い 下 『秋の特別企画』参加作

  ―花喰い 下―

 風呂にいるはずの福井 朋樹が立っていた。
 朋樹は、Tシャツに膝丈のパンツという湯上りのラフな姿で呆気にとられる忠桐の前に立つと、ニッコリ笑う。

 「忠桐、好きだ」
 真正面から唐突に切り出され、邪険に眉間に皺を寄せた。
 「朱温、目が明後日の方向を向いてるぞ」
 どんなに自分の惚れている相手に似せようと、左右の目がカメレオンみたいに忙しなく動いていたのでは、お粗末過ぎて興も醒めるというものだ。

 朋樹の貌は嬉しそうにニヤリと笑うと、「所望とあればよの。ただし、ちと”高こう”つくがの」と、弾んだ朱温の声で言うと、止める間もなくグリリと、瞳の焦点を合わせた。
 途端に、自分が恋焦がれて止まないクラスメイトと寸分違わぬ姿が現れ、自分を見つめる熱っぽい瞳にゾクリと心臓が跳ね上がった。

 ハンドボールで鍛えられ締まったしなやかな肢体。
 部活焼けの小麦色の肌からはいつも太陽の匂いがした。好奇心と素直さがそのまま現れたキラキラと輝く黒い瞳は健康優良児の名を縦(ほしいまま)にする朋樹に相応しい。
 今はその躰から湯上りのボディソープの匂いが立ち上がり、肌はうっすら上気し、普段ではありえない破壊レベルの色香を醸す。朱温が自分の願望を汲み取って都合よく体現しただけで、目の前の朋樹は偽者だと釘を打つ頭を難なく悩殺してくる。
 目を見開き固まった忠桐を、黒々と艶めく瞳で朋樹がクスリと笑った。

 「何見てんのさ?オレの顔になんかついてる?」
 そう言いながら脇を抜け、畳に広げられた水盤や散らばった枝花を見た。
 「花、活けてたんだ。もしかしてオレ、邪魔した?」
 「いや・・・・」
 フワリと笑う朋樹の躰から艶やかな色が匂う。
 「じゃ、最後まで活けちゃえよ待っててやるからさ」
 これは、朱温の仕組んだまやかしだと思いながらも、目の前の朋樹にペースを持っていかれ、水盤の前にもう一度坐り山査子を手に取った。

 水盤を挟んで胡坐を掻いた朋樹が直角の方向に坐った。
 頭のどこかでこれは朱温の罠だという警笛を聞きながら、濡れたままの髪で胡坐に頬杖をつき、山査子の枝を落とす手許を興味深げに見詰める朋樹に心が乱れる。
 二本目の竜胆を生け、白い花を手に取ると「それは、なんていう花?」と訊いてきた。
 「孔雀草」
 小さな黄色の丸い花芯から細長い白い花弁が放射状にぐるりと囲む。
 孔雀が羽を広げるような花弁の姿がその名の由来だ。可憐な花には野草の趣があり、一枝に大量についた花や葉を落とし形を整えていくことで、一本の花を芸術の域ににじり寄せる。
 「ふうん」
 「花には詳しいくせに聞くなよ。朱温」
 自分に現実を言い聞かせるように、わざと小狡い奸計を計る鬼の名前を口にした。
 目の前の朋樹はそれには応えず、ただ潤んだ流し目をチラッと孔雀草から忠桐に移しただけだった。

 なんとか”可”程度に整った孔雀草を剣山に刺そうと差し出した時、手首を日焼けした手に掴まれる。意外なほどに冷たい指先に躰の中心にある何かが震え、手首を掴む指先から痺れに似た熱が躰の隅々まで伝播する。    
 弾かれたように振り向くと、頬に息がかかるほど迫った朋樹の顔が熱っぽい炎を瞳に点し妖しく微笑んだ。
 「これ食べさせて。忠桐」
 艶々と熱に潤む視線を逸らさず孔雀草に顔を近づけると、花のひとつを口に食み、顎をすうっと横に引いて白い花を引っ張った。花はプツと幽かな音を立てて茎から離れ朋樹の唇に留まった。

 立体感のある唇に挟まった白い花が扇情的で、躰の芯が焼けるのを感じながら朋樹の唇に釘付けになった目が離せなくなる。
 罠だ、これはまやかしだとか、朱温がどうだ。という考えは頭から霞の如く消え去り、ただ血色の良い艶やかな唇に映える白い花に見蕩れた。

 その花がはらりと唇から落ち、妙な喪失感を覚えた次の瞬間、唇に柔らかくてあたたかいものが重なった。花の香のする吐息が頬を擽り、自然の流れに押し流されるようにしなやかな背に腕を回した。
 唇の表面が蕩けそうなほどの甘い熱が気持ちよくて、もっと捕まえようと舌を差し込もうとした矢先、唐突に甘やかな熱は唇を去り、濡れた表面がひんやりとした秋の夜風に晒された。

 それなのに、一旦ともった熱は止まらず沸騰した欲望がはちきれそうになる。
 目許を緋に染めた朋樹が吐息を洩らし 「ゴメン」 と小さな声で謝って来た。
 朋樹の謝る声に何かが発動した。何がどうなったのか自分でも解らず、気がついた時には朋樹の躰を畳の上に押し倒していた。
 濡れて艶めいた黒髪が畳にくっきりと映え、謝罪を口にした黒い瞳は言葉と裏腹な、強い誘惑の笑みを浮かべ見上げている。

 「唇が熱い・・・なあ、もっとキスしてくれよ、忠桐」
 真昼を連想させる日に焼けたしなやかな肢体を自分の下に組み敷く。このシーンを自分は何度頭の中で想像し、何度その先の行為を繰り返しただろうか。

 服地を通して伝わる朋樹の脈拍が、自分の心臓のリズムと絡まって次第に共鳴し大きく振れながら大音響となって2人を包み、朋樹の魂と一体となったかのような錯覚を起こさせる。
 ともに共鳴する魂と何もかも分かち合い共有したいような気持ちになり、忠桐を誘うようにゆるく隙間をあける唇にキスをしようと、ゆっくり上半身を沈めていった。

 忠桐を待ちわびる朋樹の唇が、興奮を抑えられぬようににニヤリと嗤う。

 今にも唇が触れんとしたその時、突然背後の襖がタン!と高い音を立てて開いた。
 全ての流れが魔法が解けたように止まる。
 「忠桐ぁーっ、こんなとこにいたのかよ! んもおぉぉ、おまえんち広すぎっ。あちこち探し回っちゃったじゃねーの。おっと、風呂、サンキューな。ん、ん? お前、這い蹲って何してんの?」
 首からタオルを掛けランニングに短パン姿の朋樹が戸口で勢いよく捲し立て、目を瞬かせながら立っている。
 さっきより露出度は高いのに、あの匂いたつような色香は微塵もない。

 「トモ・・・・」
 振り向くと組み敷いていた朋樹(朱温)の姿はなく、孔雀草の白い花がひとつ畳の上に落ちている。辺りに頭がくらくらするほど強い花の匂いが充満していた。

 「な、晩メシは宅配ピザにしてさ、お前の部屋でゲームしながら食おうぜい」
 部屋の空気が入れ替わり、一気に瑞々しい新鮮な空気が花の香を押し流してゆく。
 肌に蓄積した熱も清々しい空気に洗い流され、平常心が戻ってくる。
 「いいけど、その前にお前の使う客用の布団を出しにいかないとな」
 「そんなの面倒くせぇし、いいって。お前のベッド、セミダブルだろ。ちょっと狭ぇけど2人で寝ればいいじゃん」
 
 「・・・・・」
 
         『チイーーッ。手篭めにするつもりの癖に・・・』

 「んな、それより早くお前の部屋行こうぜ。オレ、ポテチとかコアラのマーチとかと一緒にジャ○プの最新号も買ってきてっからさ、ピザが届くまで食いながら読もうぜ」
 朋樹は元気印全開で戸口で仁王立ちになり、ガキのように喚いている。
 お前の頭の中は、食い気とゲームと漫画だけかよ。
 溜息交じりの苦笑が零れた。
 どうすれば、このお子様を手篭めに出来るってんだ? 誰か教えてくれよ。

 急かされて畳に広げた懊悩の残骸を片付ける。
 水盤を手に取ると、中途半端に剣山に刺さった竜胆と孔雀草の花の部分が綺麗に消えていた。

        「もちっとであったのにのう・・・・」
 月隠りの庭の暗がりから、口惜しげな朱温の声がした気がした。

 朋樹は廊下で濡れた髪を手櫛で乾かしながら忠桐を待っている。何においても適当で大雑把だ。ふと傾げた項に、キスをせがんだあでやかな朋樹の貌が重なる。

        「難儀よ」

 部屋の灯りを消し、庭に背を向けた忠桐は朋樹と過ごす夜を思い、複雑な笑みに口角を引いた。



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<<関連作品>>
flower  Ⅰ ―放春花
flower  Ⅱ ―Sakura Spiral
 


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花喰い 上 『秋の特別企画』参加作
 この度、春に続いて『ひまつぶし』さま宅の秋の特別企画、に参加させて頂きました。


  ―花喰い 上―

 石化柳は思う曲線が出ず、イライラと思いのままに撓ませると枝が左右の指の間で、ボキリと折れてしまった。

 水盤の竜胆も外して折れた石化柳と一緒に花屋の包み紙の上に広げたエニシダや山査子(さんざし)の上に投げつけた。
 ぱさりと軽い音を立て複雑な柳の枝の間に落ちた青紫の花をちらりと見る。もう一度手に取り、今度は花が痛んでいないかを確かめてそっと紙の上に置き直す。
 開け放った障子の外の澄んだ虫の声につられ、月の光も無い闇ばかりの庭を漫然と眺めた。
 叶うわけのない期待に浮き足立つ不埒な心を静めようと思い、花を活け始めたのに心は静まるどころか、益々浮付いて、全く集中できない。
 大体、いつもならもっといろんな種類の花や草木のストックがあるはずなのに、今日に限って難しい石化柳やエニシダ、ナデシコや孔雀草といった興の乗らないアイテムしか倉庫に残っていなかった。
 ただでさえ上滑りな集中力は急速に目の前の水盤から離れ、風呂場にいる友人の元へと飛んでしまう。

 今夜は家の者全員が都内で催される活け花展の準備に泊りがけで出ており、留守を任された自分は同じ学校の友人・福井 朋樹を家に呼んだ。
 自分達の高校は中高一貫の私立の進学校で、朋樹とはあまりのタイプの違いに最初は反目し、どちらかと言うと子供っぽい朋樹を見下してさえいたが、それが2度3度と同じクラスになるうちに朋樹の立ち位置が微妙に変わり丸4年経った今、完全に自分は秘めたる恋に落ちていた。

 ハンドボールの部活が終わって、直接忠桐の家へやって来た朋樹は家に着くなり    
 「忠桐っ、とにかくフロ、風呂に入らせてくれ」と喚き、忙しなくドタドタと風呂場に直行し部活で流した健全な汗を流している。そして自分は、ザワザワとざわめき出した邪な心を静めようと花を生け始めた。
 忠桐(ただひさ)は小さな溜息ひとつ吐くともう一度、竜胆を手に取った。

 「己(うぬ)は難儀よの」

 誰もいない闇の庭からの声に、紫の花を手にしたままちらりと顔を上げる。
 闇に目を凝らしても、室内の明かりの届く範囲には誰もおらず澄んだ虫の音ががあるのみだ。
 突然、庭の茂みがガサガサと揺れ、菖蒲の植わっているあたりからそれこそ先程へし折った石化柳のような細くて皺しわの脚がにょきっと伸びてきて光の中に立った。
 体長60センチほどの黄土色の身体は、膨れた腹に対して手足は非常に細い。口が大きく一見蛙のようにも見える顔だが、飛び出した目だけが異常に大きく左右の瞳の位置が大きくズレており一体どこを見ているのかさっぱり判らない。

 「のう、忠桐(ただひさ)、決心はついたかの?」
 
 忠桐は庭に佇む此の世のものではない異形のモノに半眼の一瞥をくれ、すぐに竜胆に意識を戻すと茎に残る余計な葉を落とし始めた。
 剣山に切り口を刺すと、ぴんと張った水面に竜胆の青が映り込む。
 竜胆と一緒に水盤の端に小さな幼児くらいの大きさの頭部の影が落ちた。
 「やっぱり、竜胆には月が似合うな」
 「つれぬのう、忠桐。己はほんに難儀な男(おのこ)じゃ」
 「僕にとっては、月隠り(つごもり)の闇に紛れて現れ、決断を迫るお前の方が
 よっぽど鬱陶しくて、難儀だ」

 「のう、これは喰うてよいのかのう」
 いつの間にか傍に来て一緒に水盤を覗き、無邪気に竜胆を指しながらニマリと哂う。
 「まだ駄目だ。生け終わったら、朱温(しゅおん)の好きにしろよ」
 「ほうか。じゃが今夜のメニューはシケとるの、花はこれだけかのう?」
 包装紙に広げられた残りの竜胆やなでしこを見て、指を咥えつまらなさそうに言う。
 「お前が”メニュー”とか言うな、その容姿で外来語を使われると、見た目が裏切られて
 ガックリだ。それに、勘違いするなよ。僕は、お前のために花を揃えている訳じゃ
 ないんだ。気に入らなければ庭に生えている吾亦紅でも喰ってろよ」

 「ワは、己の生けた花が好物じゃと知っておる癖に。なんと情の薄い男に育って
 しもうたものよ。童(わらし)の頃は、もうちっと可愛げもあったのを。難儀よのう」
 細い腕を後ろ手に組み、肩を窄めて俯き加減で顔をチラリとこちらに向ける。朱温の視線は左右が極度のロンパリで読み取りにくい。イジイジと肩を揺らす仕草は、どうやら”拗ね”を表現したいらしい。
 「全く面倒くさい奴だな、今日は家の者がみな出払ってるから花の数も種類も少ないんだ
 後で保存庫にのこっていた蘭も持ってきてやるから今は我慢しろよ」
 「ほぉぉーーーぅ」
 小さな頭部のかなりの部分を占める目玉が左右バラバラで上下にせわしなく動く。
 ”嬉しさ”の表現らしい。蘭は朱温の大好物だ。

 「知っておるぞ。それで、今宵は己の好いた男(おのこ)を連れ込んだのじゃろ」
 「人聞きの悪いこというな」
 秀でた小さな頭にデコピンをくれてやる。「痛い、痛い」と大袈裟に痛がった朱温が、頭を抑え恨めしげな顔を向けた。カメレオンのような目で、感情を表現しにくい朱温は全身を使って気持ちを表現する。が、人を食った風貌のせいでどうにも嘘臭い。

 「チイーーーッ。手篭めにするつもりの癖に・・・」
 本気で蹴り倒してやろうと立ち上がったら、ひょええぇぇとふざけた声を上げて縁側まですっ飛んで逃げた。
 「まったく腹立たしい邪鬼だな、お前は」
 「図星で怒り出すなんぞ、己もちと幼のう過ぎはせんかのう」
 「何百年生きて、まったく進歩がなさそうなお前にだけは言われたくない」
 忠桐はその整った横顔をフンとそびやかし、鬼の泣き言をスパンと切って捨てた。

 「人間は寿命こそ延びたが、その分成長も間延びしおるようじゃ。300年も前であれ
 ば、己の歳は疾うに一人前よ。で、決心はついたかのう?」
 朱温は障子の影からうろんげに見下げる忠桐の前に出た来た。
 「はようワを、その躰に飼うてくれ、己はワと約束したがの」
 「だから、月の無い夜は嫌いなんだ・・・」うんざり小声で忠桐は独りごちる。
 「己がワを飼うてくれたら、ワはもう月の光も怖うなくなる。いつでも好きな時に
 人界(にんがい)を歩ける」

 朱温と初めて会ったのは6歳の頃だ。
 茶道の稽古を忘れて学校の帰りに近所の子供と遊びにいったのを父に咎められ、蔵の中に閉じ込められた。父は厳しい人間で、日が暮れても出してもらえず、月のない暗い夜で暗い土蔵の隅に縮こまっていると反対側の闇の中からボウと赤く光る玉を持った朱温が現れた。
 あまりの滑稽なその姿に悲鳴をあげるのも忘れ唖然と見ていると、ニマリと笑って二足歩行のカメレオンが口を開いた。
 『童(わらし)、己が15になったらワをその躰に飼うてくれんか』

 何を血迷ったか、6つの僕は咄嗟に頷いてしまった。呆気に取られたのと、好奇心とで、まともな思考が出来てなかったのだ。
 おまけに、自分はどこの馬の骨とも判らない邪鬼に、赤く光る玉から取った『朱温』という名前までくれてやった。朱温は、それで痛く感銘を受けてしまったらしい。
 もし、今その場面に居合わせたなら、間違いなく6歳の自分の側頭を、「余計なことするな」とグリグリやって、「知らない鬼とは、しゃべっちゃダメ!」 と、説教を垂れてやるところだ。
 それ以来、朱温は年に数回の月の出ない月篭りの夜になると、闇に紛れては約束を確認しに現れ、15を過ぎてからは早く自分を飼えとせっつくようになった。

 「前にも言ったとおり、お前を飼ってもお前が自由になるだけで、僕のメリットがどこにあるのかわからない」
 それどころか、とんでもないデメリットが隠れ潜んでいるような気さえした。
 朱温は口には出さないが、この話をする時の朱温は妙にソワソワして、胡散臭さがいつもの5割り増しになる。

 「約束を違えるのは、男らしゅうないと思わんかのう?」
 「邪鬼が人間の男らしさなんか説くな。所詮、6歳のガキの約束だ、お前も真に受けるなよな」
 「機嫌が悪いのう、さては湯浴みの男(おのこ)との宵をワに邪魔されたと思うて、拗ねとるんとるんじゃろうて。・・・さすれば、忠桐は”メリット”があれば良いのじゃな?」
 「横文字を使うな。お前の言い方は、いちいち気に障ってムカつく」
 「怒るな。いいものを己にやるから、ちいと待っておれ」
 引っ掛る言い方をして、ただでさえでかい口を更に両側に引いてカメレオン顔が哂う。
 厭な予感がして顔を眇めるとニイと哂いを深くした朱温は、いそいそと障子の裏に再び隠れた。微かに花の匂いが強くなる。
 
 「忠桐・・・」

 聞きなれた少年の名残を強く残す声に呼ばれ、弾かれるようにして顔を向ける。
 忠桐は、おもむろに障子の陰から現れた朱温の姿に唖然とした。

                                      ―花喰い


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