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紙魚

Author:紙魚
近畿に生息中。
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長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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ラヴァーズ 1 □20000HITキリ番リクエスト♪part 2□
 □20000HITキリバンリクエスト□にお応いたしまして、第2弾に行ってみたいと思います。 ストーリーは、『深海魚』のスピンオフ、河村 圭太×花隈 静のお話です。
では、どうぞ~♪



 「静君、おやすみ」
 「ありがとうございます。おやすみなさい」

 最後の客が店を出ると、花隈 静はカウンター越しにジンを傾けている人物に鳶色の瞳を向けて微笑んだ。
 相手も包み込むような温かい笑みを返し、胸の中がやわらかく満たされる。
 瞳だけを動かし、その隣に座る人物にもチラリと視線を配ると、今度は心配気にその表情をくもらせた。
 居心地の悪い沈黙に、静は密かに溜め息をつく。
 バー・シーラカンスは開店以来の最悪で険悪な張り詰めた時間を迎えようとしていた。

 目の前の2人、河村 圭太と花隈 薫はむっつりと黙り込んだまま同時にグラスを口に運んだ。あまりに2人の動作ののタイミングが合いすぎて、思わず吹き出しそうになるのを渾身の力でねじ伏せる。
 緊張が嵩じると些細な事にも笑いたくなるらしい。

 プレーヤーからCDを取り出しA・ジルベルトにチェンジした。
 薫が好きな古いアーティストで、素直で上手すぎない所がまたいいのだといっていた。
 確か、圭太のセカンドハウスにも薫から贈られた同じCDがあったはずだ。
 柔らかく、あたたか味のある女性ボーカルのまろやかな歌声が張り詰めた店内を滑るように流れる。哀愁を帯びたメロディに厚みのあるバリトンが重なった。

 「静(セイ)、悪いけどCDを止めてくれる?」
 密かに薫の心を懐柔しようとしたのがばれたのか、薫の顔にはその手には乗らないぞとばかりに強固な表情が浮かんでいる。昔から、いつもは優しい薫に叱られると、首根っこを押さえられしょげ返る子供の気分になった。
 音楽を止めると、代わって波の音が空かした窓から流れ込んでくる。
 風向きが変わったのか、潮騒とともに潮の香りも一段とはっきりしてシーラカンスを充たしていく。

 真っ直ぐに静を見、続いて隣でそ知らぬ風情で酒を飲む圭太を厳しい目で一瞥し、また静に視線が戻ってきた。
 自分とよく似た色の薄い瞳に、じっと見詰められ、息を呑んで判決を待つ。

 先日、仕事先のロンドンから帰国した薫より、土産を渡しがてらに週末に葉山を訪れたいと連絡があった。
 薫には、自分が圭太と付き合い始めたことを言っていなかった。
 週末は圭太と過ごす貴重な時間であることや、自分の住んでいたマンションを引き払い今は圭太のセカンドハウスに住んでいることを隠していた静は、薫からの連絡に内心狽え頭を抱えた。
 超のつくほど過保護な薫に、自分に男の恋人が出来たこと、よりによってその相手が薫の同級生で親友でもあった圭太だという事実は静の口を固くした。

 薫は自分がゲイであり波乱に飛んだ道を歩んできたにもかかわらず、溺愛する弟には常に保守的で、平凡で幸せな人生を歩むことを望んだ。
 学生時代はそんな薫が鬱陶しく、5歳離れた兄に反発したこともあったが、薫の自分に対する深い愛情もまた理解している。幼い頃に実母を亡くし、後妻に入った継母と馴染めずひとり孤立する自分をいつも抱き締めてくれたのも兄の薫だった。

 現在、継母を含め家族ともバランスのよい距離を保ち我ながら上手く付き合って行けているのは、全て薫がいてくれたからだ。
 家業の道場も腹違いの弟が継いでくれ、そのお陰で自分はこうして葉山で好きにバーテンをしていられる、それもありがたかった。
 だからこそ、その薫に嘘をつくのは自分の本望ではない。

 隠し事をする後ろめたさに口篭る静に、”静の保護者”を自負する薫はぷんぷん臭うきな臭さを嗅ぎ取って、静を問い詰めた。
 そして今、こうして3人が顔をつき合わせる事態に陥った。

 「はっきり言うけどね、僕はね、2人の交際には反対だよ」
 「兄キ!!」
 先陣を切って、明朗に2人の仲を認めないと告げた薫に静は情けない声を上げた。
 カウンターに肘を突き頭を支える圭太がちらりと切れ長の目を流す。
 「それは、シズカが決めることで薫が決めることではないだろう。
 お前がシズカを大切に思ってきた気持ちはよくわかるが、シズカはもう大人で、
 いつまでもお前の庇護下において置こうと思うのは、単にお前の我が儘だと
 俺は思う。薫、お前もいい加減子離れしろよ」
 薫の、いつもはクマのぬいぐるみのようにふくよかで柔和な顔が瞬時に凄みのある冷徹な顔に変貌する。高校時代のグレていた時期を彷彿させる物騒な雰囲気に、静はカウンターを挟んだこちらでひとりハラハラ気を揉んだ。

 二人が最後にこの店で鉢合わせた夜、その時圭太と付き合っていた時見 享一のことで言い争いの末、殴り合いに発展し、二人を店から追い出した経緯がある。
 三十路を超えたいい大人が取っ組み合いというのもどうかと思うが、二人とも腕に覚えがあるだけに一旦スイッチが入ると後が大変だ。

 「静の相手が男だったと言うのは百歩譲ったとして、相手がお前だというのは
 絶対、許せないって言ってんだ」
 いつものオネエ言葉は鳴りを潜め、薫が真剣で怒りの度合いが最高値に達していることが手に取るようにわかった。
 「お前みたいな多情男に、大事な弟を渡せるわけが無いだろうがっ」
 「お言葉だな、薫。じゃあ、俺には恋愛は無理で、シズカを幸せには
 出来ないと言いたい訳か?」
 圭太の纏った空気もピシッと音を立てて凍った。

 「あ、あの・・二人ともおかわりを・・・・」

 「シズカは黙っていてくれ」
 「静は黙ってて!」
 これは2人の問題だとばかりに同時に制され口を噤む。

 圭太と会うのは2週間ぶりだ。
 海外での仕事も多い圭太は先週末はロスにいて会えなかった。
 付き合いだして3ヶ月、圭太のセカンドハウスは広くて快適だが、圭太不在のひとりで過ごす夜は寂しくて無性に人肌が恋しくなる。
 波の音は圭太恋しさで火照った躰を慰めてはくれない。
 愛を知ってしまった自分は、もうあの自分を優しく包み込んでくれた深海に戻れないのだと悟った。

 2人が一緒にいられるのは金曜日の夜から月曜日の朝までの限られた時間だけ。
 切ない想いを胸に抱き、潤みそうになる瞳を上げると、自分を見つめる情熱と優しさに溢れた恋をする男の瞳とぶつかった。


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<関連作品>
『深海魚』1話から読む
『― 願 ―』
『翠滴2』 22話 シーラカンス

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テーマ : BL小説    ジャンル : 小説・文学