BL・MLに関心の無い方 18歳以下の方はご遠慮くださいませ。大人の方の自己責任においてのみの閲覧を お願いします。


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紙魚

Author:紙魚
近畿に生息中。
拙い文章ですが、お読み頂けましたら嬉しいです。


紙魚は著作権の放棄をしておりません。当サイトの文章及びイラストの無断転写はご遠慮ください。
Copyright (C) 2008 Shimi All rights reserved

*お知らせ*
長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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― 目次 ―
■こちらは、女性に向けた創作BL小説のブログです。
 性的表現を含んだ内容が多々ございます。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。



    翠滴       →  目次を見る  
            
僕と祝言を挙げていただきたい。偽りの計画は、享一の中に周(あまね)への揺るぎない恋慕の思いを芽生えさせる。理想の将来像ともてあますほどの恋心の狭間で 享一は揺れ苦悩する。 
      

  『翠滴』 サイドストーリー  → 目次を見る 



  鳴海 <<全7話>> 2008/10/29 完結
周のお目付役として常に周に添い従う鳴海。
わずかな自由と引き換えに鳴海の出した条件とは。
 
 
  真夏の残像 <<全3話>> 完結   ■20000HIT記念リクエストⅠ
夏の数日を庄谷で過ごす周と享一。東京へ戻る前日、周が夏祭りへと享一を誘った。 

  ファミリー・バランス <<全2話>> 完結
和輝を預かることになった周と享一。”良いパパ”になることに必死の享一に冷ややかな視線を送る周。軽いコメディタッチの日々の一コマ。 

  In the blue.On the island. <<全6話>> 完結   ■50000HIT記念リクエスト
 周と同棲を始めた享一。すれ違う生活に機嫌が悪化する周の笑顔が見たくて、享一はアイスクリームを買った。 

  眠りの海で青い魚は恋をする  <<全7話>> 完結  ■「卯月屋文庫」紙森けい様による二次小説  
 瀬尾と離れて暮らすことになった和輝。瀬尾と血縁のないことを知り、父への思いはいつしか形を変えていった。瀬尾への募る想いを抱えてバンクーバーに会いに行く和輝。享一そっくりの青年へと成長した和輝を前に瀬尾は…


 

  深海魚  <<バレンタイン企画 / 全31話>> 2009/4/23  完結  
兄の親友でもある幼馴染に恋をしたバーテンダー静。近すぎるがゆえに、一歩が踏み出せない2人。バーのオーナー伊原は、静の河村への想いを知りながら「その純情を僕によこせ」と静に迫る。『翠滴 2』の河村 圭太が、享一と別れた後のストーリー。 
   『深海魚』目次を見る  

  ラヴァーズ  <<全7話>> 完結  ■20000HIT記念リクエストⅡ 兄に黙って兄の親友、河村 圭太と付き合い始めた静。圭太の愛を知ってしまった自分はもう深海へは戻れない・・・『深海魚』のその後の二人 
  『ラヴァーズ』目次を見る 



  ユニバース  <<SF / 全80話>> 2012/4/11  完結
その男はウイルスか、ワクチンか。
義父であり愛人でもある迅の命令により、失踪した同僚の消息を探すため、美貌の製薬会社の社主ルドガーのもとに潜り込んだスパイのノア。特殊な能力を持つノアが盗むのは、人の頭の中にある情報だった。 言動が幼稚でノアに煩くつき纏ってくるルドガーをノアは敬遠していたが、ある事件をきっかけにふたりの距離は一気に縮まる。ルドガーへのダイブのチャンスを掴んだノア。だがノアがそこで見たものは。
愛か世界か。ローズ・フィーバー(薔薇熱)の蔓延する世界でそれぞれの思惑が複雑に絡まる。
 

   『ユニバース』目次を見る 

 

  筐ヶ淵に佇む鬼は  <<ホラーテイスト / 全16話>> 2012/8/6  完結
30年も前に故郷の筐ヶ淵で心中した筈の男。
見つかったのは千切られた男の左腕だけ。その男ががわたしの前に現れた。故郷の神社にまつわる古い伝承と、謎が残る男同士の心中。封印したはずの過去が男の出現で別の顔を見せながら蘇る。
 

   『筐ヶ淵に佇む鬼は』目次を見る 


  蜘蛛王のコイビト  <<人外 コメディ色強し / 連載中
蜘蛛の王になるために人間(ジキ)を食らう。
王の座に最も近い皇子と噂されてきた晟が目をつけたのは、大学で力学を教える助教の手島だった。
生活スキル皆無、完全理工系頭の冴えない男・手島と、王位継承権放棄中の主婦業完璧皇子のお話。
 
 
君は僕のエサ    1 /////// 8 // 10
僕は君の王子さま  11 / 12 / 13 / 14 / 15 / 16 / 17 / 18 / 19



  広くて長い  << 大学時代の友人 / 全16話 >> 2016/2/20完結
奨学金返済のため、夜と休日は風俗で働く会社員の束原 裕紀(つかはら ひろき)。
客の河内に襲われたところを助けてくれたのは、大学時代を一緒に過ごした留学生の汪 紅雷(ワン ホンレイ)だった。駄目だと思いつつ紅雷に惹かれてゆく裕紀。一方、4年ぶりに現れた紅雷にはある目的があった。
 
 
目次    1 ///////// 10 / 11 / 12 / 13 / 14 / 15 / 16 / あとがき





□短編・SS・企画参加作品・バトン□目次をみる

煩悩スクランブル  (教え子×元塾講師 / 全4話)
ラッシュアワー  (上司×部下 / 全6話)
桜の木の下  (SF・企画参加作品 ・テーマ桜/ SS)
花喰い  (同級生・企画参加作品 ・テーマ月/ 上下2編)
レジ男  (リーマン×リーマン・コミカル/ 全6話)
首輪  (議員×大学院生 企画参加作品 ・テーマ:エロス/ 上・中・下3編)
「なべて世はこともなし」  (「卯月屋文庫」の紙森さまとのリレー作品 リーマン×リーマン コミカル 
                テーマ:幼馴染CPの一週間/ 全6編)




■バトン 
キャラ対話バトン
愛してるんだけどバトン


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Category: 広くて長い

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「広くて長い」 あとがき

みなさま、こんにちは
「広くて長い」 いかがでしたでしょうか。

蜘蛛王でのグダグダぶりを強く反省し、今回は珍しくラスト前までを書き上げて
更新日を宣言してのスタートでした。
ここまで自らを追い込まなければいけない自分ってどんなけダメダメなんだ?と思いつつ
本文は出来てるし、推敲をかけながら更新し→合間にラストまで仕上げてさ→あまった時間で蜘蛛王も書き進めてね~~♪ などと、超予測の甘いプランを想定しいてました。

まさか、家人Aにガンがわかり家庭療養に入るとは(=_=;) 人生は何が起こるかわかりませんですね。そして家人Bのインフルもしっかり頂戴し…
更新日を死守するので精一杯で、想像していた余裕は木っ端微塵の吹き飛び、7話からはコメント欄も閉じさせていただくことに。前振りもなく、いきなり閉じてすみませんでした。
(家人Aは幸いガンの転移も見つからず、先日、日常生活に復帰いたしました

「広く長い」は、半分休眠中だったわたしに 「気の張らない軽いお話を書いてはどうでしょう?」 声を掛けてくださったKKさまのお言葉で生まれたお話です。
KKさま、何かと不義理のままで申し訳ありません。本当にありがとうございました。

久しぶりの更新で、たくさんの方にお越しいただき、「広くて長い」 以外の小説まで読んでいただけたことは、本当に大きな収穫でした。御礼申し上げます。
村ポチのみならず、このひと月で 拙宅の小説たちに900を超える拍手を頂戴し、
感激すると共に感謝の気持ちで一杯です。
余談ですが、過去作では今回もラッシュアワーがダントツで12拍手。
二番目は、翠滴の第2話 「藍の海2」で9拍手です。こちらに関しては、3話で通常拍手数に戻りますので、ちょっぴりイントロ詐欺を働いてしまった気分になります(笑)
あとマイナーなSFの 「ユニバース」 やホラーの 「筐ケ淵に佇む鬼は」 にも拍手を頂きうれしい限りです。

今後としましては、取り敢えずは蜘蛛王の完結を目指します。
予測が外れ、まだまったくの未着手でこれから書き作業に入るのですが、書き上げてからの再スタートにしたいと思いますので、今しばらく潜らせてくださいませ。

このあとがきのコメント欄は開けておきます。
ご感想、ご意見等ございましたらそちらに書き込み下さい。

最後になりましたが、「広くて長い」 をお読み下さり、本当にありがとうございました。
奨学金返済を抱える束原裕紀と、大学時代の友人であり中国人の汪紅雷。
お話はパッピーエンドでしたが、実は紅雷には裕紀にとってあまりハッピーでない設定がくっついています。
機会があれば、本編の未消化な部分の改善を含めて、いつかスピンオフという形でリベンジできればと思います。

それではみなさま、
春まではもう少しだけ、まだ寒い日は続きますがお風邪など召されませんよう。

最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
またお会いしましょうね。

紙魚  2016.2.21


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広くて長い 16 (最終話)
<16>

 手のひら半分ほどリーチの長い腕と牡鹿のようにすらりと長い脚が、腕や足に重なり縺れ、解けてまた絡まり合う。そうやって、唇も指も肌も紅雷にゆるゆると結びつけられていく。
 全身を湿らせていたシャワーの滴りも薄っすらと躯を覆う汗に変わり、触れる部分をより密着させてふたりの肌を繋いだ。
「裕紀、こっち向けよ。顔を見せて」
「嫌だ」
 身についたルーティンも経験もまったく役には立たない。
 気持ちが良いのに恥ずかしくて、嬉しいのに戸惑っている。ただ肌を合わせるだけの行為に、これほどの幸福感を感じたことはない。
「なあ、見せてくれよ」
「嫌だって」
 客に、エロい悩ましいと評判の顔を、紅雷に見せるのは気が進まない。頑なに顔を逸らして正面から見られないように逃げまわっていると、ふうんと一計を企てる声がして、全ての結び目が解かれた。
 はっと顔を上げると、腿の上に跨った紅雷が膝立ちになって、高みから見おろしている。隠すものもなく、顔どころか性器まで露出しの上半身が瞬時に朱に染まった。
「ば……かやろ!」
「まったく…この前、オレの前で気前よく素っ裸になったヒトと同一人物とはとても思えないね」
 自分だって全裸の紅雷が、腰に手を当てニヤリと笑う。その綺麗に張った胸筋から下肢に続く腹は軽く割れていて、さり気に嫉妬を誘う。
 その腰の背面に見覚えのある拳大の刺青を見つけたのはバスルームでだった。

「この刺青は……」
 牡丹に蝙蝠。似たような構図の刺青を前にも見たことがある。曼珠沙華に龍。幸田の刺青だ
「オレの家は、男が生まれると紋が与えられるんだ。大概は縁起がいいとされるものから選ばれて、それが変わることは一生ない。十二歳になったら、一族への忠誠の証として躯に彫り物を入れ、成人したらそこに華を彫り足すんだ」
「そうだったのか。蝙蝠が紅雷の紋だとは知らなかった。気味悪いとか言ったりなんかして、悪かったな」
 素直に謝ると、紅雷は頭を掻いて息を吐いた。
「まあいいよ。俺が決めたんじゃないし、蝙蝠って確かに気持ちのいい生き物ってわけでもないからな」 
 子供の頃、友達と夕刻にひらひら飛ぶ蝙蝠に小石をぶつけて遊んだ。反省してあの時の蝙蝠にも心の中で謝った。
「でもこれからはさ…」
「そうだな、これからは大事に可愛るよ」
 そう言って笑ってやると、じゃあ今夜からと紅雷がいやらしさ全開で微笑んだ。
 
 紅雷が羞恥に身を捩る裕紀を囲むようにベッドに手を突いた。ボスッという重い音とともに、振動が伝わり驚いて顔を向けた裕紀の唇を素早く捕える。
「ぅん……ん…っ」
 裕紀の脇から背中を掬い、仰け反った顎に歯を立てる。
「ほん、れ……ちょっ、やめ」
 兆した裕紀の雄穂に自分を擦り付け、腕の中で一息に体温を上げた躯を攻め落としてゆく。鎖骨、肩の付け根、腋、臍…と手指で封じ舌と唇で愛撫する。
 ふつり、ふつりと、紅雷の唇が植えつける官能の種が、皮膚の内側で次々芽吹いて、細胞のひとつひとつが細やかに慄えた。
「裕紀…好きだ。すごく可愛い。もっと、もっとオレを感じてる顔して見せて」
 鼓膜が甘く溶け落ちた刹那、息を呑んだ。
「紅雷っ」 叫んだ口を、紅雷の口が塞ぐ。
 まだ固い窄まりを紅雷の指が撫で、凶器みたいな甘い声で確認してくる。
「くれるんだよな? オレに」
 微かに頷いた裕紀の口角に触れる唇が、戦慄く下唇を吸い上げる。濡れた音を立てて唇から離れた紅雷がもう一度、上半身を起こし躯をずらし裕紀の上体も起こさせる。
「ちゃんと見てろよ」
 自分の躯に散らばった花弁に、潤んだ目元を紅潮させた裕紀の顎を指先で囚え、紅雷が顔を上げさせる。そして、自分を喰い尽くしてしまいような欲望の色を切れ長の目に湛えた男に命ぜられるままに脚を開いた。
 裕紀と目を合わせながら紅雷が半身を沈めてゆく。
 エレクトの先端に滑らかな舌の滑りを感じて、全神経が腰に集まった。痛いほどに芯を持った雄穂が紅雷の口に呑み込まれてゆく。
「紅雷……もう」
 たまらず仰け反った上半身を、裕紀は後方に突いた腕で支えた。
「もう、なに?」
 意地の悪い質問をした紅雷が浮いた腰の下に指を潜らせ、未開の場所を探り始める。滑りがいいのは、ローションを指に塗っているからだろう。窄まりの中心を指の先に割られて息を詰めた。
 客に拝み倒されても、与えるどころか触れることも許してこなかった場所。 
「痛くない?」
 雄穂から口から放し、下で根本から舐め上げた紅雷が訊いてきた。人はどれだけ社会的なちいがあろうと、人格者だと言われようと、服を剥いで肌を合わさえれば性格が剥き出しになる。
「……くない」
 お前がこんなにスケベでイヤラシイ男だとは気が付かなかったぞ。
「せめて、セクシーって言ってくれよ」
 眉を上げた紅雷は、本当にセクシーに微笑むと、一気に根本まで指を進めた。
 自分でも赤面するような喘ぎ声を撒き散らして、裕紀の背中がベッドに沈む。
 その窮屈さから指が増やされているのがわかる。ゆっくりひだを広げられる感覚に、躯が速やかに馴染もうとするのは、自分もまた紅雷が欲しいと思っているからだ。
「あ……」 全身を強烈な快感が走り抜けた。
「いまいいとこに、当たった?」
 異物感ばかりでなく、官能と快感が同時に埋まる場所。そのイントネーションから、紅雷が故意にその場所を避けていたことを確信した。
 なんとかもう一度と、隠微に紅雷の指を追いかける裕紀を、笑いを含んだ声があやす。
「裕紀には”オレ”で感じて欲しいから、もう少し我慢な」
 こいつ……。呼び水を撒いて放置する気か。お前がその気なら
「紅雷……」
 声の端々に蜜をまぶして、流し目をくれてやる。男を瞬殺する奥義。
 レスポンス(後悔)は直後にやってきた。
「ああ……っ、ホンレ…・やめ。頭がおかしくなるっ」
「なったら、あとは俺が全部、面倒見るからなればいいっ」
 紅雷の怒張に突き上げられ、白濁に塗れた性器を扱き上げられ、何度も頂点に達した。激しすぎる快感に頭を振りたて、溺れる者のように紅雷にしがみつく。
 後孔に紅雷を埋め込まれたまま、舌が抜けそうなくらい吸い上げられて吐精しながら力尽きる。ずるりと紅雷の背中から腕が離れ、シーツに落ちた背中を紅雷の長い腕が抱き寄せる。そして声を上げさせるほど強く抱きしめると、紅雷も裕紀の最奥にその精を放った。


「怒ってる?」
「怒ってない」
 しおらしく聞いてくれる男は寸部の隙間なく、背中に張り付いている。
 怒っているかと聞く割に反省はしてないなと思うのは、今も背中に当たる未だ固くてデカイ楔のせいだ。
「怒ってないけど、もうちょっと手加減しようとかないのかよ。俺は初心者なんだぞ」。
「あんな男殺しの目で挑発する裕紀が悪い」
「紅雷が変な罠を仕掛けてくるからだろ」
 前と後ろ。ぴったりくっついたまま、お前がお前がと剣呑に罵り合う。
 そのうち胴に巻き付いた紅雷の腕がギュッと抱きしめてきた。裕紀の首の後や肩甲骨にキスしながら、喉の奥で笑い出す。
「こんな風にベッドの中で、裕紀と痴話喧嘩出来る日が来るなんて。夢みたいだ」
 それを聞いた裕紀も、ふわりと眉間を解く。長い腕に誘われるまま、背後の男と向き合い笑い合う。

 再会の日の、成功した友に嫉妬し、斜に構え拗ねた目で世界を見ていた卑屈な自分は消えていた。いま優しい目で自分を凝視る男は、友であり恋人でもある。
 指で流す短めの髪が、薄く髭の浮いた精悍な頬が愛おしい。
「紅雷…俺のこと、あきらめないでくれてありがとうな」
 
 広くて長い河は無くなってはいない。ただ対岸にいた紅雷はいまは同じ岸辺に立ち、流れのその先に向かって一緒に歩いている。
 
 ********

 かくして、当座に必要な金は、裕紀が紅雷の部屋に同棲することを条件に、東夷の経営する幸田不動産が貸してくれることになった。
 自分が出すと言い張った紅雷の申し出を断った裕紀に、幸田が提案してきた。同棲が条件になったのは、裕紀が借金を踏み倒して逃げないように見張るという意味もあるのだろう。
 幸田不動産の金庫番の男に借りていたゲイビを返した。
「こんなもんまだ持ってたのか? クラブは廃業だし、もらっとけよ」
「いや、必要ないから」 
 即座に紅雷が突き返すと、佐野は 「あっそ」 と意味深に笑ってゲイビを引っ込めた。
「しかし、マジで一千万貸すことになろうとはねえ」  佐野は、紅雷と裕紀を交互に見て肩を竦めた。
 奨学金は、いまも自分で返している。

 紅雷と一緒に住むということは、自動的にもう二人付いて来ることになる。
「誰が、渋谷になんか引っ越すか!」
「なあ怒るなよ。渋谷いいじゃねえの。なんなら世田谷でもいいぞ。晴人、引っ越して入籍しようぜ」
「するならお前一人でやれ!」
「ひとりで入籍なんざ出来るわきゃねえだろ。このわからず嫁!」
「誰が、嫁だっ。ああっ? まったくお前って奴はっ」
 駐車場で引越し荷物を下ろしているところに、東夷と晴人がやってきた。
 紅雷の部屋に出入りするうち、キレる晴人・宥める東夷の図は見慣れた光景になった。
「またケンカかよ。もういい加減、長いんだしさ、晴人も中年の横暴にも慣れろよ」
 晴人が肩から掛けた白い革製のケースを、アルファ・ロメオに積み込んで振り向いた。ケースの中には時価2億円というチェロの名器が収まっている。
「中年って言うな。こいつと俺は同じ年だ!」
「おうよ、俺と晴人は同級生だからな」
 ガバっと肩を組んだ東夷の腕を払いのけ、ぶりぶり怒りながら自分のポルシェにチェロを積む。
「ったく、あの妙ちきりんな玉(ぎょく)を受け取っちまったせいで、簡単に別れることも出来やしねえ」
「ぎょく?」
 裕紀は徐ろに自分が抱えている荷物を見おろした。
 食品衛生管理者のテキストの入った紙袋の上に、紅雷に貰った例の中国土産の箱が乗っている。中に透かし彫りに金の蝙蝠の象嵌が施された、あの翡翠の玉が入っている。
 3人の視線が箱に集中した。
「……お前、そいつを正式に受け取ったのか」
「別に正式にとかじゃなく、普通に出張の土産で貰いましたけど。なあ、紅雷?」
 紅雷は明後日の方向をむいている。それで幸田に視線を移すと、視線をかわされた。
「あー、俺は行くかな。あとはお前らでよく話し合え」 
「俺もちよっくら、幸田不動産に顔出してくっかなー。途中まで乗せてってくれよ」
「お前は自分の車でいけ!」

 ふたりが去った駐車場で問い詰めた。
「なあ、この玉には紅雷の紋の蝙蝠が象嵌してあったよな。なにか特別な意味があるんじゃないのか」
 季節は5月。隣の公園にも、レジデンスの庭にも宝石みたいに煌く緑が溢れ、そそくさと軽トラの荷下ろし作業に戻った紅雷の白いシャツの背中にも淡い緑の陰影を作った。
不意に、その背中の肩甲骨や背筋の滑らかな隆起や、締まった皮膚の感触が蘇り、手のひらがじんと熱を帯びた。
「紅雷、隠し事をするなら、この同居は無しだ」
 淡緑に染まる背中がぴくりと固まり、コマ送りみたいなぎこちなさで紅雷が振り返った。
「その玉は、婚姻時に相手に贈る宝玉なんだ」
硬直し、理解の進度に合わせて変化してゆく裕紀を、紅雷は見守った。
「一旦、受け取ったら、自動的にウチの一族の中に組み込まれるっていうね。まあ、単に形式的なものだから」
 単に形式だけのことなら、晴人があんな風にぼやくはずがない。はっきりと聞いたわけではないが、紅雷の家は中国ではかなり古い歴史を持つ一族で、独特のしきたりや風習が今も生きているのだという。
 何かとんでもなく厄介な物を、しかもどさくさに受け取らされてしまったらしい。
 テキストの上に乗った箱を凝視する裕紀に、先手を打って紅雷が言う。
「返却は不可だから」 
「そんな説明、一切無かったよな。こんなのは闇討ちと同じだ。最初から俺を取り込むつもりだったのか?」
 闇討ちと口の中で繰り返した紅雷が、クイと口角を上げる。余裕の足取りで、両手が塞がっている裕紀に近づいて行き、その頬を捕えた。
 柔らかな薫風が、ふたりの間にできた狭い隙間を吹き抜ける。
「否定はしないな。俺は裕紀を強奪するために日本に戻って来たんだから」
 そして先手必勝とばかりに、反論の言葉を探す唇を接吻けで塞いだ。

(おわり)



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18

Category: 広くて長い

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広くて長い 15
<15>

「東夷のクラブはなくなるよ」
「……そうか」
 例え、アルデバランが存続しても、もう自分は雇ってはもらえないし、紅雷の身内が経営するクラブだと知った今、もう寄り付くこともないが。 

 まさかアルデバランが、あの幸田のクラブだったとは。道理で、幸田と紅雷の雰囲気が似て……とそこまで考えた瞬間、裕紀は昆布茶の碗を手に持ったまま立ち上がっていた。
「なにいきなり立ってんだよ、トイレ?」
「いや」
 見上げてくる紅雷の眼差しに責められている気がするのは、自分の中に覚えがあるからだ。欠損していた事実。なぜこんなことを忘れていたのか。
「じゃあ、座れよ。まだ話は終わってないから」
「俺は……」 なんてことをしてしまったのか。仕事とはいえ幸田と、紅雷の伯父と自分は寝てしまった。
 風俗やって、伯父と寝て、涙ながらに甥の紅雷に好きだと激白した。目に余るろくでなし具合に、意識を失いそうになって片手で顔を覆う。俺は、最低だ。

 紅雷は、考えこむように祈るように合わせた手の中の碗を凝視ている。
 眉尻に向かって真直ぐ伸びた意志の強そうな眉や、鼻梁の通った鼻、物思いに耽る横顔に眼が吸い寄せられた。そのくっきりと陰影を彫り込んだ唇が触れる瞬間の、ヘッドライトの光の川や、唇に当たる柔らかな感触が不意に蘇る。
 紅雷がキスをして、自分がゲイだと言った。
 あれは、現実に起こったことだろうかと思う。ほんの数十分まえの出来事のはずなのに、現実味がない。
 手の中の昆布茶はどんどん冷め、もう手のひらとほとんど変わらない温度になった。
 お互いが口を閉ざし、濃密な静寂にいい加減、押し潰されそうになった時、紅雷が長い沈黙を破った。
「オレはさ、裕紀が風俗をやってるって知った時、本当はもう駄目だって思った」
 紅雷の静かな告白は雷鎚となって、裕紀をざっくりと抉った。胸に走る鋭い痛みに息が止まり目を閉じた。
「過去にどれだけ好きだったとしても、不特定の男に躯を売って金をもらう人間は愛せないって。でも、間違ってた」
 はっと顔を上げた裕紀に、紅雷は自分の碗をテーブルに置いて向き直った。
「俺はさ、4年前に一度、裕紀から逃げたんだ」
 紅雷は裕紀の碗も取り上げて自分の碗の隣に置き、裕紀を正面に囚えた。
「さっきオレのことを何もわかっていないって、裕紀は言ったよな。お前こそ何もわかってないよ」
 あの頃、オレがどれだけ裕紀のことを好きだったか。
 紅雷が投げて寄越す直球の言葉と視線に、呼吸も鼓動も丸呑みにされた。
「18歳男子の単純さていうの。初めてバイト先で裕紀を見かけた時、マジ運命の人を見つけたって、オレは本気で思ったんだ」
 そう言った紅雷は、少し照れたように笑った。
「だから裕紀と生活費を浮かせるためと称して、同居を始めた当初は有頂天なばっかで、それがどんな結果を招くかなんて全然、気が付かなかった。素っ裸で目の前を歩かれたり、肩で無防備な寝顔を見せられたり。自分の欲望が欲しいと大合唱する相手にそんな姿を見せられながら、手どころか指一本出せない男の惨めさ、お前にわかる?」
 はじめて聞かされる過去の話に、目を瞬かせるしか無い。
 逡巡の末、裕紀は小声ですまんと謝った。
 静かな夜、大きなソファに座った2人の時間は、過去を流れてゆく。
「好きで好きで欲しくて堪んないのに、オレの前に横たわる友情という障害のせいで、オレの手なんか届きやしないんだ」
 紅雷が好きだという度、羨ましくて過去の自分に嫉妬した。
「亜美ちゃんの出現で、もうダメだってわかっても、裕紀の生活費のことを考えると出ていけなかった。好きだという気持ちが嫉妬に、憎悪に変わり始めて、無理矢理にでもって衝動に何度負けそうになったか。犯罪紛いのことをやらかしそうな自分を持て余すようになったオレは、中国に帰ったんじゃなくて裕紀から逃げたんだ」
 衝撃だった。
 紅雷の告白は、甘ったるい恋の告白などではなく、深い懊悩に喘ぐ苦しい恋情の吐露だった。卒業式を待たずに帰国した紅雷は、最後の二ヶ月分の家賃と光熱費を裕紀の分まで払い込んで帰っていった。

「あの頃、裕紀はオレの気持ちなんか、毛の先ほども気付かなかったろう?」
 猛々しさをその虹彩の中にちらつかせながら、紅雷はじりと上半身を乗り出してくる。それに圧されるように、裕紀の背中もソファの上で傾斜する。 
「オレは中国に帰ってからも、ずっと裕紀のことを考えてたよ。友情という長くて広い、邪魔な河を飛び越えるにはどうしたらいいのかって、そればかり考えてた。考えすぎてこじらせて、また日本に戻ってきてしまった」
 いや違うなと、続ける紅雷の右手が裕紀の顎を捕える。もう背後に空きはない。背中の半分以上がソファの座面に沈んでいた。
「風俗の仕事なんか、赦せるはずがない」
「紅雷…」
 とうとう頭が座面に落ちた。
 脇に膝をついた紅雷がソファに寝転ぶ形になった裕紀を見おろした。
「裕紀の前で笑顔を作りながらながら、腹の中は煮えくり返ってたよ。でも完全に拒否されるのだけは避けたいから、理解あるフリをしてた。仕事だから、愛情はないからと自分を宥めても、爪の先ほども納得なんて出来わけない。本心は縛り付けてでもやめさせたかった。自分の無力さに腹が立って心が荒んで。4年前より状況はなお酷い。じゃあ自分は何のために日本に戻ってきたのかって。考えて考えて、やっとわかったんだ」

 背もたれに手を置き覆いかぶさった紅雷の、瞳孔の奥まで澄み切った強い眼差しにぞくりと血潮がさざめいた。潜めるように息をする裕紀の唇を捲るように親指で強く嬲って、紅雷が自分の唇を近づける。
「オレは、裕紀を強奪するために戻ってきたんだ」
 これまで交わしたどんなキスとも、次元が違っていた。
 少し前の啄むようなキスですら目眩を覚えたというのに、そんな真新しい記憶すら早々に塗り替え、より深い場所まで連れ去ろうとする。
 濡れた音を残して唇が離れた。
「オレは今も裕紀が好きだ。裕紀が何をやっていようが、誰と付き合っていたかも赦してしまう程に。だから、自分の心をよく探ってから答えてくれ。イエスと言えば二度と…」
 離さないと、頬を目の縁を紅雷の指が滑る。
「好きだ、紅雷。お前が好きだ。けど俺は……」
 紅雷の口の中に飲み込まれた。
 風俗の仕事を、初めて痛烈に後悔した。自分は女ではないし、会社や知人、家族にさえバレなければ、なんの痛手も後腐れもないと思っていた。大切に想ってくれる誰かのために自分を守るなどという発想は無かった。
 細めた目にも、微笑む形に綻ぶ口許にも蜜のような甘さが滲みだす。
「紅雷……ぅん」
 おずおずと緩いシャツの狭間に入り込んだ紅雷の手指を阻むと、接吻けが深くなった。紅雷の舌が器用に上唇を持ち上げ、するりと忍び込んでくる。舌を柔らかく絡め、力の抜けたところを吸われただけで視界に霞がかかり、頭の芯がぼうっとしてくる。
 仕事で培った豊富なはずの経験は、一体どこに行ったのか。
「裕紀は凄く甘い」
 唇に直に伝わる囁きに、唇のみならず全身が発火する。甘いと呟く紅雷に、甘いのは紅雷のほうだと告げると、下肢に熱い塊を押し付けられ焦った。
 紅雷の侵入を阻んでいた手はいつの間にか、逆に紅雷に絡め取られてしまっていて、空いた手が借りた大きめのシャツの下に潜り込んでいる。
「紅雷、先にシャワーを……まっ」 鎖骨に顔を埋めた紅雷が返事代わりに爪で乳嘴を弾く。小さな痛みは、皮膚の上で、うぶ毛の先で生まれた官能を束ね、熱のうねりとなって雄穂を直撃した。
「裕紀、オレはもう4年、いやそれ以上待ったんだ。これ以上待たせるなら」
 眇めた虹彩に凶暴な光が宿り始める。
「そうじゃなくて。お前は俺にたくさんのものをくれたのに、俺にはもう何も残ってなくて……」
 他にお前にやれるものはないからと、意を決して紅雷の手を下肢に誘導する。
 感嘆したように紅雷が瞠目したのは一瞬で、その眼も、口許にも濃い艶を刷きながら耳に口を寄せてきた。
「いいの?」
 頷いた耳殻への接吻は、世界を真っ二つにしそうな程の威力があった。


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Category: 広くて長い

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広くて長い 14
<14>

 紅雷から 『話したい、会社の表で待っている』 という内容のメールが届いたのは、レジデンスで紅雷と別れた翌日、つまり佐野にクビを言い渡された同じ日だった。
 残業で無理だという断り文章を、すぐに思い直して 『もう会いたくない』 と打ち替えて送信し、着信拒否にした。
 金を作る目処は立たず、退職願も出しそびれたまま。生活も気持ちも何もかもが中途半端に燻った時間だけが過ぎて、手詰まり感だけが濃くなってゆく。
 何かに焦点を定めて考えようとしても、気づけば頭の中は、レジデンスで紅雷と最後に会ったあの時間に連れ戻され、結局、思考はどこにも行くことは出来ないでいた。
 
 駅前のスクランブル交差点に差し掛かった。
 大きな交差点は、流れるヘッドライトや照明で色を変える噴水、広告。駅前は様々な形と色彩の光に満たされた巨大な水槽のようであり、思い思いに行き交う人の群れはさながら回遊する魚のようだ。
 信号が変われば自分も波に乗って、あとはもう何も考えなくても波が駅に運んでくれる。
 その流れの真ん中で、足が止まった。
 自由自在に回遊する魚たちより頭一つ分、背の高い男は真正面から自分に向かって歩いてくる。
「急に立ち止まんなよ、危ないだろ!」 
 すぐ後ろを歩いていたサラリーマンが背中にぶつかり、肩から鞄が落ちた。流れは自分と肩から落ちて散らかった鞄の中身を避けるように別れて、その先でまたひとつになる。
 拾おうと屈むより先に、伸びてきた手が鞄を拾い上げた。散らばった中身を素早く拾い集めた男から鞄を取り返そうとしたが、逆に腕を掴まえられた。
「紅雷……」
「信号が変わる、走るぞ」
 裕紀を掴んだまま紅雷は交差点を走って渡り、そのまま魚の群れの外に連れてゆく。
 ひっきりなしに吐き出される白い息と、皮の手袋を通してもトクトクと早い心拍が、紅雷が走って追いかけてきたことを物語っていた。
「水色のチェックのマフラーした子に教えてもらった。それより…」
 シマちゃんだ。
「これはどういうことだ?」
 人も疎らな噴水の裏側まで引っ張ってこられて、やっと手首が離された。
 紅雷が出したのは退職願の白い封筒だった。鞄の中身を拾った時に見つけたのだろう。
「紅雷、鞄を返せ」
「答えるまで返さない。会社をやめてどうするんだ。まさかまだ風俗を続けるつもりなのか」
 街灯のオレンジ色が落ちる紅雷の眼底が悲しげな色に沈んでいる。トーンの下がった紅雷の声が、視線が紅雷に惹かれる心を追い詰めてゆく。
 もうほんの少し、あともうひと押しされれば、きっと自分は言ってしまう。

「好きなんだよ俺は」
 言葉の意味を図るように凝らした紅雷の目は、すぐ落胆の色に変わった。
「男も、あの仕事も。短時間で効率よく稼げるしな。一時間でコンビニの日当が稼げる仕事なんてそう他にはないだろ」
 初めて自分以外の男の性器に触れた時、身の毛がよだった。だが触れた場所を全て消毒したい衝動に耐え、嘔吐感を堪らえながら性器を口に咥えた時、自分が自分ではなく知らない何者かに変わってしまった気がした。
 ラインを一度超えると、非現実は日常に変わる。感覚を鈍くして思考するのを止めたのは自衛だったかもしれない。クラブからメールを受け取る度、指名した相手のために何かに変わった。
 後はルーティンだ。
 服を脱ぎ、求められればストリップもオナニーもやってみせる。対価に見合う分だけ、相手の欲望も満たしてやる。
「男が、好きなんだ」
 鈍化したまま朽ちてゆく自分を自覚させたのは、紅雷だった。自分は、まるで熟れる前に腐って木から落ちた果実みたいだ。
「嘘だな、裕紀はゲイじゃないだろう」
「そういえば、紅雷とは未遂だったな。今から確かめてみるか?」
 その果実を足で踏み潰した。足下から上がってくる腐臭に顔を顰める。
「裕紀……」
 そう、この顔が見たかった。眼を眇め、蔑みに歪む顔。指先で紅雷の高そうなコートの襟に触れながら、ゆるく首を傾げて、客を落とす時の淫靡な目つきで挑発する。
「上手いぜ俺は。お前は、いい躯してるし、本当は惜しいことしたって思ってた。試してみろよ、お前にも男も悪く無いってわからせてやるから」
 何度も、何度も果実を踏みつけて潰す。学歴も、借金も、仕事も、親も生活も全部。無力な自分も跡形もなく潰してしまえ。
 襟の中に差し込もうとした手を、皮の手袋をはめた手に掴まれた。
「お前にゲイの何がわかる?」
「わかってないのはお前だ! 何が一千万だっ。心のなかでずっと蔑んでいたんだろう。理解のあるふりをして俺の気持ちを、友情を試すな!」
 空いた手で、紅雷の肩や胸を思い切り殴った。その腕も自分の鞄ごと地面に落とした紅雷の手が捕まえる。
「裕紀? 裕紀っ、落ち着けって」
 あふれ出した涙を拭うにも、両手を奪われてどうすることも出来ない。
「言ってやるよっ!」
 がくりと頭を垂れ、同じ年の男の前でみっともなく泣きじゃくりながら白旗を上げた。
「お前が好きだ。友情とは別の感情でだ。自分でもどうしたらいいかわからない。やめたいのに、やめなくちゃいけないってわかってるのに、気持ちが止まらない」
 紅雷の返事はない、当たり前だ。下を向いた口許が自嘲に歪む。
「男にこんなこと言われて、気持ち悪いだろ」
 顔を上げると、表情の固まった紅雷と目が合った。
「そんな顔しねえで、気持ちが悪いってはっきり言えばいいだろ、言えよ! わかったろ、手を放せっ。それでもう、二度と俺に構うな!」
 
 引き抜こうとした両手を、逆に引き寄せられた。
「裕紀、同性愛がそんなに悪いのか。いけないことなのか?」
 言葉の内容より紅雷の気迫に圧されて思考が止まった。
「え……」
 聡明で猛々しい。なのに傷を抱えたような紅雷の顔を、車のヘッドライトが照らしては過ぎてゆく。紅雷は、ガードレールの外の車道に裕紀を引っ張っていった。
「紅雷?」
 空いた方の手を上げ、タクシーを止めた紅雷が横顔を見せて言う。
「オレはゲイだ」
「え……」 
 眩しいライトの光でくっきりと紅雷の姿が浮かび上がる。
 光の中で上がっていた紅雷の手がスローモーションのように動き、自分の後頭部を捉えたと認識するより先に、唇が重なった。握った手を強く握られて、思わず呻き声を上げた唇をかるく啄んで紅雷は離れた。
「気持ち悪いか?」

 強い眼差しに射抜かれ、ただ紅雷を見返すことしかできなかった。

タクシーのドアが閉まる音を上の空で聞いた。
 男同士のキスを目撃した運転手は一言も喋らず、逃げるように公園と塀の間の道をバックで走り去っていった。
 細い道の奥にレジデンスの玄関の明かりが灯る。いまだ事態を吸収しきれず突っ立ったまま裕紀の手を取り、その光の中に飛び込んだ男にようやっと声を掛けた。
「紅雷、ちょっと待ってくれ」 身を切るような冷たい空気に息が凍る。 
 紅雷がゲイだったことに驚いているのか、それとも紅雷が自分にキスしたことに驚いているのか。何をどう聞けばいいのか、
 唇が熱い。唇を抑えようと上げた手をそっと払われ、紅雷が再び唇を寄せてきた。
 重なる手のひらで生まれた熱がじわりと伝わってくる。心臓が今までとは違う音を鳴らし始め、全身にちりちりとした高熱が散らばり出す。
「裕紀、頼むから今は何も言わないで欲しい」 
「いや、でも……ブッ!!」
 その先は、紅雷に言われた通り何も言うことは出来なかった。紅雷に誘われるように門扉を潜るなり、頭から大量の冷水を浴びせられたのだ。

「紅雷! お前も東夷のクラブの事を知っていたのかっ!?」
 薄暗い前庭で仁王立ちし、撃ち殺すぞとばかりにホースの銃口を向ける男にふたりして震え上がった。
「ん……もしかしてお客か?」
 殺気立った形相の男は、背の高い紅雷の後ろに隠れた裕紀に気が付いたらしく、構えていた銃口をおろした。だが既に髪もコートもびしょ濡れで、一番下のシャツにまで冷たい水が染み込んで、歯がかちかちと鳴った。
「ひどいよ、晴人。こんな寒い日に門を潜るなり水をぶっかけるなんて。裕紀が風邪引いたらどうしてくれるんだよっ」
 晴人と呼ばれた男は、軽く会釈した裕紀より紅雷と繋いだ手の方をみて目を瞬かせた。そして 「巻き添え食らわせて、悪かったな」 とバツが悪そうに笑った。
 はっとするほど美しい声と容姿の男だ。
「アルデバランのこと、とうとう晴人にバレたんだ」
 華やかな花が綻んだようで、視線を持っていかれる。こんな綺麗な男は初めて見た。
「俺の情報網を侮るな。俺が演奏旅行で家を空けてるのをいいことに、二部屋もいかがわしいデートクラブの客室に使いやがって」
 じりじり怒りが再噴出し臨戦態勢モードに戻りつつある晴人を警戒するように、紅雷が裕紀の手を引く。
「俺はお客さんだし、クラブのことは東夷とふたりで話し合えよ」
 そう言って裕紀を連れ、晴人の前を立ち去りかけた紅雷が不意に振り返り、念を押すように言った。
「わかってるとは思うけど、上には上がって来んなよ!」
 
 服が乾くまでと渡された紅雷の服はシャツも綿ズボンは少し大きい。
 そのせいか、繋がっていた紅雷の手が離れたせいか。心もとなさを感じながら見覚えのある大きなソファに座っていた。紅雷が薄い翡翠色の液体が柔らかな湯気を立たせる汲出碗をローテーブルに置くと、裕紀の横に腰を下ろす。
 ふくよかな梅の香りに誘われて、温かい碗を手に取った。
「梅昆布茶、好きだったろ」
「そんな些細なこと、よく覚えてんな」
「覚えてるよ。そんなこともこんなことも、あの頃の裕紀のことは全部。わかってないのは、裕紀の方だ」


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