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紙魚

Author:紙魚
近畿に生息中。
拙い文章ですが、お読み頂けましたら嬉しいです。


紙魚は著作権の放棄をしておりません。当サイトの文章及びイラストの無断転写はご遠慮ください。
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*お知らせ*
長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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短編・SS・企画参加・バトン 目次
<<短編小説>>

 煩悩スクランブル  <<全4話>> *コメディ*
 一見、愛らしく天使のような高校生 紅梅林 真理(こうばいりん しんり)と元予備校教師 青田 春臣(あおた はるおみ)ハルにベタ惚れの真理とハルの雄vs雄のおバカな攻防戦。

 『煩悩スクランブル』  1 /  /  /  (完結)

 ラッシュアワー  <<全6話>> *リーマンラヴ*
 ------君、名前は?朝のラッシュアワー、電鉄会社勤務の達彦の耳に飛び込んだ涼やかな声。非日常の甘く切ない恋が始まった。

 『ラッシュアワー』  1 /  /  /  /  /  (完結)

 レジ男  <<全5話>> *三角関係*
 ------スーパーのレジに立つパートの男。レジ男。女にも生活にもだらしのない恋人に疲れ果てた瑛介は、レジ男の見事なカゴ詰めテクに惹かれスーパーに通い始める。
      
 『レジ男』  1 /  /  /  /  /  (完結)

 首輪  <<全3話>> *隷属*
 ------資産の運用に失敗した大学院生の礼仁は、返済が終わるまでという条件で若手代議士の坂倉に愛人として飼われていた。完済を目前に、自分の中に生まれた坂倉への感情に気付いた礼仁は戸惑いを覚えた。
      
 『首輪』  /  /   (完結)

<<企画参加作品>>

 桜の木の下  *SF* 2009/2/10 『ひまつぶし』さま宅の春の特別企画
 お題は、『桜』。不治の病を持つ「君」と宇宙船に乗り込む「僕」。
 200年後の再会を約束して別れる二人のお話。

 花喰い  /  (完結)  2009/9/19 『ひまつぶし』さま宅の秋の特別企画
 『己が15になったらワをその躰に飼うてくれんか』 花を喰らう邪鬼、朱温(しゅおん)に迫られた少年は、つい頷いてしまった。<<SS>>『flower』の第3部

   


 flowerシリーズ<SS>
       Ⅰ ― 放春花 ・・ 
       Ⅱ― Sakura Spiral ・・ 
       Ⅲ― 花喰い(特別企画参加作品)
   

<<バトン>>


 キャラ対話バトン
 愛してるんだけどバトン

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 <SS> - 願 -
                  - 願 -

 「享一君とケンカしたんですか?」

 声の方に目を向ると、静が対面式のキッチンカウンターの向こうから問い掛ける視線が投げて寄越された。

 静が作ってくれたウォッカマティーニに口をつけた。
 専用のグラスではなくタンブラーになみなみと注がれたマティーニを嚥下すると、
 トロりとした液体が喉を焼きながら下りてゆく。

 「シズカ、ウォッカが多すぎる。どうしてお前って仕事を離れると、
 こうもアバウトなんだ?」
 静は困ったような照れたような顔をして、希少品のフロマージュとプロシュートを惜しげもなく盛った硝子の皿を、ローテーブルの上に置く。
 河村の顔が伺うように静の顔を見上げる。

 「シズカ、これ商売用だろう?」
 「圭太さんは、うちのお得意様ですし、大サービスです」
 鳶色の澄んだ瞳が細まって笑う。意在言外で、『今日は特別に・・・・』 と顔に書いてある。
 こういう細やかで柔らかい対応が、シーラカンスのような大人な雰囲気の店に 
 合っているのだと思う。

 「悪いな、いきなり押し掛けて」
 「全然・・・、久し振りに圭太さんに昔の愛称で呼ばれて、高校時代に戻ったみたいで嬉しいですよ」
 「お前、中坊の時から薫にくっついてたもんな。あん時はムサい髭も無くて、白眉の美少年て感じで可愛かったのに、今じゃ、バカ兄貴とお揃いの髭面だよ」
 片眉を上げて、わざとらしく溜息をつく。

 薫の話題が出ると静の顔が鬱ぎがちに曇った。かつての美少年は今も充分に美人で、軽く伏せた瞼の縁を飾る睫毛を僅かに震わせている。その表情に今し方、部屋に置いてきた恋人が重なり胸が軋んだ。

 「今日は兄貴がすみませんでした」

 頭を下げ、そのまま固まっている静に懐かしい感情が過ぎった。
 自分は何も悪くはないのに、あまりにも申し訳なさそうにする。静は昔からそうだった。控えめで、なんに対しても自分に非を感じ、自ら貧乏くじを引く。
 いつまでも変らぬ、弟のような幼馴染みの仕方のない癖に溜息と微かな笑みが漏れた。

 「シズカが今、薫の顔見たら、謝んのは俺の方だって、きっと怒りたくなると思うけどな」
 静は複雑な笑いを浮かべ
 「いえ、今日のは兄貴が悪い。圭太さんに向かって、あんな風に享一君の気持ちを断言する物言いをするなんて・・・デリカシーがなさ過ぎました。いつもはあんなんじゃないのに・・・・」思い詰めたように口を閉ざす。

 顎に手を伸ばして静の髭を軽く引っ張った。静が吃驚した顔をして、弾かれたように上体を引く。
 「シズカ、この顎髭落とせよ。お前はデブい薫と違って美男子なんだからさ。その方がシーラカンスのオーナーも喜ぶし、客も増える・・・・て、これ以上ファンは要らないか」

 「圭太さん、享一さんを、諦めるんですか?」
 話題を変えようとした河村に、静は先の質問を剥き出しにして再び口にした。
 職業柄というよりは性格か、静が人のプライベートに、こと恋愛事に首を突っ込んでくるのは珍しい。兄の言動を余程気にしているのか、切迫した鳶色の瞳が揺れている。自分にとっても弟のような存在である静の動揺に、安心させてやりたいと思う柔らかい気持ちが湧き強張っていた心が弛む。

 「まさか、享一を諦めるつもりは毛頭ないよ。薫が口にしなくても、遅かれ早かれアイツは、動かしようのない自分の気持ちに気付いたと思う。俺はね、そういう享一の全てが欲しい。無理強いやゴリ押しで手に入れるんじゃダメなんだ。雅巳と周がいい例だろう?」
 「なあんてな・・・・・実は俺も、もう少しで道を踏み外しそうでヤバかったけどね」
 「え・・・?」

 自嘲気味な科白に、静が固まるのを感じた。
 「マジで、監禁しそうになった・・・って言ったらお前、引く?」
 冗談っぽく上目遣いに笑って答えると、静も安心したように静かに笑う。
 「圭太さん、人が悪いな。一瞬、真に受けそうだった」
 ただ、お互い目が笑っていない。先に河村が視線を落とした。
 無言で空になったタンブラーを傾ける。
 氷が澄んだ高い音を立てた。

 「圭太さん・・・」
 「シズカ、酒のおかわり作って」
 静は何も言わず、タンブラーを持ってキッチンに立った。
 今頃、享一はどうしているだろうか?今は、幾ら飲んでも酔えそうにない。




 静かな部屋に、微かな寝息が聞こえる。
 静はソファで眠る河村に毛布をかけると指先でそっと河村の頬を撫ぜた。
 河村が前から指摘するように自分には髭が似合わないことはわかっている。
 強い酒に思考を奪われ、ようやく眠りに落ちた河村に言い聞かせるように呟く。
 「俺が髭を剃らないのは願掛けしているからだよ、圭太さん。大切な人がいつか自分を見つけてくれたら、その日が来たら、髭は落とします」

 他の男に焦がれる唇に想いを込めて自分の唇を重ねる。
 どうか、この願いが届きますように。



***ふたりのこの後の物語り***
  ↓ ↓
 深海魚
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 flower - SS -

 木瓜は、枝を持つ左手に背後から伸びた手指がすうっと添えられ、真中よりやや下辺りでパチンと音をたて二つに分かれた。京間4畳ほどの静かな空間に、忠桐(ただひさ)の操る鋏の音だけが小気味良く響く。障子に映える春の日差しに竹笹の影が音も無く揺れている。

「あ~、俺、もうちょっと長めで使いたかったのにな」
「トモ、半人前どころか、ズブの素人を脱していない分際で
僕に意見するなよ。ほら、見てて」

 忠桐はそう言うと手元に残った木瓜の枝を手を添えたまま、なげいれの花器に生けた。目の前に、春の野を思わせる小さな空間が現れる。木瓜と花韮のたった2種の花しか使っていないのに、木瓜の枝ぶりや花韮の花の絶妙のバランスが、そこに静謐でありながら、流麗な侘び寂びと呼ばれる宇宙を生む。

 俺は、忠桐に会うまで、自分の中にもいかにも日本人といった、こんな感覚が存在するとは思ってもいなかった。目の前の新たに生まれた優美な世界に心奪われていると、耳の下の窪みに柔らかい温もりを感じ、ドクンとひとつ心臓が高鳴った。

「朋樹・・・」

 ザーッ、とひと際強い風が笹の葉を煽る音がして、躙(にじ)り口から反射した蹲(つくばい)の水が天井でさんざめく。

「忠桐、やめろって。誰かが来たら、どうすんだよ」
頬やら、耳朶が眩暈がするくらい熱くなる。
きっと自分は茹蛸のようになっているに違いない。

 声も無く気配だけで笑った忠桐は、木瓜を包んでいた紙を丸めて捨て、活けたばかりの花器を床に据えると躙り口の戸を閉めた。

「臆病だな、トモは」
「見られて困んのは、俺よりお前の方だと思うけど?」
「破門されるのも悪くない。家を継がなくていいし朋樹とも一緒にいられる。
一石二鳥じゃん。トモ、いつまで正座してんの。もういいぜ、足、崩せよ。」
 由緒正しい華道の家元の跡継ぎが、ゲイだと知れた暁には、上を下への大騒ぎになること必至で、実際は、忠桐の言うそんな簡単なものではないだろう。

「うへぇ、痺れたっ!痛ってーーっ」
「情けナイ」
完璧に整った忠桐の綺麗な横顔が、つんと鼻をそびやかす。
「13年の正座キャリアを持つお前と一緒にすんなよなっ」

 崩した足はガシガシに痺れていて、そのまま畳の上に大の字で転がった。
痺れた足に急激に血が通う気持ち悪さに、全身が脱力する。俺の上に跨ってきた忠桐の指が伸びてきて制服のカッターの釦を外しにかかる。俺も、忠桐のベルトのバックルに手を掛けた。これから始まる事への期待感に、熱い吐息が漏れそうになる。学年末テストの最終日、マックで昼飯を喰ってそのまま忠桐の家にやって来た。
表向きは”華道の指導”。なんだ、こりゃ?ダジャレにしてもイケてない。

「忠桐、こんなに花が好きなのに、なんで華道部作んねぇの?」
「作ったら、トモは入ってくれんの?」
「俺はさ、ほら、ハンドのキャプテンだし・・・ふっ・・ん」

 サワサワサワ・・・・強くなった風が笹の葉を鳴らす。重ねた唇が外れ項や鎖骨に移動する。忠桐の柔らかい髪が肌を擽って、テスト期間中の”禁欲生活”を強いた身体にサワサワと波を引き寄せる。
 サワサワサワサワ・・・・ああ、もう笹の葉の鳴る音なのか自分の血潮が体内を駆巡る音なのか、わからなくなる。忠桐が、眼鏡を外して俺たちの脱ぎ捨てた制服の上に置いてからポツリと言った。

「僕ら、もう3年だろ。この先、もう無駄な事に時間は割きたくない」
「じゃ、これはどうよ?どう考えても、受験の邪魔だぜ」

 忠桐の長い睫が、探るように上を向く。その下の瞳は俺の罪を裁くように俺を見つめている。少し意地悪だったかと反省するも、不意にその顔が笑った。いや、正確には、瞳以外はと言うべきかもしれない。

「ダブルスタンダードなトモの口は信用ならないからな。
無駄で邪魔なものかどうかは、こっちより100倍素直なトモ君に訊いてみる・・・」
そう言って、忠桐は俺の唇を軽く捻り上げた。

 サワサワサワサワ・・・極って仰け反らせた視線の先に、2人で生けた木瓜が見える
 ----二人で生みだした、小さな宇宙。
 絡まる指が汗ばんで溶け合う皮膚が、何よりも自分の心が、高校を卒業しても、その先もずっと忠桐と一緒にいたいと訴えている。

「忠桐・・・好きだ」
「あたりまえ。それ以外の答えは許さないから」

 風の音に笹の影が再び大きく揺れる。
 俺たちは、もう一度唇を合わせた。

                                -放春花
   -fin-   

                       

 関連小説 flower Ⅱ―Sakura Spiral
        flower Ⅲ―花喰い

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桜の木の下 ―特別企画作―
 この度、『ひまつぶし』さま宅の特別企画、に参加させて頂きました。
深海魚はお休みさせてください。続きをお待ちくださっていた方申し訳ございません(ペコペコペコ・・・

 サイアートさまの美しすぎるイラストに添ったお話を書くという企画でございます。
既に、同テーマ作をあちらこちらで目にされ、素敵な作品をたくさん読まれた方もいらっしゃると思いますが、拙文ゆえ、どうぞ温かくヌル~~~イ目で読んでやってくださいませ。

テーマ:旅立ち
タブーワード:出会い


特別企画サイアートさんイラスト


― 桜の木の下 ―


「なにしてるの?」
「溺れてる」

 柔かい草の上に寝転がり しなやかな手足を投げ出した躯の傍らに立ち振り仰げば、桜の花びらが苔生す古木の枝から途切れることなく舞い降りてくる。
まるで雪のような花びらは、薄紅の海に溺れる男の上に深々と降り積もった。

「毎年この時期になると大地に満ちるエネルギーで頭の中が狂い出すんだ」
「春だね」
「最期の春だ」
「違う、次の春が200年後なだけだ」

 花弁を纏った瑞々しい肢体の内側は、増殖を繰り返した何千億ものウイルスに蝕まれている。長い間人類を悩ませ続けた、癌やHIVの不治の病も2世紀前には克服し、直らない病は無いと言われたこの時代に、このウイルスは発生した。そして、神のごとく不死を手に入れた気分に酔い益々傲慢になっていった人類の鼻っ柱をへし折った。
 薬害によって感染した身体は、不思議な程に艶を放ち生命力に溢れている。まるで死とは対極にあるかのような薔薇色の頬を持つこの男は、間もなくこの桜の樹の下にある施設で未来の治療に向け200年の眠りに就く。

 寝転がっていた身体が起き上がった。
 はらはらと身体から花びらが落ちてゆく。
 胸元に銀の十字架が鈍い光を放って揺れ定位置に落ち着いた。

「神なんて信じてるのか?」
 罪無き君に、こんな酷い十字架を負わせる神を?
 僕の顔は怒りで歪んでいるかもしれない。
 罰を受けるなら、カトリックの戒律を破り、同性の君を愛してしまった僕でなければいけなかったのに。

「さあ、どうだろう?でも、このウィルスの出現もオレの発症も、なにか人智の知れない大きな力によるものかもしれないと最近は思えてさ。だから、コールドスリープの話を受ける気になったんだ。オレは200年後に、この熟れきった世界がどうなっているのかを自分の目で見てみたい」

 そう言いながら、薄茶色の瞳は音も無く舞い散る花びらを見ている。
 目前に迫るコールドスリープや未来の治療への不安をそっちのけで、「神が」「世界が」と大きなことをのたまった男は、実のところ、いま目の前を雅に散りゆく桜にしか興味がないみたいだった。

 無心に花びらを追うその横顔が愛おしく、胸に秘めた想いが堰を切りそうになる。
 思わず、伸ばした手が髪に触れた瞬間、一心に花びらを追っていた瞳が向けられた。
 大きな瞳が問いかけるように見上げてくる。

 ああ、狂おしく迸る想いが胸を突き破りそうだ。

「花びらが・・・」
 
 髪に残った花びらを手に、想いを誤魔化す僕の言葉にはお構い無く、君はゆっくり立ち上がった。
 身体から無数の花びらが舞い落ち、風に乗る。
 正面から見据える澄んだ瞳にすべて見透かされている気がして、罪の意識に視線を逸らした。

「お前は、どうして今回の系外惑星探査に志願したんだ?」

 僕は、明日出立する宇宙探査艇ソラリスに、僕の恋心以外の全てを捨てて乗る。
 無事に帰って来られる保障などはどこにもない。
 ただ、君のいる未来へ旅立つためだけに船に乗る。

「ソラリスが戻ってくるのは、200年後なんだろう?どうして?みんな嫌がるのに。長期の航海は家族や友人その他の、お前に纏わる全てのものを無くしてしまう。お前は、それでもいいのか?」

 いいよ、200年後には君がいる。君さえいれば、それでいい。
 2本の細い腕(かいな)が伸びてきて僕の身体を抱きこんだ。コツンと肩に君の額が乗る。

「また会える、よな?」

 200年という年月を偶然ではないと確信した強い眼差しが、僕を見ている。
 心に満ちる歓喜を覚えると共に、自分の腕にすっぽりと納まってしまうほどに痩せてしまった自分と同じ元船乗りの身体に涙がこぼれた。

 その涙を柔かい唇が掬い、自分のそれに重なった。 

 この桜は200年後も花を咲かせるだろうか?
 そしたら、きっとこの樹の下でまた会える。


 
       アレルヤ、僕達に光を。



 探査艇が大気圏を飛び出した時、剥き出しの太陽の閃光が走り、艇内に歓声が上がった。
クルーたちは各々のカプセルに横になる。僕のカプセルののモニターには、あの桜の老木が映し出されている。
 催眠ガスによる睡魔が訪れはじめ、掌の花びらを握り締めた。
 もう、モニターのどこにも桜を見上げる君の姿はない。
 昨夜、二人の体温でぬくもった褥の中で君は「さよなら」を言わない別れを僕に告げた。

 僕は、宇宙(そら)から君を想う。
 目を閉じれば瞼の裏に地上の春が満ち、花吹雪の君がいる。

 桜 桜 桜 ・・・・


 桜の木の下深く
 君は眠る。


 - 終 -


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flower Ⅱ-SS-
 22:10 国道沿いの山道を自転車で走っている。
 この時期にしては暖かい夜気に、遅咲きの沈丁花の香が時折混ざり鼻腔をふくらませた。
 
 街灯の少なくなった坂道を立ちこぎに変え、息を切らして上り切ると、神社の鳥居の下の階段に長い脚を組み、しなやかな風情で座る姿を見つけた。Gパンとペパーミント色のTシャツ、それに濃いグリーンと紺のマドラスチェックのシャツを羽織った腰にセーターを巻いている。春に浮かれ躍る胸が、見慣れた制服ではなく私服姿で自分を待つ姿にざわつき出した。

 驚くか、呆れるか。ポーカーフェイスが崩れるところが見たくて、暗がりの中でそっと自転車を降りてそのまま音を立てないよう注意を払い近付いていく。

 忠桐(ただひさ)の顔は組んだ脚に突いた肘の上で、放心したように少し上に向けられていた。普段の確固たる自信に満ちた態度とは対照的で、あどけなささえ感じさせる。その無防備で頼りなげな表情に、思わず立ち止まった。

 参道に明かりを落す花見の雪洞の仄暗い光の中にあってもなお、色褪せることのない凜と張詰めた空気を醸すその姿に、彼が一般人とは隔たった伝統の世界に生きているのだと改めて思い至る。気を緩めている時でさえすっと伸されている少年の瑞々しさが色濃く残る背に、この先否応なく課せられるであろう荷の重さを思うと、切なくなった。

 空(くう)の一点を見つめていた瞳が流れて止る。「遅い。」 遅刻を責める流し目と、ぴしゃりと言い放つ声が飛んできた。忠桐は時間に厳しい。

「悪りィ、抜け出すのに手間取った」
「トモくんはドンクサイからな」
「呼び出しといて、言われようじゃん。何の用だよ?」
「ちゃんと家に帰ってすぐ勉強したのか?」
 さっきまでの浮かれた気持ちをフリースの下に隠して、つんけんどんに返したオレの言葉は、鋭い諸刃の刃(やいば)となって返ってきた。借りた参考書に、時間と場所だけ示したメモが挟まれてあるのに気付いたのが15分前。つまり、帰ってから一度も参考書を開いてなかった。

「夜桜見物しよう」
「今から? 崖っぷち受験生を夜更に呼び出した理由がそれかよ?」
「それは、受験勉強をやってる人間の言うセリフだ。受験勉強なら、これから9ヶ月間、手取り足取り僕が見てやるって言ってるだろう。GWと夏休みは合宿だから覚悟しとけよ。で、行くの? 行かないの?」

 手と足だけか?とツッコミを入れそうになったけれど、不機嫌な眼差しに喉仏の上で飲み込んだ。

「・・・行く」

 二人で階段を上がってゆく。
 両側から張出した桜の枝が、雪洞に照らされ薄紅のトンネルを作る。人影もなく風もない春の夜に、石段を踏みしめる2人の足音だけがした。
 上がりきると薄紅の雲が本殿を取り囲んでいた。忠桐(ただひさ)は一本の大きな樹の前で止まった。

「樹齢300年だってさ」
桜の太い灰色の幹には所々、緑の苔が生している。
「随分と爺さんなんだな」
 忠桐は応えず、頭上から垂れ篭める花雲を見上げている。
 口角のハッキリした唇を薄く開け、何かに憑かれたように見入る横顔に、心を奪われた。
 忠桐を虜にするするものの正体を求めて、自分も同じ様に頭上を仰ぐ。

 視界が桜で埋まる。自分達の他に愛でる者もないというのに、その存在を見せ付けるように咲き誇る花。
 忠桐を魅了するものを探して、目の前の5枚の花弁や花陰に目を凝らした。

 天の黒を背景に桜の薄紅が、ただ咲いている。音も無く、壮絶なまでに咲き競う小さな花弁の群集に、なぜか狂気のようなものを感じてゾッとした。
 もの言わぬ小さな花の一つ一つが、強烈な夢想を抱いて咲いている気がする。

    怖い

 思いは声になって零れたらしい。

「守ってやるから」
 少し掠れたゾクリと脳髄を刺激する声が、耳のすぐ後からして、しなやかな腕に抱き込まれた。息のかかる襟足がチリチリと痺れる。

「トモは僕が守ってやる」    何から?

 違う、本当はオレが守りたいのに。
 行き場を失った頼りなげな低く切ない呟きは空に留まったままで、未熟な自分たちの無力を知る。
 独りが心細くて、ゆっくり忠桐と向き合う。その肩を樹齢300年の太い幹に押し付けられた。
 自分を魅了した唇が角度を変えて重ねられ、そのまま、太い根の張る根元へと2人して崩れていく。

 薄く目を開ければ、自分に跨る形で座る忠桐の背後を桜の花が覆いつくしている。
 忠桐はまたあの表情をして桜を見上げ、睨んでいた。
 ああ、そうか   と思う。
 この桜は人の想いを喰らうのだ。だから、ひときわ絢爛に咲くのかもしれない。
 天蓋となった桜に忠桐を持っていかれそうな錯覚に捉われて、思わず忠桐に手を伸ばす。 
 上を見ていた忠桐がごつごつした桜の根を枕に寝転がるオレを見下ろして、薄く笑った。

「今夜は帰したくない。そう言ったら、トモはどうする?」
「オレが絶対帰らない、って言ったら忠桐は? どうすんのさ?」

 挑発的に笑う忠桐の唇が 欲情を零しながら桜の天蓋と共に落ちてきた。

    
                            ― Sakura Spiral


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