10 ,2008
翠滴 1-1 藍の海1
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翠滴 1-1 藍の海1
太陽が大きく西に傾いていた。濃いオレンジ色の光の中、刈入れ前の稲穂の黄金の海を一直線に白い魚が泳いでいる。
山々に囲まれた田園は、斜陽にその影を濃く落とし夜の海原へと姿を変えつつある。
不意に魚の動きが止まった。
身体を前に屈して、時見享一は上がりきった息を整えた。
遠くで鳴くひぐらしの鳴声が夏の終りを告げている。
昼間の熱気を忘れた夕方の風が吹いて、白い生絹の襦袢の裾を割り袖をひらひらと弄ぶ。乱雑に切りそろえられた髪の毛も同じように風に煽られて 頬や鼻先を擽った。
黄金の風に煽られすらりと佇むその姿は、まるで風を纏った天女のようだ。
享一は、恐る恐る自分のきた方向を振り返った。
誰も追いかけて来る気配がないことに安堵し、同時に微かな寂寥感のようなものを感じている。
目線の先、遥か山陰に昔の豪商の屋敷が佇む。
白く長い塀が此所から真一文字に見える。
その後ろに美しく配列された豪奢な屋敷や蔵は、時の流れなど嘲笑うかのようにその長い歴史と共に静かに息づいていた。古美術としての価値も高いその建物の先達の匠と美は、その屋敷の主と共に享一の心を魅了して止まなかった。
主が不在の屋敷では、十代という年齢に非ず、双子の姉妹が今夜の祝言の仕度に忙しく動き回っているだろう。
ふと、2人の浮世離れした美貌を浮かべ、申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
自分がいなくなった事に、もう気がついただろうか?
逃げ出した事を知ったら何と思うだろう。
美しい顔を激怒に歪めて 辛辣な呪詛の言葉を吐くだろうか。
でも、それは仕方が無い。
藍の海 2に進む
翠滴 1-1 藍の海1
太陽が大きく西に傾いていた。濃いオレンジ色の光の中、刈入れ前の稲穂の黄金の海を一直線に白い魚が泳いでいる。
山々に囲まれた田園は、斜陽にその影を濃く落とし夜の海原へと姿を変えつつある。
不意に魚の動きが止まった。
身体を前に屈して、時見享一は上がりきった息を整えた。
遠くで鳴くひぐらしの鳴声が夏の終りを告げている。
昼間の熱気を忘れた夕方の風が吹いて、白い生絹の襦袢の裾を割り袖をひらひらと弄ぶ。乱雑に切りそろえられた髪の毛も同じように風に煽られて 頬や鼻先を擽った。
黄金の風に煽られすらりと佇むその姿は、まるで風を纏った天女のようだ。
享一は、恐る恐る自分のきた方向を振り返った。
誰も追いかけて来る気配がないことに安堵し、同時に微かな寂寥感のようなものを感じている。
目線の先、遥か山陰に昔の豪商の屋敷が佇む。
白く長い塀が此所から真一文字に見える。
その後ろに美しく配列された豪奢な屋敷や蔵は、時の流れなど嘲笑うかのようにその長い歴史と共に静かに息づいていた。古美術としての価値も高いその建物の先達の匠と美は、その屋敷の主と共に享一の心を魅了して止まなかった。
主が不在の屋敷では、十代という年齢に非ず、双子の姉妹が今夜の祝言の仕度に忙しく動き回っているだろう。
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逃げ出した事を知ったら何と思うだろう。
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■最後までお読みくださりありがとうございます。
拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当に、いつもありがとうございます。
ほんの拙文しか書けない私ですがですが、書いていく励みになります。。
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文体にひかれて読みはじめました。
雰囲気がありますね、とても。