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紙魚

Author:紙魚
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Category: 深海魚 (全31話 )

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Comment: 9  Trackback: 0

深海魚 1
 「花隈さん、ご注文のシャトー オー・ブリオンと、ナパの白はリクエストのテイストのものを此方でチョイスしておいたけど、これでよかったかな?」

 レトロな古いビルを改造した趣のあるワインショップの大きなカウンターの上に、今しがた奥のセラーから運ばれたボトルが2本、ラベルを上にして並べられる。この店は、葉山にある自分が雇われ店長を勤めるバー、シーラカンスと同じオーナーの経営だ。今日はそのオーナーとの話し合いに私的な用事を絡めて、わざわざ東京に出向いてきた。

----君をプライベートのバーテンダー兼ギャルソンとして迎えたい。
 全く別なことを談判しに行った自分に、オーナーが提示してきたものは、何度も断ってきた申し出だった。俺がシーラカンスから離れられる筈はないのに。
オーナーとの遣り取りを思い出すと、ここ東京まで出向いたのに無駄足だったかと、重い疲れを感じた。いや、そんなことはない。
沈みがちな瞳をカウンターの上に落とし、僅かに目を細め眩しげに並べられたボトルを見た。

柔らかな店内の光の中で、深みのあるクリムゾンは更に芳醇さを増し、さわやかなグリーンのボトルは、きりりっと淡い下心を戒めてくれるようだ。

「ラッピングしましょうか?」深みのある店長の声に我に返った。
「いえ、このままで頂いていきます」
「なあんだ、明日のバレンタインに恋人と一緒に・・・じゃないの?」
「はは、残念ながら相手は幼馴染の男性で、
そんな気を使う間柄の人ではないんですよ。色気がなくてすみません」

 ラッピングなんてしたら、却っておかしいのだと思う。だから、敢えて剥き出しのまま、ラッピングしたい心は畳んでポケットにしまい、ワインだけを手渡す。

 『MAM竣工記念講演会
 アルミと光 ストラクチュアの可能性
 lecture/河村 圭太(建築家)』

 案内を確かめて真新しい美術館のホールに足を踏み入れた。
ほぼ満員の半円のすり鉢状の底辺に設えられた壇上にスラリとした長躯を認めて、暗いホールの末席の空シートに身体を預ける。ここからだと壇上の人物が良く見え演台に置かれたPCでパワーポイントを操る指さえ良く見えた。
建築の専門的な話はほとんど解らなかったが、久しぶりに目にするその長躯と柔かく張りのある心地よい声に捕らえられてその人物から目が離せずにいる。

 彼に最後に会ったのは、去年の夏だ。その時も久方振りで、シーラカンスに圭太はチラッと顔を見せただけですぐに帰ってしまった。
 その前に会ったのは、今から丁度1年前だ。
 その日の夕方、店には自分の兄の薫と圭太、それに圭太の恋人である時見 享一がいた。店には、他に客もおらずカウンターに座る3人の会話はいやでも耳に入ってくる。時見は兄の薫に圭太以外の人を想う恋心を暴かれて、狼狽え店から飛び出した。その後、2人の殴り合いの喧嘩が始まり、デカイ2人がこんな所で喧嘩をしたら店も無事では済まなくなると店から追い出した。

 俺は、あの時なんと思ったろうか?

 その夜、再び圭太が店に顔を出した
 ----シズカ、今晩泊めて

 俺は圭太と時見 享一の関係に深い亀裂が入ったことを感じ取った。

 俺は、なんと思ったのか・・・・。ウレシカッタ。
 俺は最低だ。

 目は段上に釘付けのまま、思考は過去に滑り込んでいく。無意識のうちに指で自分の柔かい顎鬚を弄っている。ふと壇上の人物に、似合わないから鬚は落とせと言われた事を思い出し苦笑が漏れた。

 その時、壇上の圭太と目が会った。おや、といった表情をする圭太にアイコンタクトで会釈をする。

 この気持ちは、いつまで経っても浮上できない。

シーラカンス---
暗い海底を彷徨い、決して日の光の届く明るい海面には浮上できないグロテスクな深海魚。
------それは、俺だ。

         次話→ 
 

一年前の出来事を知りたい方は↓↓↓
本編-----bar coelacanth
SS ------願い 圭太+静

■最後までお読みいただき、ありがとうございます。
バレンタイン企画???(笑)イベントに疎いアタクシ・・・自分で驚いています。
翠滴のサイドストーリー、享一にフラれた圭太と、
密かに圭太に思いを寄せる友人・花隈 薫の弟・静(せい)のお話です。
軽い気持ちで手をつけたので、成り行き次第のストーリーになりそう・・・(゚Д゚;llll)
こんなに早く、鬚面キャラを主人公に持ってくる日が来るとは思いませんでした(笑)
更新は、不定期(ヤッパリ・・)ということですので、気が向いたら覗いてみてください♪

          2009/2/14   紙魚


テーマ : BL小説    ジャンル : 小説・文学

Comments

秘密コメのKさま♪
こんばんは(*^-^*)
突発的に、スタート~!!
一応、短編の予定なので短めに切り上げる予定なんですけど、ズルズル引き摺ってしまいそうな予感が・・・
バレンタイン企画・・にしては、ウチのマイナーキャラがメインの地味なお話です(笑)
よろしかったら、付き合ってやって下さいマセ。

いつも、嬉しいコメントありがとうございます♪
萌え増量中?
忍ぶ恋って萌え度が増しますわね。しかも幼なじみって..(* ´Д`*)=3 アハァァン
お兄さんはあんな弾けた性格なのに、静さんはとことん控え目。あぁ、あんな兄さんだからか(笑)
この恋が成就する日は果たして来るのでしょうか。健気な子には是非とも幸せになって欲しい!河村氏って全く気付いてないのかなぁ..

それにしても『アルミと光 ストラクチュアの可能性』という河村氏の講演会のタイトルにときめいてる私って..やっぱりヘンタイ?
きゃ~~!
久々に訪れてみたら!!
気になってたんですよ~この子!!!
ずっとずっと、一途に想っているのが切なくて゜+.゜.(⊃Д`*)゜+.゜
幸せになって欲しいなぁ~勿論圭太と!
圭太もイイ男だもの~~クスン
続き楽しみにしております♪
シマシマ猫さま♪
 ひょえ~!!!コメレスが遅くなって、スミマセン~~~!m(_ _)m
先日ノートPCからデスクトップにチェンジしてからトラブル続きっす(泣)

前コメレスで、年齢高め、河村ストーリー読みたい人、いるかな~?なんて言っておきながら、強引にスタート~!!
静は全体的に性格がハッキリしたきつめのキャラが占める紙魚のサイトでは、
珍しく控えめ&健気タイプ(お兄さん、あんなだから・・・(笑)。
珍種の”忍”キャラ「静」、書ききれるかしらん?
河村にとって、今のところ静は薫の弟で自分にとっても弟みたいなもの・・・かなぁ?

>講演会のタイトルにときめいてる私って・・
 一見、萌えとは関係ないところにもドキドキってありますね♪
特に、お硬いヤツ(←??)私は、単純な人間なので、雲とかアスファルトに落ちた日陰とか、鉄工所の構造体なんかに心臓バクバク・・・。かなりヘンタイかも~(笑)

コメント、ありがとうございます(´∀`)
柚木季さま♪
いらっしゃいませ(^0^) 
鬚面(・・・・)、静クン登場で~す。
今まで、自分の幸せのためなら、スパ~ッと他人を切っちゃえるようなキャラが多かった中でこの方は、ちょっとタイプが違います。控えめで忍ぶ恋を胸に秘める一途な「静」を書ききれるか(汗)・・・紙魚的、実験小説(笑)かもです。

>幸せになって欲しいなぁ~勿論圭太と!
 ありがとうございます!!(嬉)
圭太も、振られたまんまでは、どうよ!
ということで、2人揃ってシアワセになってもらおう計画スタ~ト!!
一応、短編の予定なんですけど少し、すこし引っ張りそうな予感です。

>続き楽しみにしております♪
 そげなこと言ってもらうと、図に乗っちゃいそうです~~

コメント、ありがとうございます.._〆(゚▽゚*)
覗かせて頂きますよ~!!
うわわっ・・!!
二人に幸せになってもらおう計画なんですか・??
わ~い!!
この二人、お似合いですよね!
静かに胸の奥深くに忍ばせている恋が、どう燃え上がるのか…うふふっ…。
楽しみで~す!!
ミートン・メートン さま♪
こんばんは。
年始に突発的にSSを更新したものの、その先は全く考えてなかった組み合わせでした。
SSであったことすら、忘れていたアタクシ・・・
ということで、罪滅ぼし&バレンタイン企画(一話が2/14UPだから・・強引に♪)
やや、年齢高めなこのカプに、シアワセになってもらおう計画敢行~!!
フフフ・・でも、紙魚が書くからには、そう簡単にシアワセにはなれないんだわサ(黒笑)
どうして、私ってこうなのか・・・
あのときの、ななめ裏側から
……のお話なのね。
河村さんだって、あのときひどく傷ついたんですよね。
それにしてもすてきなタイトルだなあ……わたしはタイトルをつけるのが大嫌い(笑)
なーーーんにも思いつかないんです。
それで名前とか物品名とか、そんなありふれたものばかりです。
紙魚さんサブタイトルもつけてるもんね。
すごいと思う。
このちょっと自省的、やや自己嫌悪の情の強そうな(?)語り手が、河村さんとの恋愛にいたるまでを綴っていくんでしょうか。

「ラッピングしたい心は畳んでポケットにしまい、ワインだけを手渡す」
印象的な一文でした。

わたしもイベントにはさほど興味がわかず……
小器用にイベントにむけて短篇を……とかできません。
する気もないけど(笑)←たいがい可愛くない。
Re: あのときの、ななめ裏側から
 7月さま、ようこそです♪

> ……のお話なのね。
> 河村さんだって、あのときひどく傷ついたんですよね。
 ・(笑)そうです。ななめ裏側からの…ですv
 本心を吐露され別れを告げられた夜、河村も享一を押さえつける心の刃で自分のことも切りつけていたのだと思うのです。

> それにしてもすてきなタイトルだなあ……わたしはタイトル をつけるのが大嫌い(笑)
> なーーーんにも思いつかないんです。
 ・や、もう苦手で……サイコロ振って決める…に近い決め方している時もあります。
 サブタイトルも、始めてからめっちゃ後悔。正直もうやりたくないです(笑)

> このちょっと自省的、やや自己嫌悪の情の強そうな(?)語り手が、河村さんとの恋愛にいたるまでを綴っていくんでしょうか。
 ・はい、その通りです。
 拙宅では一番BL!ッて言う感じの話ではないかと思うのです(私的に・・・ですけど

> 「ラッピングしたい心は畳んでポケットにしまい、ワインだけを手渡す」
> 印象的な一文でした。
 ・乙女っぽいキャラを描いてみよう!・・・・まさに自分的、実験小説でした(笑)

> わたしもイベントにはさほど興味がわかず……
 ・イベントには、どうにも乗り切れないんです。
 骨の髄までおばちゃんだからでしょうか?や、ロマンチストなおばちゃんは私の回りに結構いますので、性格の問題ですね(笑)
 何かに向けて一本描く。私にとっては、至難の業です。

 連コメ、ありがとうございます。

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