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紙魚

Author:紙魚
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長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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Category: 翠滴 1 (全40話)

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翠滴 1-3 隠れ郷3
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 「あのう・・・祝言って・・」

 「勿論、結婚式です。この家・・というより永邨には、屋敷と同じくらい古い為来たりが
 ありまして、男は一様に23歳で婚姻することになっています」

 「周(あまね)さん、さっき25って」

 「ええ、そろそろ周りも煩くなってきましてね、
 早く身を固めろとせっつかれています」

 周は参ったとばかりに目を伏せ、小さく息をついた。

 「ご結婚、なさらないんですか?その・・周さんなら相手に困るってことは
 無いと思いますけど」

 これだけの色男だ。女性なんて選り取り見取りだろう。
 それとも もっと独身の身を謳歌したいのだろうか?

 もしかして、ド田舎過ぎて嫁いで来てくれる女の人がいない、とか?
周の容姿とこの生活ぶりから、それは無いように思える。
俺が女だったら2つ返事、いや即答で嫁いで来ちゃうかもだ。女なら、だけど。
つまり、本人にその気が無いだけなんだろう。

この間までの自分と正反対だと思った。
享一は、早い結婚して子供のいる幸せな家庭を築きたかった。
由利から妊娠を聞かされた時、1も2も無くプロポーズしたのは、一時の感情から
などではなく、もともと願望があったからだ。

 父親がいた頃の”家族”という幸せなイメージがそう思わせているのだろう。
父親不在の母子家庭になっても、やはり家族は享一にとって大切で特別なままだ。
ささやかであろうと、幸せな家庭を作りそれを守る。それが、享一の夢だ。

 「誰とでも、という訳にいきません。好きでもない相手と後継者を作るためだけに
 結婚するなど僕には出来ませんし、相手も可愛そうでしょう」

 好きでもない相手と結婚・・・胸がツキンと痛んだ。別れた女の泣き顔が蘇る。
 結局、由利の選んだ道は正しかった。瀬尾への気持ちを殺して俺と付き合っても辛いだけだ。心は変わる。それだけだ。

 「それに、僕は自分の血を継いだ子供なんて欲しくは無いし、
 敢えて言うなら子供は大嫌いです」

 周らしからぬ強い口調に 享一は俯きかけた顔を上げて、周の顔を見た。
 この人の子供なら、男でも女でも間違いなく美しいはずだ。

 続けて、君の子供なら、話は別ですが・・・と囁かれ、また訳がわからなくなった。
 周という人間は、内にパラドックスの小箱を携えているに違いない。

 携帯を取り上げられたり、同性の結婚を持ちかけられたり、今の間逆の発言とこの短い時間で、どれだけ周に翻弄されていることか。
 短時間で呆れたり驚くことが多すぎた。
 一日の移動の疲れも相俟って、重たく疲労が押し寄せる。

 「君の子供なら、さぞかし可愛いでしょうね」

 含むような言い方に、なにかが引っ掛った。
 君の子供?まさか、瀬尾の子供を身ごもった由利との失恋を知っているのだろうか?
 いや、まさかそれは有り得ないだろう と心の中で打ち消した。ただの偶然だ。


 ――― 随分経ってからこの時 何故、この事をもっと問い詰めなかったのかと、
     俺は自分を責めることになる。


 気付くと、長い腕を伸ばしてきた周の整った指が享一の顎の下に当てられていた。
 顔を上げられ、真正面にある周と目が合った瞬間、顔が熱くなって動けなくなった。

 「あの・・・」
 「享一君。君の子供の顔なら是非、見てみたいですね」
 耳まで熱い。

 ティーンズ2人組の目が気になって横目で見ると、2人とも固まってる。そりゃあそうだ。
こっちだってガンガンに固まってる。慌てて周の手を押しやり、下を向いて吐き捨てた。

 「俺は、自分のこの顔が嫌いです!」

 思わず、声に力が篭る。由利が綺麗と言った、この顔。
 言ってしまって、再び 憤りが胸の辺りに渦巻き、同時に自分の執念深さが怖くなる。
 そして、悲しくなった。

 「享一君?」

 今、思い起こしたところで何も変わらない。
 終わったのだ。”ココロハ、カワル”忘れるな。

 「周さん、顔は化粧で誤魔化せても、俺は男です。薄いけど髭もキチンと生えるし 
 声も女性っぽいわけじゃない。 背も176㎝あります。 いくら偽りと言ったって、
 こんな女がいたら気持ち悪いでしょう」

 言いながら、自分でも想像して最悪だと思う。

 「今時、背の高い女性なんて珍しくありませんよ。声が気になるなら話さなければいい
 顔も角隠しで半分は隠れますし、君は座っているだけでいいんです。
 たった数時間の辛抱です、終わったら綺麗さっぱり忘れていただいて構いません」

 きっぱりと言い切られて、とっさに返答出来ず、沈黙が訪れた。
周だけでなく美操や茅乃、鳴海の視線までもが有無を言わさぬ強さで自分に集まっていた。
緊迫した空気に息が詰まる。皆の恐ろしいくらい整った顔が、目線の強さに拍車をかける。
4対の強烈なビーム光線ならぬ目力に押されて 享一は負けた。

 「わかりました。それほどまで仰るなら、お引き受けします」

 一気に緊張の空気が緩み場が和む。

 「ああ、よかった。享一君に断られたら、近所のおばちゃん連中を集めてオーディションを
 おっぱじめるところでした。ありがとう、享一君」

 仕方なく緩く笑って返しておいた。
 面白いイベントでも見つけたかのように、ティーンズ2人も色めき立つ。

 「お兄様、私たちお式の日まで学校の夏休み延長してもいい?」

 「それは駄目です」

 「ケチねぇ、お兄様」

 やっぱりねと、少女達の華やかな笑い声が響く。
 一方、享一は軽い頭痛を覚えて こめかみを押さえた。

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Category: 翠滴 1 (全40話)

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翠滴 1-3 隠れ郷2
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  「そういえば、今回の調査は2人いらっしゃると、香田教授から聞いていましたが…」
もう1人の方は…?と聞かれて、心に秘めた交渉事をどのように切り出すか、
考えあぐねていた享一は、これ幸いと自分の望みを口にした。

 もう1人は”急用”で来られなくなった事、1人での作業になるから滞在を延長させて
貰いたい旨を、内容を端折って伝える。由利と瀬尾の2人がいる同じ街に夏休み中、1人でいるのは拷問に近かった。


 「それは、丁度よかった」

周が薄い唇に綺麗な弧を描いて、嬉しそうに微笑む。優しげで、たおやかな笑みに
此方もつられて微笑みそうになる。

 「実は、こちらもお願いしたい事がありまして。訊いて頂けるなら、夏休み中 
 滞在して頂いても、結構です」
 
 よろしいですか? と伺うような瞳を向けられて 所在無くドキドキして頷いた。
ここで頼まれるとしたら、勿論 建物絡みで、この家に関する何かだろう。
リクエストを聞き入れて貰えた安堵と、期待に輝く翠の虹彩に魅入られて享一は、その瞳に宿る罠に全く気が付かない。

 「まだ、学生なんで、どこまでお役に立てるかわかりませんが
 俺に出来ることでしたら、なんでもやりますので遠慮無く言いつけてください」

ニッコリ微笑んで自ら罠に掛かった事にも。

 「遠慮無く?ああ、よかった。大丈夫ですよ 君は、ただ座っているだけでいいんです。
 引き受けてもらえて、本当に良かった」

 「座ってるだけ、ですか?」

 「ええ、君には来月の僕の25歳の誕生日に祝言を挙げていただきたいのです」

祝言って、結婚のことだよな。え、と。誰と誰が?話の流れではオレ? え?
頭の中が混乱して訳がわからなくなる。聞き間違えたか?いや確かに、言った。
まさか、目前の美人双子姉妹のどっちか?どう見ても、まだ高校生だろ。
でも、アリかも・・・。まっさかぁ、と思いつつも脂下がりそうな顔を引き締める。
一応、確認を。

 「ええっと?俺がですか?誰と?」

 「僕と」
 
 「は?」

ニッコリ微笑まれて、気持ちはズッコケた。
この長髪のせいかな。勘違いなら、ハッキリ教えてあげなければ。

 「俺は、男ですけど?結婚には、かなり無理があると思います」
 どころか、有り得ないだろうが。

 「面白い返答ですね、享一君。偽りの挙式なんで、相手は誰でもいいんですよ。
 享一君は細身だし髪型と化粧で充分、騙せます」

顔は笑っているが、目は笑っていない。真剣そのものだ。
そこのところが、享一の焦りを呼ぶ。

 「騙すって、誰を?訳がわかりませんって言うか、
 話が全然見えないんですが?」

 「失礼、料理が冷めますね。食べながら話しましょう」

 享一は、促されるまま箸を取ると、いつもの習慣で頂きますと胸の前で手を合わせた。それを見た、茅乃と美操たちがまたクスクス笑い、再度 周に諌められる。享一は赤くなりながらも、端が転んでも可笑しいお年頃のお嬢さんたちだから仕方ないと、心の中で溜息をついた。

 助け舟を求める訳では無いが、この無謀な計画を考え直すきっかけでも見つから
ないかと障子の前の人物に目をやると、鳴海は相変わらず黙ったままで、クールな
能面の表情を一切崩さず、置物のように静かに座っている。
いや、寧ろさっきより拒絶オーラが強くなっている気がした。

こんなにエキセントリックな会話が目の前で繰り広げられているというのに、表情一つ
変わらない。まったく、どういう神経をしているのか?

当然、ずっとここに居るなら、夏の間中 この一癖も二癖もありそうなメンバーと一緒だ。
改めて認識し 自分で言い出しておきながらも、今度は本当に小さな溜息が漏れた。

 「口に合いませんか?」

 料理はどれも盛り付けも美しく、田舎料理の域を超えた上品な味付けのものばかりだ。食道楽が趣味だった父のいた頃には、子連れで行くのが躊躇われような料理屋にも父は享一を伴って父子でよく食べ歩いた。享一にとって忌まわしい、その癖 壊れ物のように繊細で大切な思い出だ。

 その時に口にした料理屋の味は忘れていない。忘れられずに享一の舌の上に
残っている。その、記憶に残る味に負けないくらい美味い。


 「いえ、とても美味しいです。関西風っていうのかな。出汁に昆布が効いてて旨い。
 素材在りきという味付けが上品ですね」

 「良い舌だね。この料理を作った賄いは大阪出身だそうです。
 享一君は、奥さんにするには最適ですね」

 周はうっそりと微笑んで、蕩けそうな顔を向けてきた。危うく こちらも引き込まれて
フワンと微笑み返しそうになるが、笑っている場合では無いと背筋を正して尋ねた。

 「あのう・・・祝言って?」

 ああそうだった という風に表情を消した周は優雅に操っていた箸を下ろした。
そして、つまらない話ですがと前置きをして、話しだした。 



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Category: 翠滴 -side story-  

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 翠滴サイドストーリー  <目次>
    鳴海   <<全7話>>   2008/10/29  完結 
周のお目付役として常に周に添い従う鳴海。利害のみで成り立つ2人の関係・・・のはずだった。わずかな自由と引き換えに鳴海の出した条件とは。 

鳴海  1 -- - -- - 7 

    真夏の残像  <<全3話>> 完結   ■20000HIT記念リクエストⅠ
 夏の数日を庄谷で過ごす周と享一。東京へ戻る前日、周が夏祭りへと享一を誘った。 

  真夏の残像 3*

    ファミリー・バランス  <<全2話>> 完結   
 和輝を預かることになった周と享一。”良いパパ”になることに必死の享一に冷ややかな視線を送る周。軽いコメディタッチの日々の一コマ。 

  ファミリー・バランス 

    In the blue.On the island.
  <<全6話>> 完結   ■50000HIT記念リクエスト
 周と同棲を始めた享一。すれ違う生活に機嫌が悪化する周の笑顔が見たくて、享一はアイスクリームを買った。 

  In the blue.On the island. 4*5*

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