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プロフィール

紙魚

Author:紙魚
近畿に生息中。
拙い文章ですが、お読み頂けましたら嬉しいです。


紙魚は著作権の放棄をしておりません。当サイトの文章及びイラストの無断転写はご遠慮ください。
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*お知らせ*
長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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Category: 煩悩スクランブル (全4話)

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煩悩スクランブル 1
                                            2→ 
   

 フライパンに3つめの卵を落とした。小気味よい油のはねる音がしてキッチンに食欲をそそる匂いが充満する。
 ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
 4つ目を落としたところでインターホンが鳴った。
 フライ返しを片手に壁の通話ボタンを押すと「宅急便でぇーす」と元気な兄(あん)ちゃんの声がする。

 「ねえ、まだ8時半だよ。ちょっと早くね?」
 「あ、サインはそこに・・・・すみませんね、今日ちょっと荷物が多くって」

 受け取りにサインをして顔を上げると、日に焼けた好感度120%、好奇心200の%の目とバッチリ目が合った。年の頃23~5、同じくらいか。結構・・・・いや、かなりど真ん中だ。早速、秋波を送ってやろうと目を合わせた瞬間、配達の兄ちゃんはブッと噴出して「ありがとうございましたっ」と、最速で去っていった。さすが、飛脚の足は早い。

 「なんだよ、今の笑いは?」
 手の中に心当たりの無いダンボールの小箱が残る。
 「オレ、なんか買ったっけ?」キッチンに戻りながら頭をかいた。覚えがまったく無い。
 取り敢えず箱を開けてみる。そう、開けりゃあ答えはすぐに出るのだ。ガムテを剥がすと納品書らしき白い紙が一枚。下には真白な淡雪の如き衝撃吸収剤が。その真ん中にピンクの”すりこぎ”が、これまた赤いリボンのかかったガラスの棺の中で眠る白雪姫の趣で、楚々と収まっている。
 
 なんの気なく透明な箱ごと目の前に持ち上げた瞬間、オレは雄叫びと同時に箱を放り出した。落下の衝撃か、箱の中で低いモーター音が唸りはじめる。ソイツは、清々しい朝の光を蹴散らすような恥じらいのない淫猥な動きで元気にのたくった。見ているだけで腰が抜けそうな激しさで、ちょっと嫉妬しそうだ。

 「商品の電池は、お届け時は抜いとくのが原則だろうが!!」
 ズレた悪態を吐きながら領収書を兼ねた納品書をひったくり確認する。眼鏡、眼鏡。
 「・・・・・・・」
 受取人は確かに自分の名前になっている。差出人欄には『壮快.com』。
 ブチッ。脳内で細胞100万個が一斉に弾ける音がした。
 脳細胞100万個。つまりショウジョウバエ10匹分だ。
 オレは瞬時に脳内のショウジョウバエ10匹を無為な殺生でヤってしまったのだ。

 「真理(しんり)ィーーーーーッ!!!!」

 オレは片手にのたくる箱、もう片手に納品書を握り締め、真犯人の名を叫びながらロフトの階段をドタドタと駆け上がり、ベッドスペースに踏み込んだ。

 ベッドの中では天使が惰眠を貪っている。
 17歳の透けるような白い肌 バサバサと瞬くたび音のしそうな長い睫 柔らかそうな栗色の髪 小振りだが筋の通った愛らしい鼻、ぷるるんと艶めくベビーピンクの唇。
 まさに、穢れ無き天使だ。
 繊細そうに見える白い指先も、かわいい踝も無防備に投げ出され、天使のあどけなさを強調する。

 だが、オレは知っている。コイツは穢れの固まりだ。
 こいつの中にはあれやこれやの邪がギュウギュウ詰めで詰まっているのだ。
 おまけに、コイツは正真正銘 生まれながらの仏教徒だ。クリスチャンでもなんでも無い。
 こいつの実家はデカイ寺なのだ。
 檀家からお布施と称して金銭を巻きあげ、その金でオヤジはクルーザーを買い、母ちゃんはおシャネルのスーツを戦闘服に高級外車を乗り回す。恐るべしギンギラリンに煌く、宗教法人ワールドのお坊ちゃまなのだ。

 仏教徒の天使がオレのベッドで眠っている。いや、違った。正確に言えばこのマンションはコイツのだから、このベッドもコイツのモンで・・・てことは、もしかして、ここにいるオレもこいつのモノってコトかしら?
違うっ、断じて違うっ。オレはただの居候の身だ。ただし、オレだって好きで居候をやってんじゃない。ヤンゴトナキ事情があってのことなのだ。

 やにわに、身動ぎした天使の左手が、あろうことか自分の股間に移動した。
 眠ったままマスをかく気らしい。
 予想外の面白い展開に、オレはニヤニヤと冷ややかな嗤いを浮かべながらその姿を見下ろした。もちろん手を腰に当て勝ち誇った男のポーズ、仁王立ちだ。
 「おおっと、写メ、写メ~」天使の弱み、1つゲット!
 わざわざ天使の顔の傍に箱から出したブツを置いて、ジーンズの尻ポケットから携帯を出す。もちろん、動画モードだ。マス掻き天使とのたくる愛玩具のエグい構図。
 今後、俺に失礼な事を言ったりやったりしやがったら、お前の恥ずかしい映像をYouTubeで流してやるぞって、脅してやる。
 卑怯者?言いやがれってんだ。
 この件に関しては、俺はなんと言われたって構わない。
 俺だって、卑怯者にも極悪非道の人非人にだってなれるってところを、この腹黒天使に見せてやるんだ。

 優位に立つ自分を想像すると、込み上げる爽快感に笑わずにはいられない。
 時を同じくして、天使のぷるるん唇がニヤリと不敵な笑いを浮かべた。
 んん、なんだ?
 液晶から目を離し注視すると唇が薄く開く。寝言か?
 問題発言を期待して、緩んだ口元が更にニヤケる。

 「・・・・・ハルゥ。ほら、もっと脚ひらいて・・・・」
 !!!!。
 「真理ィーーッ!テメェッ・・・起きやがれっ!よくもオレをオカズにマス掻きやがったな!!」
 
 激怒したオカズのオレは、じゃ無かった、オカズにされたオレは、天使に纏わり付く羽根布団を乱暴に毟り取った。ようやく目が覚めた腹黒天使はスローな動きでベットの上に座り伸びをする。
 しなやかな動きは猫のようだが、猫のほうが1000倍は可愛い。
 ちなみにオレは猫が大っ嫌いだけどねっ。

 「んーー。ハル、おはよ」
 「ハルって呼ぶな。ちゃんと先生と呼べ」
 「だって、もう先生じゃないじゃん。ううーーん。朝の伸びの邪魔しないでよね。今日の分、背が伸びなかったら”先生”の所為なんだから」
 「うるせぇ。伸びでも何でもしてタッタと目ェ覚まして、そこでのたくってる
 ソレについて説明しろっ」
 
 真理は寝ぼけ眼で自分の横で卑猥な動きでクニクニと腰をふるブツを手に取ると、しげしげと眺めた。あどけない天使の顔が、何の感慨もなさそうにブツを眺めている。
 なんとなく怖い図だ。

 「ふぅん。ディルドってこういうのだったのかぁ」
 「感心するなっ。やっぱり、犯人はお前か!何でこんなもん買ったんだよ!!しかも、俺のPCで、俺のアドレス使って、俺のクレジットでエログッズのネットショッピングなんて、すんじゃねえ!!」

 真理がブツを注視していた目を、ピタッとこちらに向けた。性玩具片手に、上目遣いでじいっと見詰めてくる。いつになく思いつめた眼差しの天使顔と猛りうねるバイブのコラボに、異様な凄味を感じてあとずさった。

 「な・・・・なに?」 声がちょっとばかし裏返る。

 真理はコロッと表情を変え、ニッコリ破顔した。

 「せーんせ。朝ごはん、ちょーだい☆」

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煩悩スクランブル 2
←(1)                                          (3)→ 
   

 「はい、どぉぞ」

 ベッドの上で正座をし、真理(しんり)は緩やかに目蓋を閉じて顎を突き出した。長い睫がわずかに震え、ぷるるん唇が薄く開いている。こんなエロい顔されたら、誰でもイチコロだろう。だが、オレはコイツの本性を知っている。この薄く開いた唇の隙間から第三の手が伸びてきて、オレの首ギチギチ絞めるつもりなのだ。なんせ、仏教徒の天使なんだから何やらかすか、判ったもんじゃねえ。その証拠に、こいつの手の中では、ピンクのブツが「カモ~ン」と手招きしてやがる。お前は千手観音か?

 「いい加減、スイッチを切れっ!!」
 「痛ったぁーい!」 

 思い切り脳天をはたいてやった。これで、少しは目が覚めたに違いない。
 「人生は甘くない」、教えてやったオレに感謝しやがれだ。

 
 「いきなり、スリッパで頭はたくなんて、酷いじゃないよ。朝チュウは最初の条件のひとつでしょ?」
 天使が斜め目線でブツブツ文句を言う。コラ、肘を突いて飯を食うんじゃねぇっ。
 「うるせぇ。それより、いつの間にオレのクレジットナンバー盗んだんだ?
 素直に話さねえと、警察に突き出すぞ」
 
 真理がコーヒーを顔の近くまで運んでピタリと固まった。
 そのまま長い睫毛の目を眇めた。

 「こぉぉらぁぁーーーっ!!人が淹れてやったコーヒーを、勝手に捨てんなぁっ。バチがあたる……おいっ!オレの分までっ」
 「これインスタントでしょ。美味しくないもん」

 シンクにオレと二人分のコーヒーを流して、コーヒーの無力化を図った真理は、鼻歌交じりに 冷蔵庫から豆を取り出してミルミキサーにかけた。部屋中にコーヒーの新鮮で香ばしい匂いが広がる。寺の息子で、天使の顔をもつ奴がやることとは、とても思えない。坊主ってのは、なんでもありがたーく、押し戴くモンなんじゃねぇのかよ?
 そして今、心の中の非難を棚に上げ、オレは至福の味を有難く味わっている。
 オレのこうした矛盾が、目の前にいるお子様に付け入る隙を与えるのだ。わかってるんだ、オレだって。わかってはいるが、水はより低い方へと流れていく。それが人ってもんでしょ?
 アーメン、いや、南無三だ。

 「カードは、この前、まい泉でご飯食べた時、見たじゃん」
 「見たって、一瞬だろうが」
 「憶えてるもん」

 そうだった。コイツは数字にメチャメチャ強いんだった。
 オレがこの、望まぬ居候生活を強いられているのも、数式で屈辱的な敗北をしたからだってことを、すっかりさっぱり忘れてた。人はね、辛い記憶が重なると生きていけない生物だから。

 「僕ね、ハルに関する数字なら全部頭に入れてあるよ。携帯番号、大学時代の学生番号、
 実家の電話番号、ご両親と飼い犬の誕生日も。体重68 身長176・・・・」
 「俺の親と犬の誕生日を並べて言うな。もう、いいって」 キモいぞ、数字バカ。

 「で・・、なんであんなモン買ったんだよ?」
 「で・・、そろそろ同棲2ヶ月なんですけど、いつヤらせてくれるんですか?”先生”」
 「質問に質問で返すなよ! こんな時だけ、先生呼ばわりとかズルいぞ。いいか、耳かっぽじってよく聞けよ。
 オレはね、”女”と”子供”には手を出さないのが信条なの。”オ・ト・ナ”の男しか眼中にねえのよ」

 最後は大人の男のゆとり200%で、ニヒルにニヤリと笑ってやる。どうだ、テメェみたいなお子様には真似できねえ笑顔だろう。
 そう、オレは大人の、しかも洗練された渋い男しか相手にしない。
 こんなベビーピンクの唇を持った小悪魔系オトメンは設定に入っていないのだ。

 「手を出すのは、僕のほうでしょ? 普通、攻めるほうが”出す”って言うんじゃないんですか?
 ああ、そうでもないか。気持ちがあってアクション起こせば、この言い方も成立はしますね。”先生”?」

 オレは頭を抱えた。朝からこんな馬鹿げた論法どうでもいいって。
 普通、美少年の口から強請るなら「抱いてください」であって、「抱かせろ」では決して無い筈だ。しかも、オレはネコではない、バリタチなのだ。

 「大体、オレが抱く方ならこのともかく、何でお前に抱かれなきゃなんないんだよ?」
 「だって僕が、勝負に勝ったんだもん。これ、当然の権利でしょ?
 アレ?この目玉焼き半熟になってませんが。”先生”?」
 
 ゲスい権利を主張しながら、しれっと中まで火が通ってしまった目玉焼きにクレームをつけてきやがった。
 知るか!
 
 「なにが権利だ。煩悩天使め!! ママに言いつけてやるぞ」
 「煩悩天使? いいね、そのフレーズ。次の作詞でもらっちゃおうかな」
 手を合わせてニッコリ笑う真理、ガックリするオレ。ハッ。
 気が付けば、オレひとりが激昂しながらしゃべっている。真理はというと、落ち着いてのんびりトーストを口に運びながら目玉焼きの対処法を思案している。
 高い天井まである窓から朝日が差し込んで真理の髪の毛や睫を明るく照らし影を落とす。本当に天使がテーブルについて朝飯を食ってるみたいだ。
 あと、何年かしたら剃髪して、袈裟姿で読経しているなんて、そんな姿は想像がつかない。

 「アホらし・・・・・」 完全に毒気を抜かれた。
 ウォークインクローゼットに入って、出勤用のスーツに着替える。鏡に向かってネクタイを締めるオレの傍に真理が飛んできた。

 「ハル、会社行くの? なんで? 今日、土曜日だよ」
 「休日お付き合い&上司のご機嫌取りサ-ビス出勤。はー、新入社員は忙しいぜ」
 鼻歌交じりで鏡を覗き込むオレを、肩越しにやたら強めな視線が睨んでくる。ん、真理のやつ、また背が伸びたかな。
 「今日はハルと、まったりラブラブデーにしようと思ってたのにぃ」

  休日出勤、バンザイ!だ。

 「何時に帰ってくるの?晩御飯は?」
 ああ~~、煩い。これだから女子供って嫌い。
 「どうなるか、まったくわからん。お前は、テキトーに食っとけよ」
 それこそ適当にあしらってやる。
 「今夜のライブ、来てくれるんだよね。前から約束してたし、忘れてないよね?」
  鏡の中のノットを整えチェックする。この逆三角形の形がきれいでないと、男前も半減なんだよね。
 「ライブ? ああ、タカシ達のバンドか」
 真理はアマチュアバンドのボーカルをしている。昔、俺が歌っていたバンド。つまり、オレの後釜に納まったって訳だ。皮肉なことに、ボーカルがチェンジしてからバンド ”マジェスティック・ファック” の人気は鰻上りで、今では固定ファンに追っかけもいる。全く、気に入らないったらありゃしない。

 今日のライブの話は聞いていたような気もしたが、嗜虐心がメキメキ湧いてきて笑いながら軽く嘯いてやった。

 「あれ、そうだったっけ? 悪ィ。仕事結構多いし、行けるかどうかわかんねーわ、オレ」

 俺を凝視る真理の表情が凍りついた。
 さっきロフトで愛玩具片手に寄越してきたのと同じ目付きで見上げてくる。
 可愛いと形容出来る顔の中で、瞳だけが爛々と輝き殺気を放っている。

 ヤバイ、と思った瞬間突き飛ばされていた。まだ、開封されていないブランド物の服屋の紙袋の山に背中から突っ込んだ。アルマーニやらドルガバが、頭上からガバガバ落ちてきて無意識に眼鏡を庇った。
 なんだこの袋の量は? いつの間に、こんなに増えたんだ・・・・・ママだな。
 多くの檀家を抱える真理の実家は、下世話な言い方をすると大金持ちだ。女傑といっても過言の無いコイツのママは、親バカ指数も女傑級。

 オレが豪快女傑ママに思いを馳せていることも知らず、真理がオレの上に馬乗りになる。締めたばかりのネクタイをぞんざいに引っ張られた。
 しまった、コレって凶器じゃん。
 真理がうっそりと小首を傾げる。気怠げな雰囲気とは裏腹に、ギリリとネクタイに吊るされた頭部が持ち上がった。
 「ねえ、センセ。約束を破ってはいけないことぐらい、3歳の子でも理解できますよね?
 それを、”大人” の ”先生” にわからせて差し上げるには、どうしたらいいのでしょうか?」

 

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煩悩スクランブル 3
←(2)                                            (4)→ 
   
  天使の顔が悪魔の顔に早変りした。半眼で見下ろし ぷるるん唇を吊り上げ笑う表情は観音像の微笑に似ていなくも無い。
やはり、仏門を叩く身の人間はどこかが違うのだと、いらぬ感心をする。
つと、仏門を叩く筈の高潔なその手が、決して叩くなど、まして触れるなど滅相も無い場所に潜り込んできた。

 「真理!待て、待てっ!!」
 「マテ、マテって、僕は犬じゃありません。”先生”」
 「先生つったって、塾の講師やっただけだろう!?しかもバイトじゃんかっ」
 「”先生”って呼べっていったの、”先生”ですよね」
 「いちいち、””つけんなよ!!ヒヤァーーーッ!!真理っ、サカるなって!!もう、時間が・・ウッ」

 「もっと感じてよハル。僕がハルのことメチャクチャ好きなの知ってるでしょ?
 時間なんてさ、今の積み重ねじゃない?今、燃えなきゃ、いつ燃えればいいの?」

 一瞬、え?と顔を見上げた。真理の顔は切な気で憂いを秘めた天使そのものだが、その間もヤツのヤラシイ手はガサゴソとズボンの中でシャツの裾を手繰り分け、オレの大人の男にのみ対応型一物をナデナデしている。ヤバイヤバイヤバイ・・・・イヤバ。違う、ヤバイ。

 「話し合おう、なっ、真理。オレも手荒なことしたくないから。な、な」真理の顔が豹変した。 
 「話し合うって、ナニを?手荒ってダレに? 僕の実力は、”先生”もご存知ですよね」

 意地悪に眉を寄せた表情にも口調にも、険しい棘がいっぱいあってハリネズミみたいだ。
 実はオレ、真理に一度コテンパにやられている。
 それを知ったコイツのママが、寺で催される格闘系の教室総てに真理を通わせたと自慢していた。もちろん、受講料はタダだったに違いない。クソ、女傑め。
 ぐいっとネクタイを引っ張られた。目の前に迫った真理の目が欲情で濡れているのがわかる。
艶のある甘えた声が触れるぎりぎりの距離にある唇から発せられた。

 「ね、ハル。直に挿れるのは我慢するから。今夜、さっきのアレ試させて?」

 オレは力いっぱい真理を突き飛ばした。黒帯で防御の心得はあるし力もそこそこ強い真理だが、細身な身体の体重はたかが知れている。オレと違い紙袋のクッションの無かった真理はシェルフにしたたか背中を打ちつけたようで、顔を顰めた。

 「尼寺へ行け、オフィーリア!もとい。さっさと出家しちまえっ、紅梅林 真理!
 上山して二度と下界へ戻ってくんなっ!!」

 真理が傷ついた顔で、オレを見上げる。知るもんか。オレはソファに置いてあったビジネスバックと上着をひったくった。ズボンのファスナーを上げながらマンションを飛び出す。
・・・・・ああ、ったく締まらねえ。




 「あれ、国友君も休日出勤?」
 「ええ、河野課長の手伝いで」
 「そう。入社早々大変だね。わからないことがあったら、遠慮なく訊いてくれていいよ」
 「はい。ありがとうございます」

 余韻の残る笑みを残して隣の部署の係長、望月さんはコピーコーナーに消えていった。爽やかな大人の色香漂う28歳。ターゲットど真ん中、惚れ惚れするねえ。「望月係長の乱れる姿が 見てみたいぜ!」、などと不謹慎な事を考えながらも脳裏に浮かぶのはシェルフで背中をぶつけて歪む真理の顔だったりする。
 ええい!鬱陶しいっ。

 かなり強く打ってたみたいだった。大丈夫だった・・・・かな?イヤイヤイヤイヤイ・・・・。
 「自業自得だろうが・・・・」PC画面に向かって吐き捨てる。

 夕方、お付き合い出勤にしては遠慮のない量の仕事を押し付けてくれた河野課長が、お詫びにと飲みに誘ってくれた。時計は19時半になっている。

 「望月君と、管理の加納さんも行くから君も、ねっ。君も行こう」

 疲れてんだけどな・・・・と思いながらも”望月”の名前にピクンと反応する。逡巡するも、やめておく事にした。心に引っかかりを持ちながら飲んでも楽しくは無い、と思う。

 「すみません。今日は、先約がありますので、またの機会にご一緒させていただきます」
 「そう、残念。新人の君ともっと親睦を深めたかったんだけどなあ
 じゃ、また必ず誘ってあげるからね。じゃ、望月くーん、行こうかぁ」 

 去っていく小太りな後姿にサラリーマンの悲哀が漂う。仮にこの先300年サラリーマンを続けることが出来たとしても、河野課長は課長のままなのかもしれない。
 そう思うと、河野課長の背中に漂う哀愁の濃度が増したように見えた。
 

 マンションに帰り着くと、ライブに出掛けたのか真理は留守で、ダイニングテーブルの上に晩飯が用意してあった。朝飯がオレで、晩飯が真理の担当だ。オレの好物ばかりラップをした器が3品+飯と味噌汁が並ぶ。ここのところ、外食がめっきり減っている。認めたくはないが、ウチ飯が美味いからだ。

 真理は食い物に異常に拘る。女傑ママが料理が苦手で、子供時分はインスタントばかり食べさせられた怨恨が残るらしい。ママもさすがに拙いと思ったのか、真理を小さいときから料理教室に放り込んだ。そのせいで、味に対する執着が凄まじい。オレがインスタントものなんぞ出そうものなら、皿の上の食い物は今朝のコーヒーと同じ憂き目にあう。

 真理は料理が作れる。歌も上手い。勉強も出来る。勉強姿なんぞ滅多に見たこと無いのに学年一位を誇っている。その代わり本を異常に読みまくる。一日に2~4冊を速読で読みこなす。バンドをやり、飯を作り、家事を一手に引き受け、彼岸と盆と正月は実家の手伝いに走り回る。
ただし、どっかズレてる。どこかに空洞がある。

 『時間なんてさ、今の積み重ねじゃない?今、燃えなきゃ、いつ燃えればいいの?』

 実はこの言葉にちょいグッときた。
 真理は何をするにも刹那の情熱を注ぐ。今の積み重ね・・・・真理の情熱は生まれ出てすぐ死に絶えても、次の情熱がまた生まれる。情熱の積み重ね。冷めることを知らない太陽みたいだ。火の玉になってオレに真っ向からぶつかってくる。本当のところ、オレは熱い火の玉になってぶつかってくる真理を、寸でのところで避けるのが精一杯だ。ヤバイヤバイヤバイ・・・・。

 真理はいつも走り続けている。恋も、歌も、日常も・・・・全てに向けて、疾走し続ける。
オレは、何もしていない真理を見たことが無い。まるで、生き急ぐ人みたい。
まるでオレ、惚れちゃってるみたい。マズイマズイマズイ・・・

  『今日は二人で、まったりラブラブデーにしようと思ってたのに・・』

 チクショウ。

 オレは、スーツの上着を引っつかみマンションを飛び出した。


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02

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煩悩スクランブル 4
←(3)                                                 
   
 玄関ドアのすぐ内側でキスをした。

帰って灯りも点いていない暗い室内に、互いの唇を噛み合いながら舌を絡める濡れた音だけがしている。長いキスを終えて、スイッチに手を伸ばす。リビングとダイニングが一体になった室内に柔らかな明かりが点く。

 「お前、泣いてんの?」
 真理の頬が涙で濡れていた。眉根を寄せ、堪えるようにして流す涙は、赤ん坊を見ても小動物を見ても何の感情も起こらないオレにすら庇護欲を催させる。真理が小さく鼻を啜った。

 「今朝はゴメン。ハルがライブに来てくれて本当に嬉しかった」
 「うん・・・背中、大丈夫か?」
 「平気」

 見かけによらず、抱き応えのある真理の身体が腕の中に納まる。

 「今日、ハルに言われた事ずっと考えてた」
 「・・・・」、えーと、何だっけ?
 「ハルに嫌われちゃったんなら、本当に出家しちゃってもいいかなって」 
 ハァァァ?
 「真理?ちょっと、待てよ!」

 これは、ちゃんと顔見て話すべしと、肩をつかんで真理の顔を覗き込む。
オレ、ちゃんと真理に惚れてるって、気づいたのに。こんな急展開アリかよ?
真理は、泣き笑いの顔を向けてきた。

 「でもね、クラブでハルの顔を見たら、ぶっ飛んじゃったの。
 ハルと、離れるなんて出来ない。ハルが他の誰かのものになっちゃうなんて
 耐えられないもん・・・寺の子なのに、僕って人より煩悩の数が多いのかな?」

 涙をためた睫が切なげに揺れる。
オレは、もう一度その身体を今までになかった愛おしさを感じながら抱きしめた。

 ついさっきまで、クラブのフロアでライトを浴びマイク片手に身を躍らせていた真理は、カラコンを嵌めた瞳を挑発するように真直ぐ前に向けて、唇から魂を迸らせていた。
ビートに低く甘い声を絡め、聞くものを違う次元へと掻っ攫ってゆく真理を見て、オレは 真理ほど輝いている奴を見たことがないと思った。
ああ、オレって、ホントに惚れちゃってる?

 ライブの最後に”happy birthday”が合唱されて驚いた。
今日は真理の誕生日だった・・・らしい。知らなかった。
真理はオレに関する数字なら、出生時の目方まで知ってるというのに。

 かなわねえ。
その真理が、今、オレの目の前で、オレと離れたくないと泣き、涙に濡れた瞳を向けて訊いてくる。オレが本当に乱れたところを見たいのは、この顔かもしれない。

 「ハル、僕のこと嫌い?」  

  マイリマシタ・・。

 「・・・ス・・・・・・好き・・・・?」 なんだ、この疑問符。
 真理相手だとなんか素直になれねえのよ。ツマんねー年上のプライドってヤツ?

 「嬉しい!ね、ハル、ゴハンは?食べてないんでしょ。今から一緒に食べよ?」
 腕を引かれた。テーブルに手付かずの夕食が並ぶ。
ここで何で急に、ご飯なの?
やっぱ、お前ポイントがズレてねぇ?・・・へんてこで、可愛すぎるぞ。

 「真理、プレゼントなにがいい。ネットなら今からでも覘けるぞ?」
 「嬉しいな。でも”後で”もらうから、今はいいよ」

 普段は人一倍疑り深いオレなのに、なんでこの時、真理の言葉を深読みしなかったのか・・・
今朝のブツの箱に巻きついた赤いリボンの警告を、なぜ汲み取らなかったのか?

 零れ落ちるシャワーの湯の下で、またキスをする。
 「ハル、僕、覚悟を決めた。どうしても、ハルとひとつになりたいもん」
 「え?本当にいいのか?」 
 「うん、もう手段なんか選んでいられない。
 どうしてもハルとひとつになりたい。深く繋りたいんだ」

 頬を染めて、ウルウルと潤んだ、キラキラのオメメが祈りを捧げる天使の如くオレを見つめる。
あろう事か、オレは感動してしまった。
あれだけ、自分の『牡』に拘った真理がオレの為に自分の信条を曲げると言う。

 「先にロフトに上ってて。僕、もう少しだけ食器とか片付けて行くから」
バスローブを着た天使が、はにかんだ笑顔で言う。

 ベッドに大の字で倒れ込んだ。これから起る事を考えると頭がギンギンに冴えそうなものなのに、頭の中がボンヤリする。身体も少し熱い。階下の灯が消え階段を足音が上がってきた。
その時になって初めて異変に気が付いた。

 重い頭はそのままで、足元に立った真理を見上げる。
興奮に頬を染め、欲望に濡れる瞳でまっすぐにオレを見下ろすエロい天使の顔。
何でこいつの奸計に気付かなかったの?オレの、バカバカバカバカ・大バカ野郎ーーーっ!

 真理の羽織っただけのローブの前はストンと下まで開いていて、真ん中では天使のカンバセを裏切る立派なものがそそり立ってる。その右手にはピンクのスリコギが、左手にはチューブのついた太い注射器のようなものと例の赤いリボンが握られている。俯き加減で微笑み頬を染める表情は天使そのものだが、上目遣いの瞳には計算高い悪魔の笑みと、溢れんばかりの欲望がネットリとぐろを巻いている。

 「真理っ。テメェ・・・盛りやがったな?」
 「ハルったら、晩ごはん食べてなかったんだもん、
 お迎えは嬉しかったけど、内心はちょっと焦っちゃった」

 オメェの歌う姿に感動した、オレの気持ちはどうしてくれるってのよ?
そうか、お前は手段を選ばないって言ったんだっけな? こんチクショウッ!!

膝を立ててオレの身体跨った真理が、オレの首に赤いリボンを巻き、チョウチョ結びをする。

 「・・・・・・・」
 「18歳の決意・・・ふふ。”襲ってでも、ハルとひとつになる”覚悟をしたの。
 ハルさ、僕の誕生日知らなかったでしょう?」
 ごめんなさい。すみません。申し訳ござりませぬ。そこは謝る、素直に謝る。
 「だからね、ハルからのプレゼントは僕が勝手に決めさせてもらっちゃった」
 ちょっと待て。

 真理はオレの首に結んだリボンを、プレゼントのラッピングを開けるようにはらりと解いた。

 「こ・・・の、堕天使、ヤロウ・・・・・」
 「僕、仏教徒だもーん。いつもハルが言う通り、ちゃんと残さず、
 きれいに食べてあげる。じゃ、おテテとおテテを合わせて」 

 フザケルナぁぁーーーーッ!!実際は、もう口も動かない。
合掌した煩悩天使は極上の笑みで小首を傾げニッコリ笑った。

 いただきまぁす。


 ・・・FIN ・・・

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煩悩スクランブル 目次
    煩悩スクランブル  (短編)           2008 / 12 / 02 完結  

    見た目だけは、愛らしい花のような高校生 紅梅林 真理(こうばいりん しんり)と
   元、予備校教師 青田 春臣(あおた はるおみ)通称・ハル。真理の策略にハマり、
   同棲することになった2人。バリタチを豪語するハルは日夜、自分の貞操(?)とプライドを、
   守るため自分のバックを狙う真理と戦っていた。ハルにベタ惚れの真理と、バックを
   死守したいハルの雄vs雄のおバカな攻防戦。<<全4話>>

    

     煩悩スクランブル      1 /  /  / 4 (完)