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紙魚

Author:紙魚
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Category: 翠滴 -side story-  

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翠滴 side menu  鳴海 3
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 周(あまね)の微かに甘い香りが鼻腔を擽る。最後にトワレを使ってから4日経っている。香りは既に飛んでしまっているはずだ。この白い花を思わせる香りは多分、周自身のものだろう。


 周の表情が硬い。当然だ。

 「緊張しますか?使用人の私から、こんな要求を出されようとは、
 さぞ憤慨されているでしょうね」
 「お前を、使用人などと思った事は一度も無い」

 鳴海は、本家から使わされた周の監視役だ。使用人の様な気安い間柄ではない。

 「おや、では友人とでも思っていただけてましたか?」鳴海は惚けた。
 「違うでしょう?少なからず、貴方は私を疎ましいと思っているはずだ」
 「・・・・」

 周は無言で肯定する。
 正直、”少なからず”どころでは無い。本宅と自分を繋げる鳴海が鬱陶しくて仕方が無いのだから。だからこそ、こちらサイドに引き入れる価値がある。


 「さあ、取り引きを始めるとしましょう」

 鳴海はシートを後方へずらし、上半身を捩って周の顎を引き寄せ唇を合わせてきた。
まさか、いきなりキスされるとは思わず、本能的に逃れた唇にギリッと歯を立てられた。驚いた反動で開いた隙間から、押し入って来た舌に半ば捨て鉢で自分の舌を絡める。

 静かな車内に、お互いが貪りあうキスの音だけが響く。

 鳴海が、シートを倒して周の上に乗り上がってきても、キスは続いた。
やがて、鳴海の唇が周のそれから離れ耳朶や項を這いだし耳の後ろを強く吸われると、息を殺し瞼を閉じてせり上がる快感を耐える。

 「目を開けなさい。これから自分が組み敷かれるところを、
 その緑の宝石に刻んで頂きたい」
 「いきなり命令口調かよ。・・・で、俺が”組み敷かれる”側か」
 「これは、”お願い”です。生憎、私は受けた経験が無いものでね。
 それに、折角 憧れの貴方とセックスするのに目も合わさないんじゃ、
 つまらないでしょう?」

 ニヤリと鳴海が笑う。

 本当は、かなり前から鳴海が自分に、こういう意味での興味を少なからず抱いていることを知っていた。ただ、どういう気持ちからこの興味が湧いて出てくるのか怜悧で、沈着冷静な鉄仮面男の感情が推し量れず、面倒臭さも手伝って放置していた。
 まさか、”憧れ”と来るとは 面映さなんぞ軽く通り越して、驚きだ。

 もう一度、唇が戻ってきて周の唇に落ちた。
端から端へ口紅を引くように舌でなぞり濡らしていく。
スーツのフロントを割り、シャツの上から躯のラインを這う手が親指の腹で胸の2点を円を描くように弄ぶ。軽く爪を立てると、布越しの刺激に周の唇から押し殺したような声が漏れた。
 「あ・・・く、・・うッ・・」
 ボタンに手が掛かると思わず、制止の声が上がる。
 「鳴海っ」

 周が鳴海の手を押し退けようと無意識に繰り出した手を、逆にシートに貼り付けられる。
 「名前で 呼んでください」
 「ハッ。そんなに俺との距離を縮めたいか?」
 「ええ、ずっと焦がれていた人ですから」

 憮然と眉間に皺を寄せ閉口した周に跨り、目を細めて見下ろす。
 眼鏡の奥の瞳に、クールな銀のフレームとは不釣合いな焦れたような熱が篭る。

 「呼んでください」
 「・・・・」
 「さあ」

 「モトヤ」

 視線を逸らしたままそっけなく、早口で名前を口にする。

 「・・・全く、味もそっけも無いですねぇ」

 鳴海がつまらなさそうに呆れ顔をつくった。眼鏡を外すと上着の胸ポケットにしまい上着ごと脱いで運転座席に置く。そして、薄く笑うと顔を背けたままの周の耳に口を近づけて囁いた。

 「よく考えてくださいね、”周様”。この取引は、会社の為でも無ければ、永邨や美操様達の為でも無い、貴方の為の交渉です。私の機嫌をとっておいた方が、後々貴方の利益に繋がると思いませんか?」

 周の深緑の瞳が鳴海を見上げている。
 様々な思いに囚われているのだろう。虹彩の中で複雑な色が弾けている。
 思わず魅入ってしまい、鳴海の心が再び感嘆の声を上げる。
 同じ瞳でありながら、ひとつの色にに定まることは無い。鳴海を虜にする蠢惑の瞳。

 神前達も、この瞳に魅せられて手放せなくなり 約束の時間をオーバーしてしまうのだろうか。今、瞳はその”務め”のささやかな短縮と この現状を天秤にかけて推し量っている。

 周の薄い瞼がゆっくり閉じられる。緩くカーブした黒く艶のある睫が卑猥に映って
チリチリと想いを焦す。再び明き覗いた双眸には、今までとは全く違う挑むようなエメラルドの光彩が、奸計の中に欲望をちらつかせ鳴海を惑乱した。

 周は無言でその手を鳴海の頬に伸ばし愛撫すると、掠れた甘い声で名前を口にする。
形の良い口に笑みがゆるりと広がり、官能を誘う隙間から吐息が漏れ、
妖惑の瞳がこの取引のイニシアティブを獲ろうと仕掛けてくる。

 「・・・・基弥」


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テーマ : BL小説    ジャンル : 小説・文学