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紙魚

Author:紙魚
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*お知らせ*
長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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27

Category: 翠滴 -side story-  

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翠滴 side menu  鳴海 5
← 4                                          6→  

□18禁的表現がありますので、苦手な方はご遠慮ください□


 周は半眼を開け鳴海を睨みつけるが、余裕の表情で笑いながら 鳴海は周の吐き出したものを指で掬うと指先ですり合わせた。

 「少ないですね、すっかり搾り取られた後と言うことなんでしょうか?
 でも、今の貴方のここにはこの量で充分のようだ」

 そう言うと、鳴海は周の両脚を割り広げ、精液を掬った指を滑り込ませて
 後孔に塗付けた。

 「使用済みの俺の身体でヤろうってんだから、お前も相当な好き者だよな」

 悔しさに乱暴な口調で吐き捨てると、嫌悪に眇めた瞳を ふいっと横に向けた。
 その頬に鳴海が口付ける。

 「怒った顔も、拗ねた顔も、どんな表情も美しいですね。茅乃様たちも同じ血を受け継いでいるはずなのに、彼女達とは違う次元の美を持っている貴方の存在は、まるで奇跡そのものだ」

 3日間に及ぶ情交の後で周の蕾は容易に綻び、鳴海のきれいに整えられた爪が飾る指を飲み込んでいく。腹の裏辺りのポイントを掠めると周の躯が大きく撓り、一度は萎えた雄蕊が激しくエレクトした。目の淵を朱く染め、潤みきった翠の瞳から涙が毀れ頤へと滑り落ちる。

 「あ・・・あ。ふっ・・・・・ン」
 「ああ、ここにも私の知らない貴方がある。貴方の総てを知るには、やはり繋がる以外は無いのでしょう。私も・・・もう、限界です。さあ、貴方を開いて貴方の総てを私に曝け出して下さい」

 湿った音が車内を満たしている。
 他の男の熾火が残されて 感じ易くなっている周の身体は容易く鳴海の欲情を受け入れる。悩ましげに眉間に皺を寄せて軽く瞼を伏せ、浅く荒い呼吸をくりかえす。仰け反る顎に歯を立てて軽く食めば僅に震え、奥歯をかみ締めて快感に流され乱れまいと耐えている。それはこちらも同じことだ。進入こそスムースに出来たものの周の熱い襞はしっかり鳴海を捕まえて、もっと奥へ導こうと絡み付いてくる。

 「ァ、鳴海・・・」
 「名前で、呼ぶ約束でしょう?」

 鳴海を取り込むチャンス。そう思っていたのに、喰うか喰われるかのこの期に及んで、一度の吐精と妹達の名前を耳にした事で思考が戻った頭に、自分や妹達に近い立場にいる鳴海との行為に迷いが生じ始めた。無論、許すつもりは毛頭無いが、茅乃の気持ちが鳴海にあるのも知っていた。

 無意識に縋る目を、鳴海に向けてしまう。

 瞳の中の戸惑いの色が鳴海の嗜虐心に油を注ぐ。
 鳴海は周が自分と関係を持つことを ギリギリの所で躊躇っているのを見て取ると愉悦の表情で笑った。これでこそ、堕し甲斐があるというものだ。生意気なガキの癖に高嶺の花である周を、思い切り汚して、引きずり堕し正体も無くすくらい啼かせてやろう。

 「こんなに煽って、神前達に下半身直撃のこのヤラシイ顔を見せていたと
 思うと嫉妬を覚えますね」

 両の肩口を掴み瞳を覗き込みながらそう言うと、抽挿を速めた。

 「アァ・・・ウッ。・・れは、僭越って・・・もんだ・ろ。アア・・・」

 狭い車内で鳴海の肩に乗せられ、折り曲げられた足が辛くて、なんとか反対の爪先でダッシュボードを蹴り鳴海から身体を離そうとする。

 「痛いっ。はな・・せっ!」
 「この程度、神前様たちに較べれば優しいものでしょう?それとも、彼等みたいに小道具でも使って差し上げた方が、貴方ももっと感じてくれるのでしょうか?」

 その内股を鳴海の爪が内膝から足の付け根に向かって引掻くと、痛みと快感が綯交ぜになって目の前でパチパチと弾け飛び、背中が大きく反り返った。
 タイミングを逃さず鳴海が乱暴に奥を激しく打ち付ける。

 「アアッ・・・・ウッ!」
 「まだまだですよ。どうやら、平伏すのは貴方のようだ」



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28

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翠滴 side menu  鳴海 6
← 5                                          7→  

□18禁的表現がありますので、苦手な方はご遠慮ください□

  低く笑う鳴海の律動に合わせて身体を揺らされ、周は目元を染め意識を完全に飛ばし何も聞こえていないようだ。

 いつか、この美しい男を抱いてみたい。出会った時からそう思ってきた。
周の肌はもともと体温が低いのか、触ると少し冷たくベルベットのような感触が気持いい。表面とは裏腹の周の内は熱く滾りながら鳴海を包み、このギャップはまるで周そのもののようだと鳴海は喜悦に浸る。

 ふと気付くと、翠の双眸が自分を観察するように鳴海の顔を見ている。
やがて快感を耐えるように歪んでいた形の良い薄い唇がゆるりと横に広がり、口角を上げて不敵な笑みを顔に刷く。

 堪らなく卑猥で艶めいた唇が動き 何かを呟いたが声は聞こえない。


 絡めていた鳴海の指を、その唇の内部に誘い、舌を巻きつけねっとりと舐った。
やがて、指を口から離すと指の又に溜まった唾液を舌で音を立て舐め取って 潤んだ瞳で見上げ淫靡に微笑む。その仕草に、鳴海の心臓が大きく跳ね上がって、体中の血液が一気に中心に集まってきた。

 「くっ・・・う」
 「はぁっ。ううっ・・・・・あぁ」

 甘い喘ぎ声をあげ、感じ切った表情で完全に理性を手放した周の腰が、貪欲に快楽を求め、快感を搾り取ろうと鳴海の律動に合わせて動き出した。
追い詰めたはずが、いつの間にか逆転して窮地に追いやられて劣情を煽られる。
犯しているはずが、犯されていた。

 くそつ・・・ヨ過ぎる。周と繋がった躯の中心からこれまで味わった事の無い激しい快感が這い上がって来て
鳴海の身体を、頭の中を、ドロドロに溶かし追い上げていく。息が上がり苦しげに眉根を寄せ、堪らず縋り付くように名前を口にする。

 「くっ・・・う。アマ・・・ネさ・・・・」

 唇に薄く笑いを浮かべた周の手が追い詰められた鳴海の頬に伸びてきて、顔の両側を包み喉から鎖骨、項を伝って唇やら瞼を愛撫する。
ゆるりと顔面を這っていたかと思うと、いきなり親指の腹で鳴海の唇を乱暴に割って中に捩じ込んで来た。

 散々、舌や歯茎の付け根を指で蹂躙した後、頭を引き寄せられ今度は、周の舌が進入してきて舌の先から舌裏を刺激しながら辿り、根元に絡ませながら奥まを犯し、音を立てながら鳴海の唾液も飲み込む。

 糸を曳きながら離れた蠢惑の唇は紅く濡れて、淫靡な唾液を口角から垂らしている。開いた隙間から甘い吐息を漏らすと、鳴海を包む周の熱が更に熱く絡みつき根こそぎ情欲の深淵へ連れ去ろうと鳴海を追い上げた。と同時に鳴海の胴に絡めた脚が背中の窪みや腰の辺りを布越しに愛撫しながら締め上げ、鳴海をきつくロックする。
 更に繋がりが深まり、同時に声が上がる。

 「あぁっ!」
 「んぁぁ・はっ、モ・・・トヤ・・あぁ」

 「!うっ・・・く」

 名前を呼ばれた瞬間、頭の芯が爆発して下腹部を直撃した。
鳴海の体が大きく痙攣し短い叫び声を上げると周の中に爆ぜ、同時に周も自分を開放する。周の鳴海を捕まえていた手が力を無くして、鳴海の頬から放れてストンと落ち、その上に鳴海の体が落ちて重なった。

 やがて汗に濡れた身体を起こし鳴海は、ゆっくり周から身を離す。周は意識を飛ばしたままで、綺麗に扇状に生えた睫を閉じ微動だにしない。
 その貌には淫靡さの欠片も無く静謐に横たわり、穢れなど知らぬがごとく崇高ささえ讃えている。
 鳴海は不思議な面持ちで周を見下ろし、熱が微かに残る唇に自分の唇を落とした。

 「俺を喰うとは、・・・なんて奴だ」

 小さく呟くと、周の放った少量の精液を掬い取って指先で確かめる。
 ここまでしてまでも、俺に勝ちたかったって訳か。

 自分より他の人間に跪くにはプライドの高すぎる男だ。
だからこそ、本物の力を持つ人間はこの美しく気高い男を手に入れて傍に置き、手懐けようと心血を注ぐ。 
結局、自分の手には負えなかったということか?
そう思うと、取引を餌にしてまで身体を重ねたにも拘らず、敗北感がつのる。


 そして、周が情事の途中で声を殺して呟いた言葉を、後々身を以て知る事となる。鳴海は周の顧客に、そして周が激しく恋焦がれ手に入れようと奔走する1人の男に。それまで感じたことの無い身を焦がすような”嫉妬”の炎で自らを焼き、消化しきれぬ苦い思いに苛まれる事となる。

    『後悔させてやる・・・』

 周の放った矢は、見事に鳴海の急所を打ち抜いた。



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29

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翠滴 side menu  鳴海 7(終)
← 6                                         月下 1→  


 屋敷に着く頃に周は目を覚ました。
 衣服の乱れは鳴海によって きれいに直されていた。

 「無理させてしまいましたね」

 「・・・・なんてこと無い」

 感情を消した抑揚の無い声が答える。この男は、何度この言葉を自分に言い聞かせてきたのだろう。鳴海は、直接顔を向けず助手席を見遣る 周は視線を暮れなずむ遠くの山の頂に、ほんの少し残る残光に向けたまま、表情を窺い知る事はできない。

 「鳴海」

 「・・・はい」
 
 「俺は結婚する。力を貸せ」

 驚きで、すぐに言葉が出なかった。

 「結婚・・ですか?」

 「俺が結婚したら、本家の奴等も神前たちもそう頻繁に呼び出せは
 しなくなるだろう」

 「・・・結婚ごときで、あの方々が大人しく引き下がるとは思えませんが・・、
 牽制くらいにはなるかもしれませんね・・」
 
 いや、跡継ぎが生まれれば事態は劇変する。本家に子種は無い。

 「どなたか、心当たりでも?」

 「時見 享一」

 周の即答に面食らった。

 「それは・・・時見は、男性でしょう?」

 「俺は、自分の子なんていらない。なら、”ごっこ”の結婚で充分だ」

 「一族の皆様や、神前様たちを欺くと?」

 「何、言ってんだ。俺だって騙されてここに連れてこられたようなもんだろうが?」

 周の瞳が責めるように睨んできたが、諦めたようにすぐにもとの表情に戻る。
 鳴海とて、その話題に触れられるのは後ろめたさを露呈するようで気分は良くない。

 「ただ・・・・時見 享一は、ごく一般的な男だと思われますが、
 落す自信はあるのですか?」

 「俺は受けも攻めも、テクはピカイチだぜ?なんてったって、淫獣・神前の
 直伝だからな」

 周 は事も無げに嘯くと、忽ち悪巧みを企む子供のような酷薄さを滲ませてニヤリと笑った。確かに”受け”のテクはたった今、証明してもらった。 
偽りの、それも女役での結婚式への加担を、如何に時見に承諾させるのかということを訊いたつもりだったが、この発言からすると躯も堕すつもりということか。鳴海の中に複雑な感情が沸き起こる。

 「ちょっと、掻き混ぜてやろうぜ」 と、

 周の翠の虹彩の中で悪戯を企てる時の子供のようなきらきらと輝いては爆ぜる光が楽しげに共犯を誘う。可愛く”悪戯”と呼ぶには悪質すぎて呆れるが、この瞳に強請られるなら悪い気がしない。久しぶりに見る周の生きいきとした表情は、鳴海の胸にも小さくパチパチと弾ける花火のような光を伝染させる。

 完成された美しい男の容貌から覗く、聞き分け悪そうな少年の貌。
 この男は、どれだけ自分を魅了すれば気が済むのか・・

 「なっ、面白そうだろ」 

 「少しは・・」

 しなやかな男だ。 
 実のところ、神前も他の誰もこの男には敵わないのかもしれない。

 選択を許されない逆境にあっても運命を変えようと指し示す指は、常に真直ぐ前を向いている。この類稀なる男にどんな運命が待ち受けるのか、どうやって自分の道を切り開いて行くのか、その先までも見届けたくなった。
   


                                  鳴海 (終)  
             

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03

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真夏の残像 1 □20000HITキリ番リクエスト♪□
 本日は、本編をお休みしまして、先日AOさまより頂いた
□20000HITキリバンリクエスト□にお応えしたいと思います。 
ストーリーは、『翠滴』のスピンオフ、周×享一のお話です。
では、どうぞ♪



 < 真夏の残像 1 >

 「夏祭り?」
 広げられた”たとう紙”の上に並べた鈍色と紺の浴衣を前に享一の目が問いかける。

 「茅乃と美操からの結婚一周年の祝いだそうだ。灰色が俺ので、
 こっちの藍紺が享一の浴衣だ」
 周の鈍色の浴衣は、少し光沢のある灰色に縦糸で注し色で翠の縞が入っており、翠の瞳と相俟って、周にすごく似合うに違いない。
 雄雛のようにきりりと切れ上がった眉の下で深い翡翠色の瞳が目許も涼しく笑っている。

 「実は、屋敷の前につるされた提灯が気になってたんだ」
 享一の手がたとう紙の上の紺の浴衣に伸びた。
 「GWに周から旅行をプレゼントしてもらったばかりなのに、茅乃さん達まで・・・
 2人とも忙しいのにいつ見に行ってくれたんだろう?・・・・これ、似合うかな?」
 「勿論・・・」周が浮かべた微笑に邪な色が混ざり、翡翠の碧が一層深くなった。

 茅乃たちが帰国した折、享一の浴衣の見立てに行くという2人に自分も同行した。
 一色の糸ではなく濃淡のある数種の藍糸を使った深みのある藍紺は享一のしっとりとした艶を引き出しより魅力的に見せるはずだ。
 嬉しそうに浴衣を手に取る享一に翠の瞳が下心を滾らせ、これもまた嬉しそうに細まる。 

 着せる喜びがあれば、当然そのさかしまの喜びがある。
 むしろ、そちらの方に周の期待は軍配を上げ、享一の腰に巻いた角帯を持つ手が仕上げの結びのところでピタリと止まった。
 着れば脱ぐ、いや脱がせるために着せる・・・。
 今夜の”着る”から”脱ぐ”までの間に横たわる雑多な段階をすべて排除できないものかと、周は帯の結び目を睨んだまま思案をめぐらせる。
 理性と欲望がこめかみ辺りでせめぎ合いピクピクと小さく震えている。

 「周、手が止まってるぞ」
 俄かに危険を察知した声が、普段の甘やかさからはかけ離れた想像もつかないような低音で頭上から落ちてきた。
 「・・・・夏祭りは、今日と明日の2日間ですが・・・・」
 帯を掴んだ両手がクロスしたまま期待を込めて”待て”をしている。

 享一がいつも、”その眼に魅入られた・・・・”と表現する魅惑の翠の瞳は、勢いよく袷を開いた時の享一の羞恥に狼狽る表情と、「浴衣には当然これだ」と、嫌がる享一に無理矢理着けさせた褌姿をもう一度見たいという欲望に充血しウズウズしている。

 「だから?」 氷の如く冷たくそっけない声も、欲望で沸騰した脳に達する前に蒸発する。
 「行きたい?」
 本当は『イキたい?』と聞きたい。今度は小さな溜息が落ちてきた。
 「明後日は仕事だし、明日の夜なんて俺たちはここにいないじゃないか?」
 周・・・、と肩に柔らかく享一の手が置かれた。
 「俺は、はじめて周と俺が出会い周が大切に思うこの庄谷を俺も大切に思っている。
 だから、村の祭りにも行ってみたいし、・・・なにより、周がその鈍色の浴衣を
 着たところも見てみたい」
 ダメ押しとばかりに周にむけて向きを変え、顔を覗き込むように少し屈んだ享一の、はにかんだ表情の唇が綻ぶ。
 素早く残りの帯も結び始めた周を肩越しに見下ろし、享一は薄くほくそえんだ。

 帯を結び終えて立ち上がり、改めて正面から享一を見た周の瞳が大きくなる。
 「どう?似合うかな?」
 「・・・・・・・・」
 「なんか言ってくれよ。そう正面からまじまじと見つめられると、恥ずかしいだろう?」
 照れ隠しか、頬を紅潮させながら享一がしかめ面を作る。
 なんという艶やかさか、濃い紺が細身だが決して低くはなく若竹のようなしなやかな躰を包みそこはかとない色香を漂わせる。
 寝巻き用の浴衣で浴衣姿には免疫があると思っていた考えが鱗となって剥がれ落ちていった。
 照れまくりながら上目遣いで見上げる表情は・・・「可愛い」と言っては怒るだろうと、万感の想いを込めて「よく似合っている」とだけ言っておく。
 そんな短い褒め言葉にも享一は頬を染めたまま満面の笑みで返し、愛おしさを掻きたてる。

 享一を待たすまいと、素早く自分も浴衣に着替えると、二人分の下駄を持って一足先に玄関に向った享一に追いついた。玄関先に立って自分を待っていた享一の顔が、やわらかな卵色の白熱灯の下でパッと華やいだ。
 「周、その浴衣やっぱりすごく似合ってる」
 嬉しい言葉に微笑で応えた。
 「行こう」
 
 門を出ると、とっぷりと落とされた夜の帳の中で、柔らかな提灯の灯りが時折風で揺れていた。遥か遠くの道にも同じ提灯が吊られていて、神社への参拝道をささやかな光で照らしている。
 鎮守の森のある山の中腹辺りがぼうと明るくなって、お囃子のような楽の音が風に乗って微かに流れてきた。
 ふと、前にも同じようなことがあったことを思い出す。
 秋の気配のする晩夏の夜、周は1人塞ぎ込む享一を同じように外に連れ出した。
 あの時、享一は心ではとっくに周を選んでいながら、頭では理想の人生の形というものに囚われ、ふたつの思いの間で揺れながら苦しんでいた。
 隣で佇む享一の顔を見ると、放心したように灯りのない暗い田畑に見入っている。
 享一の手を取りあの時のように手を繋ぐ。
 泣きそうな顔が微笑みを返してきた。

 あれから4年の月日が経った。
 享一の身を慮って、一度は諦めた。
 だが、その享一はすべての懸念や杞憂を持ち前の誠実さと潔さで覆し、隣にいる。
 更なる万感の想いを込めてしなやかな身体を抱き寄せると、何も言わずその腕を背に回してきた。
 「行こう」
 「ああ」
 頷いたその手を引いて薄闇の中に踏み出した。

 


    真夏の残像  2 →



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04

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真夏の残像 2 
 神社への長い階段を子供たちがはしゃぎながら駆け上がってゆく。
 やわらかな提灯の明かりの中、周と並んで石段を登り始めた。
 足を上げる度、腰の周りがどうにもスカスカと落ち着かず、不自然な仕草で浴衣の袷を押さえてしまう。
 ふと、隣で平然と階段を登る周の姿に疑念が湧き、周の腰を”観察”した。
 ・・・・どうにも、怪しい。
 思い切り嫌疑の目を向けていると涼しい声が尋ねてくる。
 「なに?」
 「や、その・・・別に・・」
 「奥歯にモノの挟まったような言い方しないで、はっきり言えよ」
 「あ、いや・・・・。まさか、人には『浴衣にはコレ』だとかいって褌を付けさせておきながら、自分は普通の下着を着けてる・・・なんてことはないよな?」 

 周の顔か一瞬真顔になり、含みのある笑いを向けてきた。
 「なんなら、ここに顔を突っ込んで確かめてみる?」
 小学生の一団が階段を駆け上る中、周が自分の浴衣の裾をそろりと捲り上げる。    
 「は? ばっ・・・馬鹿じゃないのか!? こんな所で一体、何を考えてるんだよ」
 「確かに、ここじゃまずいな。階段でやるには危ない行為だ」
 違うだろう!

 永邨 周という男は、社会的な面で優れたバランス感覚を持ち、スマートで時にど肝を抜く豪胆な判断もする。男らしい容は凛々しく、そして人間そのものが壮絶なくらい美しい。
 洗練された所作は見るものを惹きつけてやまず、”一見”完璧に見える。
 だが、一旦プライベートに立ち戻ると、ベロリと一枚皮が剥けて、嫉妬深く下品で利かん気の強いエロ男が顔を出す。
 出会った当初は、上辺の姿に魅了され自分も周のような大人になりたいと憧れた。
 複雑で、少し困った内面も知った今はどうだろうか。
 慣れた着物捌きで階段を上ってゆく男っぽい浴衣の背中を見ながら後に続く。


 上り詰めた境内は鄙びた田舎の祭りにしては賑やかで、参道脇には露店が出揃っている。
夏休みで、都会から帰省した子供たちもいると聞き、珍しい庄谷の賑わいに納得した。参拝を済ませ、周と並んで輪投げや射的、スマートボールなどの店先を冷やかしながら歩いた。
 
 地元の子ども会が出店しているという金魚すくいで、以前、軽自動車を貸してくれた利根さんに出会った。
 「あら、周さん帰ってらしたんですね。
 まあまあ享一さんも去年お屋敷の前でお会いして以来かしら?。
 お二人とも男前だから、浴衣がさまになって似合ってらっしゃるわ。
 どうぞ、客寄せにひとつすくってって下さいな」

 2人の手にアルミの容器と「ポイ」と呼ばれる薄紙を張った道具が渡された。
 男二人が客寄せになるとは思えないが、厚意を無駄にするのもどうかと子供に混じってしゃがみ込む。デカイ男の登場に迷惑気な視線が集まったが、周の一瞥で非難の視線は一斉に散った。フォローを入れようにも誰も上を向いてくれず、諦めの溜め息を吐く。

 「周さん、奥様はお元気ですか?なんでもすごい別嬪さんの花嫁さんを貰ったんだって、
 うちのばあちゃんがしきりに言ってましたよ」
 「ええ・・・・”家内”は元気にしてますよ」
 さっと朱の奔る顔を背け複雑な表情を見せる享一に、周が眉を上げ笑む。
 
 「あ・・・破れた。昔は結構取れてたんだけどなあ」
 動揺で闇雲に泳がせたポイはあっけなく水の中で破れ、これ幸いと立ち上がる。
 享一の容器の中で5匹の金魚が泳いでいる。
 その傍を泳ぐ出目金を周のポイがすくい、赤い和金と黒の出目金で一杯になったアルミの容器に落とした。満員御礼状態の器の中で金魚が蠢く様子は見ているこっちが酸欠になりそうだ。

 先程、邪険な視線を向けた子供たちが羨望と尊敬の熱い眼差しで周を見上げた。
 子供相手に、他人にはわからない優越の笑いがポーカーフェイスに浮かんでいる。
 「車の運転と同じで、何をするにも迅速な行動が功を奏する」
 年中スピード違反している男が、一体何を言うやら・・・。
 呆れて、歩き出した享一の足が止まった。
 さまざまな形の飴細工の並んだ小さな木箱を前に置いて、黒い前掛けに法被を羽織った若い男が実演をしている。

 「へえ、懐かしいな。まだこんなのが残っていたんだ」
 「職人の数は減っちまったけど、こうして俺みたいな物好きが飴細工の伝統の技を
 引き継いでるってわけだ。どうだい、どれもよく出来ているだろう?」
 作業台も兼ねた木箱には金魚や馬に龍、果ては恐竜なんていうのもある。
 
 ちらりと顔を上げた若い飴細工職人の手の中で、白い塊が鋏を入れられ引っ張られて見る見る形を変えていく。
 飴は白い鷺になって今にも広げた羽をはためかせ飛んで行きそうだ。
 同じく物を創る者としての好奇心からか、享一の熱心な瞳が輝き、刻々と形を変える飴に釘付けになる。
 「鋏一本で作ってしまうなんて、凄いな」
 突然、白鷺がひょいと享一の目の前に差し出された。
 職人気質の熱を帯びた眼差しが驚いた享一を見詰める。
 「やるよ。もっていきな」
 「でも・・・・」

 「いえ、お代は払います」
 即、隣から、やや威圧的とも取れる単調で低い声がする。拙い、機嫌が悪い。
 周の目つきは次の職人のセリフで更に険を帯びて完全に据わった。
 「いいって。これはあんたのイメージで作ったんだ。
 オレの技に熱い視線をくれるあんたのその目が気に入ったんだから。
 祭りも今日が初日だし、験担ぎだと思ってさ。ほら、もっていきなよ」
 
 階段の中腹で、また享一の足が止まった。
 享一は手にした飴を目の高さに翳し、優美に羽を広げる鷺の姿に見蕩れている。
 白い鷺の潔白さと享一のたおやかで誠実な瞳が重なる。

 「こんなに綺麗な形をしているのに、なんだか食べるのが勿体無いな」
 「置いていても、どうせ溶けるだけだから、美味い時に食べた方がいい」
 やけにきっぱり言い切る周に、享一がちらりと飴越しに視線を寄越し目の端で笑う。
 「な、機嫌直せよ、周」
 「誰も機嫌など損ねていませんが?」
 能面となった周が固い声で返す。

 笑みを深くした享一が周の好きな何もかも受け入れ内包てしまう柔らかな瞳で段下から見上げる。
 風が吹き始めて、汗で湿った肌をさわさわと冷やしていった。
 「ほら、言葉も・・・丁寧だけど、棘だらけだ。なあ、一緒に食べよう」

 見透かされている。享一が相手だと、そんなところもなんともいえず心地よい。
 赤く濡れた舌を出し、白い翼の先に這わせると上目遣いで周を見上げた。
 些細な仕草に煽られ、白い鷺に舌を這わせる享一から目が離せなくなる。
 黒曜石の瞳の中で連なった提灯が音もなく揺れている。




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